アットウィキロゴ
「のっち、のっちぃ。」

上目遣いであたしの顔を覗き込む。
ふとしたときにみせるデレなあ〜ちゃん。
普段仕事中のツンあ〜ちゃんの反応が返ってくると思っているときの不意打ちは、
本当にすごい破壊力。
きっと君は気付いてないだろう。
あたしはずいぶんと長い間、君のことが好きなんだよ?


≪ 願い #2 ≫


突然の嬉しい提案で、あ〜ちゃんが家に泊まりにくることになった。
家から一番近いコンビニの前で降ろしてもらい、
なんだかご機嫌なあ〜ちゃんの後について歩く。


なんなんだろう。これは神様からの試練なのか?


お菓子やらジュースやら缶チューハイをどっさりと買い込み、
ふたりなのに買いすぎかねぇ、なんて話しながら家に向かう。
落ち着かない。
あ〜ちゃんはなんで今日こんなにもご機嫌なんだ?
なんで今日、突然泊まりに来るなんて言ったんだ?

”期待しちゃいけない。”

そんな言葉が頭の中で何度も何度も繰り返されていた。


家に着くと、「うん。想定範囲内。」
と言ってあ〜ちゃんが部屋の中をチャキチャキと片付けてくれる。
あたしはその間買ってきたものを冷蔵庫にしまったり、
お皿にお菓子を盛ったりしていた。
自分も動いていないと、心がもたないと思った。

「準備できたよ。持ってきて〜。」

あ〜ちゃんの声を合図に、
プチパーティーの為のものをローテーブルに並べる。
晩酌と言ってお酒を買ってきたものの、
多分あ〜ちゃんは飲まないだろうと思い、
紅茶と缶チューハイを用意する。

「あれ?あ〜ちゃんのお酒は?」

「あ、ごめん。紅茶の方がいいかと思ったから。いま取ってくるよ。」

「もー、子ども扱いしてからぁ。いいよ。のっちの一緒に飲む。」

「別に子ども扱いしたわけじゃないけど…。」

「はい、座って座って。とりあえずカンパーイ♪」

あ〜ちゃんは紅茶のグラスを、
あたしは缶チューハイを持って乾杯をした。

ひと口飲んで缶をテーブルに置くと、
すかさずあ〜ちゃんが缶を取り飲み始める。

「あー、ほんとに飲んだー。やっぱり新しいの持ってくるよ。」




冗談交じりの口調でそう言って席を立つと、
あたしの手を掴んでまぁまぁ、座りんさいよ。
とあ〜ちゃんがあたしを座らせる。
小さなローテーブルを挟んで座っていたのに、
引っ張られたあたしは必然的にあ〜ちゃんの隣に座ることになってしまった。
ち、近いんですけど…。



「…へへ。間接キスじゃね。」



なっ!!
思わぬセリフに顔が真っ赤になったのがわかる。
漫画でよくある、赤面するときの”ボンッ!!”っていう音が、
本当にしたんじゃないかと思った。
しかも、手。
繋がれたままなんですけど…。

当の本人はそんなあたしのことはお構いなしに、
ニコニコしながらちょっとずつ、
ちょっとずつ缶チューハイを飲んでいる。

なんか今日、あたしは飲んじゃいけないような気がする…。
酔ってしまったらイロイロ止まらなくなってしまいそうだ。
ただこの状況で、酔わずにいられるかどうかも問題だけど。
あたしは理性を保つ為に紅茶へと手を伸ばした。

「のっち、どうしたん?手ぇ震えてるよ?」

「んあっ!?にゃんでもにゃいよ!!」

にゃんでもにゃい…。
かっしー、猫おるー…。

完全に思考停止。
隣であ〜ちゃんは楽しそうに”にゃんにゃん”言っている。

「ねぇねぇ、のっち。大丈夫?」

その甘ったるい声と同時に、
あ〜ちゃんがあたしの顔を覗き込んだ。



”あぁ…。もう、だめだ。”



気が付くと、自分の腕の中にあ〜ちゃんがいた。
力いっぱい抱きしめていた。

自分の理性は思ってた以上に脆かった。
取り返しのつかないことをした。
でも、もう耐えられなかった。
もう、戻れなかった。

思わず。

そうか。思わずってこういうことなんだ。

あたしは自分が思っていたよりも冷静で、
抱きしめたあ〜ちゃんの感触を漏らさないように、
忘れないように感じ取ろうとしていた。



「ん、…のっち。苦しいよぅ。」

あ〜ちゃんがあたしの背中をぱしぱしと叩いている。
いまこの手を離して「冗談だよ。ごめんね。」って笑えば、
何もなかったことにでもなりそうなあ〜ちゃんの声色。

ふとモヤモヤした感情がわきあがってくる。

あ〜ちゃんにとって今までの行動は、
ただの友達に対する他愛もないスキンシップなの?
特に意味のないセリフだったの?

考えすぎて、動揺して、期待しちゃったあたしがいけなかったの?

頭に血がのぼったのが判った。
ものすごく恥ずかしかった。

なにがなんだかもうわかんないや…。
もう、疲れちゃった…。


「…その気がないなら、そういうことしないで。」


自分から発せられた声の低さ、冷たさに驚いた。
あまりに頭に血がのぼりすぎて、
自分の行動が制御できなかった。


あ〜ちゃんを抱きしめていた腕を力なく解き、
玄関へと足を向ける。

「…のっち。」

背後から聞こえる、あたしの大好きな声。
滅多に聞くことはない不安と動揺と悲しさを含んだ、大好きな声。

「ごめん。頭冷やしてくるわ。」

チャリ…。
鍵と携帯を手にスニーカーに足を乱暴にねじ込む。

バタン。

最後にちらりと目に入ったのは、
あ〜ちゃんの悲しそうな顔。

きっと傷つけてしまった。
全部自分のわがままだってわかってた。
あ〜ちゃんはなにも知らない。
なにも悪くない。


でも、なかったことにはできない。


なんでこんなことしちゃったんだろう。
時間が戻ればいいのに。
いっそあ〜ちゃんを好きになる前まで時間が戻ればいい。
そうすればこんな思いしなくて済むのに。



神様、お願い。

何もなかったことには出来ないの?





 ≪ つづく ≫








最終更新:2009年11月11日 04:25