アットウィキロゴ
樫野有香。
ハタチ。大学生。

どこにでもいるフツーの女の子。


なんてことない、フツーの生活。

大学にはちゃんと行くけど、単位に響かない程度に講義はサボる。たぶん要領は良い方。
サークルに顔を出して、他愛ないような話題でバカみたいに笑って騒いで。その場凌ぎで周りのノリに合わせるのは得意。けっこう器用な方。
バイトは週2か週3。お客さんにはとりあえず満面の笑顔を振り撒いて、休憩室ではとりあえずニコニコしながら先輩の愚痴を聞いて。わりと作り笑顔は上手な方。

たまにはちょっと背伸びして夜遊びなんてしちゃったりして。はしゃぎすぎて次の朝には、ちょっと後悔してみたり、、なんてよくある話。


そんなごくフツーの生活。
ごくありふれた、フツーなあたし。


都心のオッシャレ〜なデザイナーズマンションじゃないけれど、7.3帖1K(ロフト付き)のこの部屋は友達には結構羨ましがられる。
立地はコンビニまでは徒歩2分だけど、最寄駅まで徒歩30分なのが玉に瑕。終電に間に合っても、バスはないくらいの郊外だし。

白い壁の室内には白を基調に揃えた家具と、アクセントに真っ赤な2人掛けのソファー。
真っ白い棚には大好きな漫画とCDを並べて。その隣には高校の先輩に譲ってもらった古いカメラと現像しっぱなしの写真の束。


此処が今のあたしの居場所。
あたしがあたしでいてもいい場所。


そんなあたしの住処に、本日、同居人が増えました。


名前はのっちって言います。
見た目はかわいいけど、ちょっぴり癖のありそうなフクロモモンガです。


「って、のっちモモンガじゃねぇし」
「ちょっと!人の心勝手に読まんでよ、変態」
「そんな服装してるかしゆかに言われたくないよ。ってか声に出てたし」


って、のっちがゆかのミニスカートをめくりながら言う。
やめてよ。パンツ見えちゃうじゃん、バカ。


えーっと、、では、訂正。
名前は通称、のっち。本名はー、、、あれ?なんだっけ?
パッと見はクールな美人だけど、一週間前に合コンで知り合って一夜だけを共にした女の部屋に平気な顔で上がりこむ、、どころか、住み込もうとする、ちょっぴり図々しい女の子です。


「ここで一緒に住めばいいって言ったのは、かしゆかじゃ〜ん」
「覚えてにゃいっ!だとしても、一週間後にホントに荷物抱えて来る?」


うん。確かにキミのことは覚えてるよ。
自己紹介がぶっきらぼうだったこと。その後も会話には参加しようとしないで、黙々と食べて飲んでただけだったこと。それなのに女の子の気を引こうと必死などの男の子よりも女の子の注目を浴びてたこと。近寄って行った男の子にはガン飛ばしまくってたこと。


なぜかそんなキミが、翌朝目覚めたら、同じベッドで、裸で、寝てたこと。




「だから、言ったじゃん。のっち住むとこないの。家なき子なの」
「ゆかには同情する心の余裕も、恵んであげるほどのお金もないから」
「ちぇっ。あの名台詞言ってやりたかったのに」


って、、なんであたし、、合コンに行って女の子にお持ち帰りされてんの?っていう。。
いや、あたしの部屋に連れ込んだってことはあたしがお持ち帰りしたってことになんの?えー、やだー。ていうかありえなーい。


っていうか、そもそも、あの日のことなんて事故みたいなもので。


あ〜ちゃんに無理矢理誘われた、打ち上げという名の合コン。
だいたい、打ち上げって何の打ち上げよ。肝心のあ〜ちゃんは彼氏の隣で幸せにそうに笑ってるし。


そんな光景を一番離れたところから眺めながら、隣に座った下心まる出しの男の子にすすめられるがままにガンガンお酒を呷って。
いつもなら絶対ありえないのに、いつの間にか一人で帰れなくなるくらい酔いがまわってた。
「ゆかちゃん送るよー」なんて言ってあたしの肩を抱く男の子は正直言って全然タイプじゃなくて、こんな奴とキスなんて唇を煮沸消毒したあとでも絶対したくないし、吐きそうなくらい気分が悪いのも酔いのせいなのか、肩に回された手のせいなのかもよく分からなくなってきて。


ホント、最初からそんな気なんてなかったんよ。
あ〜ちゃんの誘いを、、あ〜ちゃんなりの気遣いを、無下に断ることもできなくて、流されるままに参加しただけなの。

そう、だから。彼氏が欲しい、だとか。
ましてや、同居人が欲しい、だなんて思ってもなかったわけで。


っていうか、そもそも、あたしが好きなのは、、さ。。




・・・とにかく、、あたしは平穏に暮らしていたいだけ。

みんなの前ではフツーの樫野有香、でいたいの。
みんなから好かれる樫野有香、でいたいの。


ホントは、ダメ!って言われるようなことをするのが好きだし。
ヒミツ、シゲキテキ、ヒアソビ、イケナイコト、なんて、そういう響きが大好き。

でもさ、実際何が一番楽か?って聞かれたら、平穏、平和、単調、が一番楽に決まってる。


朝起きたら、同じベッドで裸の見知らぬ女の子が寝てました。

なんて、よくある話、、でもなければ、昨日はちょっとはしゃぎすぎちゃってちょっと後悔☆ってレベルじゃないでしょ。


だから、、突然の同居人、だなんて、モモンガだって思わなきゃ、やってられんでしょ。

(まったく記憶にはないけど)言い出したのはあたしの方みたいだし、ここで追い出すのも、、ねぇ?



当然のように此処に住む気満々らしいのっちは早くも我が家のようにソファーに寝そべって、テレビのチャンネルをイタズラに変えて遊んでる。


「あ、ねぇねぇ!モモンガとムササビってどう違うの?シャー!とかやんの」


そして、今度はそんなことを言いながら、シャツの前を広げて笑ってる。
なんかもう、怒る気力さえなくなってくるよね。このマヌケ面には。


「違うよ。モモンガはもっとこうピャーッ!ってするんだよ」
「うひゃひゃひゃ!変わんないって」


変な笑い声。

ああ。。もう、なんでもいーや!
だってさ、ほら、なんだかんだで楽しそうじゃん?


一人暮らしも大学生活も3年目。
最初は何もかもが新鮮で楽しかったけど、最近じゃ、何もかも色褪せて見えて、面倒と退屈の繰り返しばっかりだ。


平穏にはいたいけど、退屈は大嫌いなの。

なんて、矛盾してる?


あ。
ムジュン、って響き、結構好き、かも。




樫野有香。
ハタチ。もうすぐ21サイ。
大学生。動物愛好サークル所属。


どこにでもいるフツーの女の子です。


たぶん、、ね?


<01-終>





最終更新:2009年12月09日 14:14