【A】
翌日、何故かあ〜ちゃんの家の最寄の駅の改札口にのっちがいた。
「おはよう」
そう言うのっちはまだ暑いのにいつものストールを巻いている。
「おはよう」
もしかして、昨日痣を見られたから心配して来てくれたのかな?
「一緒にがっこ行っていい?」
「・・・うん」
あ〜ちゃんたちは一緒に電車に乗った。
満員電車で立ってるのがやっとの状態。必然的にのっちと密着する形になった。
ヤバイ、のっちがめっちゃ近い。
昨日のっちに抱きしめられた事を思い出してしまった。
ヤバイヤバイ、あ〜ちゃん絶対今顔真っ赤だ。恥ずかしい。
「大丈夫?苦しくない?」
のっちが小声で耳元で囁く。ドキっとした。
目線だけ少し上げると、のっちはハノ字眉になってた。
そして見る見るとのっちの顔も赤くなっていった。
満員電車の中、ふたりして赤面してるって・・・なんだか可笑しい。
電車を降りて学校まで徒歩。
その間、のっちは不自然すぎるほど、あ〜ちゃんの痣の事は触れなかった。
誰も知らないようなお笑い芸人の話や、今ハマってるTVゲームの話をノンストップで喋ってた。
これってもしかしてのっちなりの気遣いなのかな?
不器用すぎるのっちの優しさにちょっと可笑しくなった。
「そうだ!あ〜ちゃん今日暇?」
突然のっちが思い立ったように訊いて来た。
今日は彼との約束はないから暇っちゃー暇よ。
「うん。特になんもないけぇ」
「じゃあさ、一緒に遊ぼうよ。のっち今日バイト休みだから暇なんだよね」
のっちのすこしだらしがない笑顔は見てると不思議と和む。
「ええよ。何して遊ぶん?」
「うーんと、カラオケとか?カフェとかファミレスでまったりするとか?」
「ええね。じゃあ、今日はのっちとデートじゃねw」
あ〜ちゃんがそう言うと、のっちはまた赤面になった。今日ののっちはゆでだこみたい。
【N】
おいおい、デートって言葉・・・あ〜ちゃんからの口から出てくるとは、思ってもみなかった。
電車の中でも、上目遣いで見てくるし、のっちは今日は朝からドキドキしっぱなしだよ。
とりあえず、今のっちに出来る事はあ〜ちゃんを楽しませる事って思った。
だから、あえて金髪ヤローの事、痣の事は訊かない。
きっとあ〜ちゃんも訊かれるの嫌だろうし、訊かれたら訊かれたでどう答えていいかわからないだろうし。
放課後は、金髪ヤローの事を忘れさせてあげるくらい楽しませてあげよう。
よしよしこれで村人Aから兵士Aってくらいにランクアップしたかな?
【A】
のっちとのデートは楽しかった。
のっちが異様に高いテンションで可笑しかった。
久々に声を出して笑った気がした。
ずっとのっちと遊びたかった。
でも楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
それを終わらせたのが携帯の着信音。
【N】
あ〜ちゃんとのデートは成功だった。
とにかくあ〜ちゃんはケラケラ笑って楽しそうだった。
誘ってよかった。あ〜ちゃんがあんなに楽しそうに笑ってるの初めてみるよ。
また好きになっちゃったよ。
一緒にいる時間が長くなるほど、どんどん好きになっちゃうよ。
ファミレスで、ちょっと早い夕飯をふたりで食べてると、あ〜ちゃんの携帯からあの初期設定の着信音が流れてきた。
その音を聞いてふたりして一瞬硬直した。
あ〜ちゃんの顔が瞬時に青ざめた。
「ごめん。ちょっと・・・」
あ〜ちゃんはのっちに対して申し訳なさそうに携帯を持って、席を離れた。
最悪だ。
今さっきまで最高に楽しい時間を過ごしていたのに、たった携帯の着信だけで地獄に突き落とされた。
金髪ヤロー、すげぇ・・・。さすが、王子だけあるわ。
のっち見事に完敗じゃん。村人Aから兵士Aにランクアップしたのに、もう瀕死の状態じゃん。
ヤベー・・・。どうすりゃいいの、この空気。
あ〜ちゃんが帰ってきた。
明らかにテンションがた落ちって感じだ。
「ごめんね、のっち。あ〜ちゃん、ちょっと急用が出来たけぇ。帰るわ」
マジかよ。帰っちゃうの。
てか、奴に呼び出されたんでしょ。ダメだよ、行っちゃ。また、痣が増えるだけじゃん。
「・・・わかった。じゃ、駅まで送るよ」
「うん・・・。ありがと」
のっちはまだ食べかけのぺペロンチーノを残して、あ〜ちゃんと一緒に駅に向かった。
駅に着くと会社帰りの人たちで混雑していた。
「じゃあ、ありがとう。また明日学校でね」
あ〜ちゃんが弱々しく手を振ってきた。
のっちはその手を掴んだ。
「アイツのところに行くんでしょ?」
そんな弱ってるあ〜ちゃんを放っておけるわけないじゃん。
「うん」
「行かないでよ」
のっちはあ〜ちゃんを真っ直ぐに見る。
あ〜ちゃんは泣きそうになってる。
「無理。行かなきゃいけんのよ」
あ〜ちゃんの掴んだ手に力が入った。
「行っちゃダメだよ。また傷つくよ」
「そんなんわかっとるけぇ!でも、どうしようもないんよ・・・放して!!」
のっちの手はあ〜ちゃんにいとも簡単に振り払わされた。
のっちはあ〜ちゃんを追いかける事が出来ずに、ただ地べたに座り込む事しか出来なかった。
自分がこれほどまで無力なのかって、初めて気付いた。
なんの役にも立たない自分が心底嫌んなった。
好きな人が嫌な奴に傷つけられてるのを知ってるのに、何も出来ない悔しさ。
そんな自分に腹が立った。
そんな自分に泣けてきた。情けなすぎるだろ。がんばれよ、自分。
がんばれよ。
最終更新:2009年11月11日 04:29