あなたの持つ闇に、冷たい雨の温度は伝わりますか?
「ずっとここにいるから!」
「・・・同情、すんな、、」
「・・・愛情、だもん」
[006:dark in the rain]
行くあてのない枯葉みたいに川に浮かんで、流れ流されて、ゆかは今日まで生きてきた。
だけど、それがよかったのか、災い転じて福となす。大好きな友達ができた。それも二人も同時に。
“それも二人も同時にだ、矢沢!”…あ、昨日のっちの部屋でスラダン読んだんだった。安西監督かわいー。
最近あ〜ちゃんは、三人でご飯を食べてても、ビールを二本くらい飲んだところで帰ってしまう。
単に彼氏に呼ばれてるだけらしいけど。
ゆかが“いいなー”って言ったら、あ〜ちゃんはおもいっきり眉間にしわよせて“全然よくない!”って迷惑そうに言った。
えーっ、てゆかが驚いてる横で、のっちは余裕な表情で笑った。
“自分でも何で付き合ってんのかわからーん”って言いながら、それでもあ〜ちゃんは彼氏の家に帰っていった。
その後ろ姿を見もしないで、“ハラむなよー”ってのっちは笑いながら言った。
玄関のドアを閉める直前、あ〜ちゃんが“死ね”って言うと、のっちはまた笑った。
あ〜ちゃんは違うと言ったけど、のっちはどうなんだろ?
数日前に浮かんだ思考が、最近やたらと顔を出す。ゆかは、何をそんなに知りたがってるんだろう?
ただ二人の、このなんともいえない呼吸みたいな会話を羨ましく思う。
それに入り込みたいだけ、なんだ。ゆかは、そうなんだ。そうゆう人間。
いつだってひとりは怖いし、何かに頼ってなきゃこの街にもいられない。
最近は二人のおかげで慣れたことも強くなったとこもあるけれど、
それでも二人がいなくなったら、と思うとゾッとする。
「ねぇ!あ〜ちゃんの彼氏って、、どんな人?」
のっちは読んでた漫画から目をそらして、かわりにその大きな目でゆかを見た。
「どしたん?急に」
驚いたみたいに言うから、少し焦った。
何か、変なこと聞いたかな?
「いや、別に…ただちょっと気になっただけ、」
のっちは少し笑って、また漫画に視線を戻した。
読んでるのか読んでないのか。何かを迷ってるみたいだった。
「んー、、のっちもよくわかんないんだけどー…」
視線を漫画に落としたまま、のっちは話しだした。
まぬけな声が部屋に響く。
ゆかは次の言葉を期待した。
「・・・どの彼氏のこと聞いてる?」
は??
え???
いやいや、、彼氏だよ。彼氏のこと聞いてる。
どの、とかじゃなくて、彼氏のこと、、
「は?え??」
ゆかがしどろもどろしてるうちに、のっちは読んでた漫画をソファに置いて、ゆかの隣に座った。
「あやかはさぁ、、女豹だから」
そう言ってニカッと笑う。
ガオーッてポーズまでとってる。
「め、ひょう、、?」
「うん。多分、彼氏って思ってないんじゃない?めんどくさいからそう呼んでるだけで」
意味わからん。
あ〜ちゃんまで、全然わからん。
「フランクなんだよねーあのお嬢様は。ずるくて賢くて、それでいて可愛い!それじゃまーしょうがないじゃん?」
しょうがないの意味がこれほどまでにわかんなかったことってない。
でも、のっちがそう言うのなら、そうなんだろうな。
「・・・のっちは?」
「へ?」
「のっちはあ〜ちゃんのこと好き、なんじゃないの?」
不意に口から出た言葉に正直焦ったけど、案外のっちは優しく笑ってくれた。
「好きだよ。もうね、超大好き。あ、でも、そーゆーのじゃなくて、」
勘違いしないでね?あやかとは友達。よく誤解されるけど、そうじゃない。
のっちはあ〜ちゃんと同じような言葉を並べた。そして、
「でも実際ヤってんだけどねー」
衝撃的なことを、何でもない顔して言う。
どこまでこの二人は似てるんだろ。あ、そっか。似てるんだ、二人は。
だから惹かれ合うのかな?
「似てるね、二人は。あ〜ちゃんも同じようなこと言っとった」
「うっそ?まじ?うけるわー」
のっちは子供みたいに笑って、ゆかの肩に頭を乗せた。
「だけど、ゆかちん間違ってる。のっちとあやかは似てないよ。」
「あいつは賢くて艶やかで強いけど、のっちは、そうじゃない」
そんなこと、ない。
喉まで出かかった言葉を、必死で飲み込んだ。
そんな言葉が欲しいわけではなさそうだ。
「のっちはさーあやかのずるいとこもプライドが高いとこもキッツイとこも好きなんだよ」
「全部ひっくるめて。自分とは…やっぱ似てないよ。」
「強いから、好き、なんだ。これがのっちみたいだったら、全然好きじゃなかった」
のっちの真剣な声が、妙に胸にしみた。
それは、叶わない恋に焦がれてるみたいで、ゆかは切なくなった。
「・・・ゆかも、あ〜ちゃん好き、」
「でしょ?」
嬉しそうに膝を抱えてのっちは笑った。
「でも、、のっちのことも、好きだよ?」
ちょっとゆかちーんほれてまうやろー!
なんて、のっちはふさげて笑ったけど、でもゆかは本当。
のっちのことももちろん好き。愛とか、恋とかじゃないけど。
のっちだってかっこいいし、モテるし、ひょうひょうと世の中を渡り歩いて、、なんかそれって凄いじゃん。
だけど、だらしなくて、すぐ人とヤっちゃうし、仕事もろくにしてないけど、
それをチャラにするみたいな無邪気な笑顔とか、気配りとか、知ってるのはあ〜ちゃんとゆか、だけ。
ってゆーのが、何とも言えない。
こんな美人がゆかの肩に頭乗せたり、ふざけて抱きついてきたり、髪を撫でたり。
それって凄いこと。ゆか、なんか凄い!この優越感ったらないよ。
————————————
「好きでしょ?」
「・・・そんなんじゃないよ」
「うそ」
「んー…わかんないやー」
「でも、お気に入り?」
「んー…」
「彼氏いたら、どうする?」
「んー…いないだろw」
「なんか遊ばれちゃいそーフラフラしてるし」
「ははwちょっとわかるわー…って、近付けんなよー」
「でも…だったら、どうする?」
「んー…やめさせるねー」
「好きじゃん!」
「んー…まぁ、その男殴ってやる…くらいには、好きだよ」
————————————
それからまたしばらくして、あ〜ちゃんとランチ。何故だか話はゆかのこと。
地元はどこ?から始まって、彼氏はいるのか?まで。
もちろん友達すらいなかったゆかに、彼氏なんてできるはずもない。
本当は恋愛もしたいし、友達もたくさん欲しかった。
普通から外れるのが怖くて、普通でいたいのに、普通でいることに苦悩する毎日だった。
だいたい普通の基準がわからないし。そこまで話すと、
「ゆかちゃん真面目なんだねー」
なんて、いつもみたいに語尾がのびていたけど、それはいつもと違って、感心するような表現だった。
それからあ〜ちゃんは、
「なんか、のっちと似てるねー」
とも言った。
へ?のっちと、ゆかが?
そんなわけないじゃん!
ゆか、誰とでもエッチとかしないよ!?
終始驚いてるとあ〜ちゃんは、
「あ、ごめんごめん!変な意味じゃなくて…性癖とか抜きね!そうじゃなくてー、、」
「あいつ、あー見えて、根は真面目なんだよねー」
そう言って、ちょっと困った顔を作りながら首を傾げた。
「え?そーなの?」
ゆかが聞き返すと、うーん、ってしかめっ面を作りながら次の言葉を考えてた。
「てゆーか…優しいんよね、多分。優しすぎるせいで、なんか思考がってか行動が変な方向行ってるってゆーか…」
「ふ、ふーん、、?」
いまいち意味がわからなかったゆかを見て、あ〜ちゃんは笑った。
なんかね、自分の感情とか想いで、相手を傷つけたり縛ったり?なんか…幸せを逃がしちゃったりするのが嫌みたいで。
てか人と深くかかわるのを拒んでるんだよねー。だからエッチだけだよー…って、まったくあの馬鹿!極端なんよ!
言ってるうちにヒートアップしてあ〜ちゃんは怒ってた。
のっちのことが大切なんだな。
それがすっごい伝わってきて、ちょっと羨ましかった。
「だからさー、ゆかちゃんとこんなに仲良くなって、正直ちょっとびっくりしたもん!」
「ここまで仲良くなれた子っていなかったよー」
あ〜ちゃんの言葉に今世紀最大くらいに胸が踊った。
「エッチ抜きで」
付け足された言葉。のっち…あんたは本当に軽すぎなんよ。
家に帰ったのはもう夜だった。
201号室からは音楽が洩れていて、安易に中の状況を察することが出来た。
あ〜ちゃんとゆかがいない日は、いつだってそうだ。
本当はのっちも淋しいのかもしれない。今日、のっちの奥の闇を知った。
無力なゆかだけど、どうにかしてあげたいって非力にもそう思った。
無力で非力で…って。これじゃゆかではどうにもならんか、、。
でも、普通の友達でいることがのっちにとってのプラスであるなら、そんなのは簡単だ。
ゆかはいつまでも、普通の友達でいてあげられる。
カーテンをあけると窓の外は雨だった。
真っ暗な空から落ちてくる雫が無性に怖くて、
勢いよくカーテンを閉めたら、ひとりぽっちの気分になった。
最終更新:2009年12月09日 14:10