「・・・久しぶりだね」
相変わらずこの部屋は甘い匂いがたちこめている。ゆかはそれを不快に思っていたはずなのに。たった数週間、こうして出会えなかっただけで、ゆかの嗅覚がそれを求めているかのように、気分はひどく落ち着いた。久しぶり、と言うのっちの顔が見慣れない美人みたいで、急に勇気をなくしたゆかは、最初の一歩を踏み出すタイミングを見失ったんだ。
「・・・ゆかちゃん?」
それを知ってか知らないでか、ゆっくりとのっちは口を開く。この甘い匂いの部屋に似つかわしい優しい声で、ゆかを呼ぶ。踏み出せないのは二人とも一緒。散々ちらかした感情や洋服たちが、ここ数週間のうちに元通りになるもんだから、今度はどこから手をつければいいのかわからない。ならば止めようか?そうもいかない。
「・・・き、す…する?」
はじめの一歩だよ。ゆかの声は震えていた。バカみたい。こんなことに臆病になって。相手はのっちだというのに。嬉しそうに笑うのが、これでもかって程に胸を締め付ける。痛い。片手で胸を押さえながらしたのっちとの久しぶりのキスは、嫌になるくらい、簡単に唇に馴染んだ。困ったな。抜け出せそうにない。
「・・・足りないね」
「、え?」
「足りないよ・・・」
言葉も少なく、のっちの手を引っ張り、ベッドへと足を進める。たまにはベッドもいいじゃんね。ソファとか窓枠とか刺激ばっかりで鈍感になるから。だからか、久しぶりにベッドに押し倒されたのっちの姿は、ゆかをひどく興奮させた。
スプリングの少ないこの固いベッドの上で、フタツの心はどうにかヒトツになろうと、もがいている。いまだヒトツとヒトツの体の距離が、それを尚強調してしまって、ゆかはひどく傷ついた。
「そんな顔しないで?ゆかちゃん」
それを知ってか知らないでか、いや、今度は知っての上で、のっちの声が優しく響く。これからするであろうコトを理解しつつも、うぶなのか、なんなのか、顔を赤く染めては潤んだ瞳でゆかを見上げる。押し倒されているのはそっちのくせに…何でゆかがこんな気分になるんよ。
「ねぇのっち?」
「ん?」
「きす、したね?」
「ん?…うん」
「うん。今ゆかたちは、きす、したよね」
じゃぁ次は?ねぇのっち?キスの次は?キスの次の次は?ゆかの目で、手で、唇で、のっちを愛して、見透かして、掴んで、弄り倒すから。だから、のっちの目で、手で、唇で、ゆかを愛して、見透かして、捕まえて、そして、、
「早く…触って?」
勇気がない、の?気付かないなんて、馬鹿だよ。ゆかはとっくに気付いてた。いつかは、こうされたいって。疼くんだよ、のっち。一緒にいると、疼くんだ。ゆかの身体はのっちを求めすぎてしまってる。こんなにわかりやすく身体は火照るのに…気付かないなんて、馬鹿だよ。
「ゆ、かちゃ……いい、の?」
馬鹿だよ、のっち。そんなふうに聞かれたら、ゆかは、ゆかは、、
「……は、やく」
入れ替わる身体。弾まないスプリング。
下唇を噛むのっち。視線をあげられないゆか。
動きだす鼓動。止まらない心拍数。
キスをする。心臓は歌いだす。
今夜は特別、ゆかを深い深い地下室の、更に下まで連れてって。そこから二人で感じるままにあがってけばいいじゃん。その間のキスと、キスの次と、キスの次の次から、伝えてよ。馬鹿じゃないよ、ゆかはすぐに察するから。
「のっち…き、す」
「ん」
ほら、また。
ドキドキ、心臓が歌いだした。
END
最終更新:2009年12月09日 14:27