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それはいつも雨の日で、結局はあなた次第。
「ずるいでしょ?」
「いや…すごい、と思う」
「・・・あまい、よ、」


[004:It’s up to rain ]


201号室の隣人は、めったに部屋にいない。何してんだろ?てか、ゆか知らないことが多すぎる。
それなのにちゃっかり部屋にあがってビールまで飲んで、恋人の手料理までご馳走になってる。
そもそもあ〜ちゃんは、のっちの恋人なの?二人はそうゆう関係?
偏見はないつもりだけど、正直驚く。東京って自由だ。
こんなにも自由なのに退屈で、ゆかは何をするにも勇気が必要なのに。あの二人といったらどうだ。
一方は、賢くて、華やかで。着実に東京を染めていってる。
染まるんじゃなくて、自らを東京に示しているみたいだ。本当すごい。かっこいいし、尊敬しちゃう。
で、もう一方は、、
やっぱり知らないことが多すぎる。何者なんだろ?
ただ言えるのは、ふわふわと空を漂う雲、みたいだ。掴みたくても掴めない。
現実に固体としてそこにないんだから。そんな存在。
結局のところ、いくら考えたって、よくわからない。
でも、何だか知ってはいけないような…そんな気もする。
数日前、201号室から聞こえてきた深夜の声は、間違いなくあ〜ちゃんのものではなかった。
やっぱり、知ってはいけないことが多すぎるから、知らないことが多いんだ。





「ランチしよー」
あ〜ちゃんからの急な誘い。嬉しくて、カフェに迎う足取りが軽い。
この日初めて、カヨちゃんとの約束をドタキャンした。


サウンドにつくと、あ〜ちゃんは男の人と親しげに話してた。
細身でパーマ。白Tにスキニー。後ろ姿は今時の草食系男子。
ゆかに気付いたあ〜ちゃんが、彼を押して「またねー」と、あの独特な甘い声で言った。
すれ違ったその人は、目付きが鋭くてギラギラしてて…ちっとも草食系じゃなかった。
どっちかってゆーと肉食系。ハイエナ、みたいな。あ〜ちゃんを狙う、ハイエナ。


「ゆかちゃーん!おそー」
「あ、ごめんごめん、、今の、だれ?」
「あースガワラッチ?バンドマーン」
へー。バンドマン。ま、そんな感じだわ。
って、あ〜ちゃんライブハウスにも行くんだ?ちょっと意外。
「今度ライブきてーって」
「ふーん、、行くの?」
「んー…一緒に行ってくれるー?」
へ?ゆか、が?えー!どうしよー。
今、ゆかニヤけてないかな?やばい。
あ〜ちゃんからのお誘い。嬉しくないはずない。でも、、
「いいけど、、のっちは?いいの?」
「えー?なんでー?」
あ〜ちゃんはすっとんきょうな声を出した。
え、だって…のっちと付き合ってんじゃないの?
「だったらのっちも誘うかー?」
え、いやいやいや!そうじゃなくて、いや、それもそうだけど、、
「いや、うん。そうだね…じゃなくて!」
「なんよもーw」
あ〜ちゃんはわけわからん、って顔で手をバタバタさせて笑った。…可愛い。
これと、、あれ、かぁ。
この子と、、あの美人、かぁ。
うーん、、ま、わからなくもないけど、、
やっぱりわかんない。
「のっち、心、ひろい系?」
言ってる意味、全然わかんない。
自分で自分が何言ってんだかわかんない。
「なにそれーw」
案の定、あ〜ちゃんはそう言って笑った。




「いや、あ〜ちゃんが、他の…男の子と遊んでもなんも言わんの?」
「えー?なんでよ?」
「だって…付き合って、る、、」
おそるおそる聞くと、あ〜ちゃんは吹き出して笑った。
「うわー!ないないー!のっち?無理無理!絶対やだー」
「えっ?」
「なん?ゆかちゃーん、そっち系?のっち狙い?」
「いやいやいや、違う!全然違う!!」


勘違いしてるよ。のっちとは友達。付き合ってないし、あ〜ちゃん男が好き。まぁよく言われるけど。
って笑いながらあ〜ちゃんは言った。
でも、ゆか聞こえてるんだもん、声。


「まぁ、でも…ただの友達とは違うよねー」
そう言ってあ〜ちゃんはゆかに顔を近付ける。
え?何が?そう聞こうとしたら、あ〜ちゃんが小声で爆弾投下。


「のっち、エッチなんだもーん」


ゆかちゃんも気を付けてー。そう言って笑った。まるで楽しんでるみたいに。
声、聞こえた?壁、薄すぎじゃね?
くすくす余裕な笑みを浮かべて、あ〜ちゃんは笑う。


どーゆーこと?ゆか全然わかんない。
東京って自由だ。自由すぎて、ちょっと怖いかも。


ゆかが黙ってると、それに気付いたあ〜ちゃんは、ごめんごめん。と、ゆかの腕を叩いた。
「大丈夫よ。のっち、自分からってタイプじゃないしー」
怖がらなくて大丈夫。獣だけど、狩人じゃないからって。
「・・・え?でも、じゃあ、あ〜ちゃんは?」
すると、うーん、と首を傾げて、わざとらしく悩み顔を作ってみせた。
「んー…くされ縁?」


ゆかはあ〜ちゃんとのっちの関係を知りたくなった。
もっともっと知ったら、もっともっと仲良くなれる気がした。
でも…のっちのこと知るのは、やっぱりちょっと怖いな。
知らなくてもいい世界があること。わかってるはずなのに、浮かれてるゆかは、手を伸ばしてしまった。




一言で言うと、いい加減。馬鹿でアホで世間を舐めてる。で、そこが自分の武器だって気付いてるから尚更タチが悪い。誰にでも優しいけど、誰にでもヤラしい。本当どーしょもない。でも絶対に自分からは誘わない。ゴタゴタは嫌い。フラフラしていたい。そのくせプライドが高い。まったく困ったやつなんよー。ま、プライドは私の方が高いけど。


そう言ってあ〜ちゃんは笑った。


なんで友達かってゆうとね?実は地元が一緒。中学の時の同級生で、その頃のっちはすっごい悪くて、学校にもあまりこないし、髪なんか真っ赤に染めてみたりして、よく生活指導室に呼ばれてたっけ。んで、のっちのお母さんがうちの会社で働いてて、そこから仲良く…んー仲良くはなかったけど、ちょっと話すようになって。私こんなだから、気になっちゃって。まわりものっちのことビビってるから、仲良くなって忠犬にしたらかっこいいかなぁ、って。でもよくわかんないまま中学も卒業しちゃって。私は超進学校に行ったんだけど、のっちは定時制の夜間に行って。そこからはあまり知らないんだけど、まぁ、両親がゴタゴタしたり、相変わらずのっちは真面目とは言えなくて。で、そんなのっちのこともちょっとずつ忘れていって、大学に進学したわけ。あ、そこのね?超おじょー様ってゆーの?


あ〜ちゃんは言いながら、自分のことを自分で馬鹿にするように笑った。
そんな顔しなくていいのに。ゆか、あ〜ちゃんのことすごいって思う。
こんなに華やかな世界にいるのに、ちゃんと先を見据えてて、友達も多くて。


「それでね、、」


あ〜ちゃんは続けた。マシンガントーク。いったいいつまで続くんだろ?
あ〜ちゃんとのっちの絆はどこまで続くんだろ?
どれだけ深いんだろ?





大学の友達とサウンドやノイズにくるようになって、だんだん友達も増えていって。いっぱい恋愛もして、ってなった時に、のっちと再会したんよ。それはそれは最低な再会で。当時のっちはモデルの仕事をちょこちょこやってて、あ、今もやってんのかな?まぁ、やってて、ちょっと有名だったの、この辺じゃ。それであ〜ちゃん、こいつ友達だ!って言ったら皆に嘘だー、って言われて。じゃあ紹介してよーってなって。なんかその頃大学の子たちと、誰が一番顔がひろいか?みたいな、なんかそーゆーくだらない感じになっちゃって。だから、そこであ〜ちゃんがそんなちょっとした有名人知ってるなんて言ったもんだからー。んで、まぁのっちがDJするって噂で聞いたからノイズに来たわけ。そしたらまぁなんと!先に来てたあ〜ちゃんの友達とヤッてたんだわ、あいつ。トイレで。鍵もかけないで。その時の友達の顔忘れないなー。私の方が仲良いでしょ?って得意げでさー。別にそんな諸事情知らないから、のっち悪くないんだけど、頭にきておもいっきりひっぱたいてやったわけ。せっかくの再会なのにあんたのこんな姿見たくなかったー、って。したらのっちは、お前誰だよ?みたいな顔して不満げにしてたけど、『あんた変わっとらんね。てか、もっと悪くなった』って言ったら急にパァって明るく笑って『あやかかー』って抱きついてきて。抱かれてた友達は呆然としてるし、私は汚い指で触るな!って思ったけど、無性に愛しくなっちゃって。それで『誰彼構わず手出すくらいなら、あたしにしときんさい!痛い目みるよ!!』って、、、そんな感じ?


最後に両手を顔の横でパッと広げて笑った。なんともすごい話だ。
どうやらその頃からずーっと今の関係が続いているらしい。
でも、いまいちのっちのくせの悪さは直らないらしい。





「じゃぁ、付き合えばいいのに、、」
素直な感想。誰だって、そう思うはず。
「んー…そうゆう好き、じゃないんだよねー」
それはお互い様で、むしろ私彼氏いるし。のっちは…好き、とか、わからないんじゃない?
あ〜ちゃんはちょっと静かに言って、小さく笑った。


「ふーん、、じゃ、なんでそんなことするん?」
実際ゆかにはわからなかった。
そんな関係、テレビの中の世界だと思ってたし、むしろ、女の子同士だからそれすら飛び越えてる。
もう、マンガの世界じゃん。全然わからないよ。


「んー…人助け?」
あ〜ちゃんはまた笑った。それは屈託のない笑顔。
「・・・は?」
「誰かがのっちに捨てられて傷つかないようにー」
あぁ、そっか。なるほどね。あ〜ちゃんなら、好き、じゃないから傷つかないってこと?
お互いがお互いにとって大切な存在で、都合のいい存在、ってことか。そっか。
でも、ゆかは普通の友達でいいよ。普通の友達がいいよ。二人と普通の友達になりたいよ。


「ゆかちゃーん」
「うん?」
「あ〜ちゃんね、」
「うん」
「最初ゆかちゃんのこと何者だー?って思ったから声かけたんだー」
「・・・ん?なに?」
「ノイズでのっちといた、でしょ?」
「・・・あぁ!」
「だから」


ん?わかんないよ、あ〜ちゃん。
ゆか、さっきからわかんないことだらけだよ。


「あいつ甘ったれるからさー、モテすぎると」
「うん」
「だから、ゆかちゃんのっち狙いかなーって…ごめんね。ちょっと試してた」


あまり見ない真剣な顔にドキッとした。
すごく、きれい。強い。強い女って感じ。


「いいよいいよ!そっかぁ、そんなにモテるんだー」


もうね、半端じゃないよ?まったくあいつのどこがいんかねーあ〜ちゃんにはわからーん。って笑った。
うん。やっぱりあ〜ちゃんは笑ってる方がいい。
だって、すごく可愛いもん。


「ごめんね、ゆかちゃん。だから、これから普通の友達になってくれるー?」
そう言って、見たこともない優しい笑顔になった。
ゆかは勢い良く首を縦に振った。


結局その日は途中で雨が降ってきて、二人で慌てて走ってゆかのアパートに帰ってきた。
困ったねーって言いながら、ずぶ濡れの自分たちを見て二人で笑い合った。
その夜あ〜ちゃんはゆかの部屋に泊まって、隣から聞こえる声に「きもちわりー」って言って大爆笑して眠りについた。






最終更新:2009年11月11日 04:20