こんな雨の日は、あの人が泣いてる。
「・・・なんで、そんなこと、するん」
「・・・人助けだよ」
「は、、?」
[003:cry in the rain]
結局クラブに行ってみても、楽しみ方もいまいちわからなかったゆかは、
自らもう一度、足を運ぶことはなかった。
だけど、週に二度は上のカフェサウンドに行く。だってここおいしいんだもん。何食べても間違いない。
それに下のクラブと違って店員さんも感じがいい。
あとから聞いた話だと、カフェの店員さんとクラブのスタッフ一緒らしい、、。
何これ?カフェマジック?
今日のお昼サウンド行こう、ってカヨちゃんにメール。だけど、
『ごめーん。今日午前休なんだよー。』
そっか。ま、仕方ない。
でも、どうしようかなぁ。どーしてもあそこのハンバーグプレート食べたい!
先日のクラブに行ったことも手伝って、カフェにひとりで行くのは、さほど困難じゃなかった。
てか、ゆかもう21だし。カフェくらいひとりで入れるし、、。
東京に出てきてもう二年もたつのに、今だにひとりでお店に入るのが慣れない。
そもそも、ひとりでいることがあまり得意じゃないから、カヨちゃん休みだと困るんよね。
友達つくろっかな、今更だけど、、。
東京の人って、冷たいイメージあるし、なんか地方馬鹿にしてそうだけど、案外いい人もいたりして?
そういえば仕事先の店長は東京人だけど優しいし、、。
そんな事を考えながらカフェに到着。席につくと笑顔でメニューを渡された。
メニューを受け取って笑顔のお返し。あれ?でも友達ってどうやってつくるんだっけ?
ご希望のハンバーグプレートを頼んで雑誌に目を落としてると、急に甲高い声が聞こえてきた。
「あれー?」
まったく。他のお客さんもいるんだから、待ち合わせならもうちょっと静かにしてよ。
言いたい言葉を水で流し込んでお腹の中に溜めた。
「やっぱりそうだー!」
急に肩を叩かれて視線をあげると、そこには“あ〜ちゃん”
え?なんで?
「へ?」
「えー?この前、下、いたでしょー?」
「あ〜ちゃん見たんよー」
「あ!あたし、あ〜ちゃん!西脇綾香ね?あ〜ちゃんって呼んでー」
この子は語尾を伸ばさないと喋れないのか?
てか、何でそこ座る?
てか、何?何よ!?
意味わかんない。
「えー?なに、ちゃん?」
ん?これは、ゆかにだよね?
ゆか、名前聞かれた?
「か、、樫野、有香です。」
「わー!じゃ、ゆかちゃーん」
なんなんだ?この人は。
綺麗な顔をくしゃくしゃにして笑って。えくぼまで見せちゃって、こんなに懐っこくて、、、
想像と、全然違う、、。
「ん?ゆかちゃーん?」
目の前で手をヒラヒラさせてる“あ〜ちゃん”
自分がボーッとしてることに気付いた。
「あ、はい」
「ふふwおかしーのー」
何でも、この前クラブに行った時ゆかのことを見たそうな。
話し掛けようと思ったら、もういなかったそうな。
「でも、何で?ですか?」
「えー?」
「何で、ゆか、に?」
「えー…、、あ!ゆかちゃん可愛いからー」
また笑顔を見せて無邪気に笑う。
可愛いなんて言われて嬉しくない人はいないよ。
でも完璧に朝会ったことは忘れてるな。てか、あの時はシカトだったし、、。
でも、ま、いいか。多分あの時は急いでたんだ。こんないい子だもん。
うん。いい子に決まってる。
その後一緒にランチして、あ〜ちゃんは自分の事をベラベラ話してくれた。
カフェの近くの有名なお嬢様女子大に通ってること、本当にちょっとセレブちゃんなこと。
お洒落が好きで読モやってて、友達が多いこと。
だからゆかも自分の事を話した。
携帯ショップで働いてて一人暮らししてて、友達が少ないこと。
そうしたら、「じゃ、あ〜ちゃんと友達になろー!いっぱい遊ぼー!」って、
あのえくぼを見せて言ってくれたから、涙が出るほど嬉しかった。
東京女じゃないけれど、この大都会でこんなにも輝いてるあ〜ちゃんが羨ましくて、凄く可愛くて、
そんな人に“友達になろ”なんて言ってもらえたのが、すっごくすっごく嬉しかった。
あ〜ちゃんはいい子だった。
あとでカヨちゃんにも教えてあげよ。
————————————
「ねぇー」
「んー?」
「隣の部屋の子、知ってる?」
「いや」
「この前クラブにいてさー」
「うん」
「一緒にいたから何者だ?って思って今日声かけたー」
「ふーん。・・・で?」
「全然たいしたことなかった」
————————————
それからしばらくしたある日、家に帰ると玄関の前に人が。
何?怖っ!
よく見ると、隣の201の前だった。
黒ずくめの格好の人がなにやらゴソゴソしてる。
その横を通って、足早に部屋に入ろうとしたら、
「あれ?」
見たことあるショートボブ、ヘッドフォンに超美人。
間違いない、、
「あー…、、えーっと?」
「あ、202の樫野です。樫野有香」
「あー、かしのちゃんね!どうもどうも!いやー困った、鍵がないんよー」
「へ?は、はぁ、、」
「あはぁwあっ!あったあったー」
この脈絡のまったくない会話、ゆかにどうしろと?
てか、え?ちょっと、待ってよ、、
「え?お隣さん、ですか?」
「んー?あぁ。そうゆーことになるねー」
よろしくー、そう言って美人が笑った。
あ、あ〜ちゃんみたい。あ〜ちゃんみたいに無邪気でかわいい。
ん?待てよ、、そういえば、あ〜ちゃん、、
「あ〜ちゃんと、あの、、」
「あ〜ちゃん?あぁ、あやかぁ?友達?」
「へ?あ、まぁ、」
「あー、そんなこと言ってたなー」
「はぁ…」
「今度紹介するっつってたかなー…うーん、、先に出会っちゃったね?」
うわーー、、軽い!このノリは何?
女の人なのに、超美人なのに、軽ッ!!
かなりナンパな匂いがプンプンするんですけど。あ〜ちゃんのことも呼び捨て?
てか、出会っちゃったね?ってなにーーー!?その笑顔はなにーーー!?
すっげぇな、、東京って怖い。
「ゆかちゃーん?」
目の前で手をヒラヒラ。あれ?この前あ〜ちゃんにされたばっかりよ。てかあ〜ちゃんとこの人、、
どんな関係よ!?え?そんな関係!?ちょ、何でもあり?すっげぇ…ゆか、全然わけわからん。
てか、何?今度はゆかちゃん?って、距離縮めるのはえー!何?なーにー
「おーーーい!」
「うわっ!びっくりしたぁ…」
ボーッとしすぎた。ちょっと魂飛ばしすぎたな。
目の前の美人は困った顔で笑ってた。
「じゃあ、またね?」
「あ!」
「ん?」
「な、まえ…何、さん?」
もちろん表札もないからわからん。
本当は“のっち”って呼ばれてるの知ってるけど。
「あぁ。彩乃。大本彩乃さん」
「え?は、ぁ…大本さん、、」
「ふはw何でもいいよ。好きに呼んで?」
「・・・のっち?」
“のっち”は一瞬驚いた顔をした。何で知ってんの?って顔をした。
自分が超がつくほどの人気者って気付いてないのかな?
でもゆかは、知った時からずっとそう呼びたかった。
それは惚れた腫れたとかじゃなくて、憧れとかミーハーな感じでもなくて。
ただ東京に近付けると思ったから。東京のお洒落な友達がずっと欲しかった。
「あ!そういえばノイズで会った子だー!」
今頃気付いたんかーい!!
それからまたしばらくして、部屋の壁をノックする音が聞こえた。
あ、あの時ものっちだったのか。じゃあ最後のは“ごめんね”だったのかな。
さすがお洒落な人はやること違うね。確信はないけど、ゆかは信じてやまなかった。
壁がノックされると外に出て、ベランダ越しに会話するのが決まりになった。
「鍋するけどきますかー?」
「わーいくいくー!」
「ビールあるー?」
「うん、持ってくねー!」
あ〜ちゃんとランチして、映画に行って。のっちとベランダでお喋りして、三人で鍋をして。
そうこうしてる間に耳障りだった二人の話し方が移っていた。
それはとても自然なことで、ゆかの口にもばっちり馴染んだ。
東京にきて二年。初めてこっちで友達ができた。
嬉しくてゆかは、馬鹿みたいにはしゃいだ。
ビールがなくなって買い出しに外に出ると雨が降っていた。
あ〜ちゃんが傘をさしてくれたけど、ご機嫌に酔っ払ったゆかには、
冷たい雨が気持ち良かった。
最終更新:2009年11月11日 03:46