【N】
それから三日間あ〜ちゃんは大学に来なかった。
携帯に電話してもメールしても反応はなかった。
のっちは心配になってかしゆかに相談した。
「ねぇ!あ〜ちゃんと連絡がつかないんだけど・・・」
「えっ?あ〜ちゃんなら新型にかかっちゃったみたいよ」
「新型って?インフル?」
「うん。のっち、知らんかったの?」
「うん」
「そうなんだ。てっきり、あ〜ちゃんから聞いてるかと思った」
流行のインフルにかかっちゃってたから、連絡が取れなかったのか・・・。
誰にうつされたんだろう?まさかの金髪ヤローか?
「かしゆか!!これからお見舞いに行こう!!」
「いやいや、ダメだってw」
「なんで?」
「あ〜ちゃんに、『うつすといけないから来ちゃダメ』って言われたんだもん」
「マジか!」
うー・・・それでもやっぱり会いたい。あ〜ちゃんに会いたい。
のっちはかしゆかの制止を振り切ってあ〜ちゃんちに向かった。
たしかこの辺だったような・・・。
あ〜ちゃんちに行ったのは一度きり。
しかもだいぶ前だから道順がウル覚え。
のっちは西脇と書いてある標識を探す。
えーと・・・あった!
のっちはインターホンを押す。
【A】
ピンポーン。
あっ・・・誰か来た。
お母さん出てよって思ったけど、買い物行ってて今家にいるのあ〜ちゃんひとりだった。
はいはい、今出ますよ〜。
読み途中の雑誌を置いて、玄関に向かう。
あ〜ちゃんは迂闊にも覗き穴を見ずに、玄関の扉を開けてしまった。
しまった!!
って、思ってももう遅かった。
チャイムを押したのは、のっちだった。
何で来るんよ。
ゆかちゃんに来るなって言ったのに・・・。
こんな姿一番見られちゃいけない人に見られちゃったよ。
【N】
扉を開けてくれたのは、あ〜ちゃんだった。
のっちはあ〜ちゃんの顔を見て、絶句してしまった。
思わず手に持ってたポカリが入った袋を落としそうになった。
たしかインフルで休んでいたはずなのに、あ〜ちゃんは何故か左目に眼帯をつけている。
どうして?
インフルで目をヤラれたの?
って、んなわけないじゃん!!
「目・・・どしたの?」
のっちは真相をわかってたけど、一応訊いてみた。
「あぁ・・・これ?ものもらい?」
あ〜ちゃんはバツが悪そうに笑いながら答えた。
絶対そう言うと思った。
あ〜ちゃん嘘下手すぎ。
その痣は眼帯でも隠しきれてないよ。
あいつだろ?
なに?今度は顔殴ったの?
女の子の顔殴ったの?
なんだそれ・・・。最低最悪じゃん。
【A】
「もう傷つくあ〜ちゃんは見たくないよ」
のっちはハノ字眉になった。
うん。もうあ〜ちゃんも傷つきたくない。ゆかちゃんとのっちに心配させたくない。
でもこれはしょうがないのよね。もう抜け出せないのよね。
ずっと玄関で話してるわけにもいけないから、とりあずのっちをあ〜ちゃんの部屋に上げた。
のっちはベッドの端にちょこんと座って黙ってる。
あ〜ちゃんもとりあえず座る。
沈黙が怖くて、あ〜ちゃんは喋り始めた。
「このワンピース可愛いと思わん?あ〜ちゃんこれ欲しいんじゃけど、高くて買えんのよw」
あ〜ちゃんはさっきまで見てた雑誌を適当に捲って、あれが欲しいの、これが可愛いだの、どうでもいい話題を喋る。
「あ〜ちゃん・・・」
のっちのあ〜ちゃんの呼ぶ声はこれまで聞いた事のない儚げな感じ。
「もういいじゃん。あ〜ちゃん、十分頑張ったよ・・・」
「え・・・」
「もう限界だよ。これ以上続くと、きっと最悪なパターンになっちゃうよ・・・」
最悪なパターンって?
もしかして、あ〜ちゃんが死んじゃうってこと?
あー・・・それは、ないない。
彼、変にそういう所頭いいから、加減して手挙げてるだよね。
病院いかなくて済む程度の力で殴るんだよね。困っちゃうよね。
てか、のっち優しいね。
そこまであ〜ちゃんの事考えてくれてたんだ。
だだの友達なのに、優しいね。
「のっちは優しいね。なんでそこまでして、あ〜ちゃんの事気にかけてくれるん?」
あ〜ちゃんはただ思った事をなんとなく訊いただけだったのに・・・。
「好きだから。あ〜ちゃんの事が好きだからだよ!!」
のっちは半ば半切れ状態でこんな事を口走った。
「・・・うん。あ〜ちゃんものっちの事好きだよ?」
え?なに?なんで、のっちキレてんの?
「あ〜ちゃんが思っている”好き”じゃなくて、そういう”好き”なの!!」
え?どういうコト?・・・そういうコト?
「最初に会った時から好きだったの!一目ぼれなの!ずっと好きだったの!今まで言い出せなかったの!!」
のっちはまだキレぎみで喋ってるんだけど、これって・・・もしかして、あ〜ちゃん告られてるの?
「のっちなら、絶対あ〜ちゃんの事傷つけたりしないのに・・・。でものっちも同じだよね」
「同じ?なんで?」
「同じだよ。傷ついてるの知ってたのに、何も出来なかった。助けられなかった・・・」
そう言ってのっちはギュっと下唇をかみ締めた。膝にある両手は石の様に硬く握り締めていた。
そんな全力で心配してくれるのっちがたまらなく愛おしくなった。
こんな状態のあ〜ちゃんを好きって言ってくれるのっちが愛おしくなった。
そう思ったらなんだか涙が溢れ出た。
気が緩んだんだ。今まで張り詰めたものが一気に切れたんだ。
ホントにあ〜ちゃんは限界だった。
誰かに助けてもらいたかった。でも誰でもいいんじゃない。
のっちだったから。のっちじゃなきゃダメだったの。
もう誰の前でも泣けないって思ったのに。
とうとうのっちの前で泣いちゃった。
【N】
あ〜ちゃんが泣いてる。
のっちは流れる涙をそっと親指で拭ってあげる。
綺麗な涙。って、不覚にも思ってしまった。
「あ〜、ちゃんも・・・」
「ん?」
「あ〜ちゃんものっちが好き・・・」
「え・・・」
まさか、あ〜ちゃんからキスしてくるとは。
あ〜ちゃんとの初めてのキスは涙の味がした。
「こんなボロボロな、あ〜ちゃんでも好きでいてくれる?」
「当たり前じゃん。どんなあ〜ちゃんでものっちは好きだよ」
「ありがと」
てへって笑うあ〜ちゃん。眼帯が痛々しい。でもそれがすごく愛おしいと思ってしまうのは何故だろう。
のっちはこのボロボロに傷つけられた姫を全身全力で守る騎士になるって決めた。
今度はのっちからキスをする。
ギシって、ベッドのスプリングの音が聞こえた。
気付いたらあ〜ちゃんをベッドに押し倒していた。
最終更新:2009年11月11日 04:30