(side.N)
あたしが、あ〜ちゃん、ゆかちゃん…二人と付き合い始めてから一か月くらい経ったある日のこと。
あたし達はある地方でのお仕事を終えて、今晩泊まるホテルに向かっていた。
スタッフさんが車を運転してくれて、あたし達は少し疲れたようにくたっと座席に座って。
あたしの右にはあ〜ちゃんが、左にはゆかちゃんが座っている。
「少し、疲れたね…」
言葉の通り、ゆかちゃんの顔には疲れが見える。
「うん…朝早かったけぇ、もう眠い…」
あ〜ちゃんは目を閉じて、眠そうにそう呟いた。
「ホテルまではまだ少し時間かかるから、寝ててもいいよ」
スタッフさんがそう言ってくれた。
「ん…じゃあ、あ〜ちゃん少し寝る…」
そう呟いたかと思うと、あ〜ちゃんはあたしの手を握ってきた。ゆかちゃんには見えない角度で。
内心すごく驚いたけど、顔には出さない。クールなのっちを演じる。
「じゃあ、ゆかも…少し寝るね…」
ゆかちゃんも目を閉じて寝る体勢に入った。あ〜ちゃんには見えない角度で、あたしの左手を握って。
(ドキドキする…)
内心穏やかじゃない。
のっちも寝ていいよ、とスタッフさんが言ってくれたものの、あたしは眠らなかった。
手を握られ、横で可愛い寝息をたてられ…。ドキドキして眠れるわけないよ…こんな状況…。
それから30分くらいして、車はホテルに到着した。
二人を起こすと、あ〜ちゃんは結構簡単に起きてくれて。自分の荷物を持って、先に車を降りていった。
ゆかちゃんはまだ起きてくれない。
「ゆかちゃん、着いたよ。ほら、起きて…」
「ん…んん…」
薄く目を開くものの、すごく眠そうな顔。
「ん〜…のっちぃ…」
寝惚けてるのかあたしにキスしようとしてきた。
「ゆ、ゆかちゃんっ!ちょっ…寝ぼけないでっ」
「ん?どうかしたん?のっち?」
あ〜ちゃんっ!今来ちゃだめっ!
「な、なんでもないよっ!大丈夫!大丈夫だからっ!」
「??」
とりあえず、ゆかちゃんっ!早くちゃんと起きてっ!
どうにかゆかちゃんを起こし、部屋に向かう。
中はベッド二つのツインルームだった。
寝ぼけているゆかちゃんを、あ〜ちゃんと二人でパジャマに着替えさせて、片方のベッドに寝かしつける。
横になると、ゆかちゃんはすぐに寝息を立てて深い眠りへと落ちて行った。
「よほど疲れてたんじゃね…」
「うん…今日は一人で寝かせてあげよ?」
この言葉にあ〜ちゃんは頷いて。
あたしはあ〜ちゃんと、窓際のベッドで、一緒に寝ることになった…。
先にパジャマに着替え終わったあ〜ちゃんがベッドに入る。
あたしも着替え終えてベッドへ。なぜか緊張してしまう。
「お、おじゃましま〜す…」
そう言いながらベッドに入ると、あ〜ちゃんが少し笑って。
「そんなに緊張せんでも…」
そう言ったあ〜ちゃんの顔は、気のせいか少し赤くなっていたような気がした。
二人で横になって。
「じゃあ…電気消すよ?」
「うん…」
枕もとのライトを消した。
暗闇の中、あたしはすごく目が冴えていて。
手を少し横に動かせば、あ〜ちゃんの柔らかい肌に触れる…そう思うとあたしの心臓が高鳴ってくる。
(手を繋ぐくらい、いいかな…?)
でも、今のあたしだと手を繋いだだけで何かが外れてしまいそうだ…。
繋ぐか…耐えるべきか…。暗闇の中、一人悩むあたし。そんなあたしに。
「!?」
キュッ…とあ〜ちゃんの方から手を繋いできた。
驚いてあ〜ちゃんの方に振り向く。
暗闇に慣れたあたしの目には、はにかんだ笑顔を浮かべるあ〜ちゃんの顔が見えた。
(やばい…かわいい…)
鼓動が早い…ドキドキしすぎて胸が張り裂けそうだ…。
無意識のうちに、あたしはあ〜ちゃんに近づき、唇を重ねていた…。
「…ん…」
少し驚いたみたいだけど、唇を重ねるだけの優しいキスにあ〜ちゃんも応じてくれたようだった。
手を繋いで、優しく唇を重ねて…それだけで終わらせるつもりだった。
でも。
柔らかいあ〜ちゃんの唇は、あたしをその気にさせるのには十分で。
あ〜ちゃんの頭を引き寄せ、あたしは深く唇を重ねてしまった。
「!?」
驚いたように目を見開くあ〜ちゃん。
あたしを引き離そうと両手で肩を押し返してきた。
でもその気になったあたしは、ただじゃ引かない。いや、もうあたしは引けない。
強引に歯をこじ開けて、舌を絡ませて…。
あ〜ちゃんの唇の柔らかさが、舌の感触が、あたしから理性を奪っていくから。
逃げようとするあ〜ちゃんの舌を無理やり絡ませる。
あたしを引き離そうとしていた両手からはどんどん力が抜けて行って。
(もう少し…!)
あ〜ちゃんがキスに弱い事を知っているから。あたしは手加減することなくキスを深くしていく。
「…んん…ふ…」
嚥下しきれなかった唾液が、あ〜ちゃんの顎を伝い落ちていく。
あたしは唇を離して零れた唾液を舐め取って。
そしてまた深く唇を重ねる。
舌を絡め、吸って…あたしの唾液を流し込んで。
「ぅ…ん…」
コクッ、とあ〜ちゃんがあたしの唾液を嚥下したのを確認すると、あたしはようやく唇を離した。
「のっち…ひどいよ…」
非難するような視線をあたしに向けながら、小声で囁くあ〜ちゃん。
「ゆかちゃんが隣にいるのに…」
責めるような眼差し。
…でもその瞳の奥には、あたしがあ〜ちゃんから引き出した、欲の色が見えた…。
「ごめんね…?我慢できなかったんだ…」
耳元で囁いてあげる。
「あ〜ちゃんの唇が柔らかくて、キスがすごく気持ちよくて…」
手をあ〜ちゃんの胸元に置いて。
「あ〜ちゃんの事…大好きだから…」
柔らかく、あ〜ちゃんの胸を揉んでいく。
「もっとキスしたいし…もっと触れたい…」
立っている胸の頂点をキュッと摘まんで。
「ダメ…かな…?」
甘い声で、甘い顔でそう囁く。
「…でも…ゆかちゃんが…」
確かにゆかちゃんが隣のベッドで寝ている。
ぐっすり眠っているから起きることはないだろうけど…。
「大丈夫だって…起きないよ」
確信なんてないけど、今ここで引くわけにはいかない。
「それに…」
胸の頂点はまだ痛いくらいに立ったまま。
「あ〜ちゃんだって…続き、して欲しいでしょ…?」
ベッドに少し潜って、歯で甘噛みする。
「んんっ…!」
ビクンと反応する体。
「…ね?」
顔を出して、誘いこむように囁く。
「……」
何も言わないってことは、嫌じゃないってことだよね?
チュッ、と軽くキスをして、またベッドに潜った。
パジャマのボタンを外して、素肌に触れる。
あ〜ちゃんのいい香りがして、あたしの体がもっと熱くなる。
舌で胸をなぞって、立っている頂点を口に含む。
「んっ、ん…っ」
大きな声を出さないように手で口を押さえてるみたいだ。
少し残念だけど、隣にはゆかちゃんがいるから仕方がない。
そもそも、今日のあたしはいつもと何かが違う。
あ〜ちゃんを抱くことは初めてじゃないし、何回もしていること。
なのに…今日はいつもより、すごく体が熱くて…気を抜いたら理性なんてすぐに消えてしまいそうな…。
何でだろ…?
パジャマのズボンに手をかける。
あたしのしようとすることに気付いたのか、体を堅くするあ〜ちゃん。
何回もしてるのに…まだ慣れないんだね。
でも、そこがあ〜ちゃんの良い所。いつも初めて抱かれるような反応を返してくれるから。
だから、あたしは節操無く何度も何度も、あ〜ちゃんを求めてしまうんだ。
興奮する自分を抑えられずに、一気にショーツの中まで指を進める。
そこはもう蜜で溢れかえっていて。
あたしのしたことに感じてこんなに濡らしてくれたんだ、と思うと嬉しい。
…それにしても、いつもより蜜の量が多いような…?
疑問に思ったけど、今は何よりも、早くあ〜ちゃんに触れたい…。
割れ目をなぞって、蜜を指に絡ませて。
「あ〜ちゃん…いい…?」
上半身を少し起こして、確認するように問いかける。
暗闇でもわかるくらい顔を赤らめて、恥ずかしそうにコクン…と頷いてくれた。
(っ…可愛すぎ…あ〜ちゃん…)
あ〜ちゃんを見つめながら、少しずつ指を進める。
柔らかくて、熱くて…指が勝手に動いてしまう。
「ぅん…っ…ふっ」
感じながらも必死に声を抑えるあ〜ちゃん。
(…ダメだ…やっぱりなんか…おかしいよ…)
頭がカーッと熱くなって、荒くなる呼吸を止められない。
あ〜ちゃんにもっと負担をかけてしまうのに、激しくなる指の動きも止められなくて。
(あ〜ちゃん、あ〜ちゃん…っ)
部屋には、あたしの荒い呼吸とあ〜ちゃんの少しずつ抑えられなくなっている嬌声、
あたしが奏でる蜜の音、ゆかちゃんの静かな寝息…いろんな音が混ざって響いている。
「んっんっ…はぁっ…ふ…っ」
抑えきれない嬌声と感情、体への刺激が、あ〜ちゃんの涙となって零れ落ちる。
(きれい…だな…)
無意識に舌で零れた涙を舐め取る。
あ〜ちゃんが涙まで流しているのに、あたしは激しい想いとあ〜ちゃんを責める指を止められない。
(ごめん…あ〜ちゃん…っ)
悪いと思っても、指をどんどん激しく動かしてしまう。その時だった。
「う…ん…」
ゆかちゃんが、寝返りをうってこっちに向いた。
その瞬間。
「っっ!!」
ビクンッ!と体が跳ねたかと思うと、あたしの指をギュッと痛いくらいに締めつけながら、あ〜ちゃんはイってしまった…。
…あたしはそこで悟った。
今日あたしが自分でもおかしいくらいに熱くなってあ〜ちゃんを求めたのも、
あ〜ちゃんがいつもより多く蜜で濡らしていたのも、全部。
『ゆかちゃんが隣にいたから』
もしかしたら起きるかもしれない…二人のしていることを聞かれるかもしれない…
それが心の底にあったから、二人ともいつもより興奮してたんだ…!
実際、今回は起きはしなかったものの…もし起きていたらあたし達はどうしていたんだろうか…。
そう思うと怖いけど…でも…。
人が近くに居るってだけでこんなに興奮するなんて…少し目覚めてしまいそうだ…。
あたしの激しすぎた愛撫でぐったりしているあ〜ちゃんのパジャマを整えて、優しく唇にキスを落として。
ぎゅっ、とあたしのパジャマを掴んで寄り添っていたあ〜ちゃんも、疲れていたのかすぐに可愛い寝息を立て始めた。
可愛いあ〜ちゃんの寝顔を見ていると、あたしも眠く…なって…。
眠りに落ちる直前…
「…もう……のっちのばか…」
そんな言葉が、聞こえた気がした……
………
「ん…」
目が覚めると、そこには…あたししかいなかった。
「あれ…?」
寝惚けていると、携帯に着信が。あ〜ちゃんからだ。
「のっち〜?もう出るって。はよ準備せんと、置いてくよ〜?」
「ふぇ…!?」
何これ、のっちへのいじめ?
「い、今すぐ行くからぁ!!待っとってっ!」
電話を切って、ベッドから急いで抜け出す。
もっと早く起こしてくれてもいいのに…!そう思いながら出る準備をする。
どうにか準備を終えてフロントに下りると、二人の姿が見えた。
「あ〜ちゃん、ゆかちゃん、おはよ〜!!」
「おはようやないよ。何回も起こしたのにのっち起きてくれんし…」
そう呟くあ〜ちゃん。ちゃんと起こそうとしてくれたんだ…。
「……」
あれ?ゆかちゃん機嫌悪い…?
「ゆかちゃん?おはよ〜」
「……」
グイッ
「いふぁい…いふぁいよ、ゆかひゃん」
何でほっぺたつねられてんの?のっち。
「……」
無言、笑顔でのっちの頬をつねるゆかちゃん。
「あの〜…ゆかひゃん…?」
「気にしないで?のっち。つねりたくてつねってるだけだから」
惚れ惚れするくらいの笑顔だけど、怒りを抑えきれないのか、目元がピクピク引き攣っている。
「のっち…?ごめんなさいは?」
何したんだろ?のっち…わかんないけど、でも怖いから素直に謝っておく。
「…ごめんなふぁい」
「よろしい」
そう言って、やっと手を放してくれた。
…ほっぺた痛いよ…。でも本当、何で怒ってるんだろ?
………
あれ?そう言えば…。
寝る前ゆかちゃんの声が聞こえたような気がするんだよな〜…。
でもゆかちゃん寝てたし…気のせい、だよね…?
「のっち〜!」
「早く来ないと置いてくよ〜!」
あ、やば…早く行かないと置いてかれちゃう…!
「待って〜!置いてかないで〜!!」
荷物を持って、車へと急ぐ。
「のっちはここ」
ポンポン、と座った二人の真ん中を叩かれて。
「うん!」
二人の希望通り、真ん中に座る。
「のっち、もう遅刻はいけんよ」
そう言って、ゆかちゃんに見えない位置であたしと手を繋ぐあ〜ちゃん。
「のっち。ちゃんと早く寝なきゃダメじゃよ」
言って、あ〜ちゃんから見えない位置で手を握るゆかちゃん。
両手を愛する二人に握られて、ドキドキしつつもハラハラするのっちの心。
でも、すごく心地良い。
この心地良い幸せな時間が長く続きますように…。
そう心の中で願う、のっちなのでありました………。
END
最終更新:2008年10月12日 17:04