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「私は西脇綾香。あ〜ちゃんって呼んで?」

そう言って差し出された手の平が握手を求めるものだということに気づいたのは、無理矢理に手を握られてからだった。
温かい手、ラメがキラキラ施されたネイル、それ以上にキラキラした眩しい笑顔。


運命なんてこれっぽっちも信じちゃいないけど。それでも、運命だ、って思ったんだよ。
あの時は。






エアコンの稼動する音。頭上の空気から暖めていく仕組みって暖房器具としては根本的に効率が悪いと思う。足元までなかなか暖まらないし、異常に空気は乾燥するし。暖かさと引き換えに奪われていく湿度は加湿器で補う。ああ、贅沢の極みだね。だけど、乾いたことって嫌いなんだ、わたし。ただでさえ、心が渇ききってんだからさ。
加湿器から排出される蒸気が窓ガラスを結露させていく。小さな水滴同士がお互い吸収しあって、窓枠を伝って落ちていく。


なんでこんな地味な光景を地味に見つめているのかと言えば、何もすることがないんだ。
そんなこと言えば、少しは家事でもしてみんさい。なんて此処の家主に怒られるんだろうけど。でも、挑戦してみたところで「洗濯物の干し方がなってない」だとか、「下着だけは自分で洗うから手をつけるな」だとか、「ご飯の水加減はぴったり量れ」だとか、また怒られるのも目に見えてるし。


きっと、わたしは効果的な時間の潰し方ってものを知らない。いや、忘れてしまったんだ。
だって昔は一人遊びが得意な子だった。って、自分で言うのもなんだけど。
両親が留守がちな一人っ子。そんなの一人遊びが得意にならないわけがない。


って、そんなことを思いながらも、わたしの手は勝手にビーズパズルを完成させてんだから、周りから見れば、立派に一人遊びが上手な子なのかも知れないけど。


まぁ、外から見えることと、内情は全然違うってこと。見えるモノがすべて真実だけじゃないってこと。





ゆかちゃんだってそう。
だってさ、この部屋の中じゃ、真冬の空気並みに冷え切った態度でわたしに接する彼女がガッコのお友達の前じゃ、ずっとニコニコ笑ってるんだよ。貼り付けたような笑顔でさ。笑っちゃうよね。だって、そんな顔よりもこの部屋でテレビ見てケラケラ笑ってる顔の方が何倍もカワイイんだもん。どんだけ作り笑顔がヘタクソなの、って話。それにすら気づかない友達なんて、やっぱりイラナイってのっちは思うよ。


相当めんどくさい人間だよ、ゆかちゃんものっちも。
矛盾してんの。いや、違うか。他の人より見えない部分が多いだけ。ね?めんどくさいっしょ?


だけど、あの子は、、あ〜ちゃんは違う。

どんだけ近づいてみても、裏っ側が見えてこないの。
いっつも笑顔。誰にでも真っ直ぐど真ん中ストレート。だから煙たがる人もいるんだろうけど、そんなのごく一部の僻み。自分に自信を持てないくせに自分だけは特別な人間だって勘違いしてる人の僻みでしかないんだよ。


表裏のないあの子は、いつも、太陽みたいで、天使みたい。そんなあの子はいつでもパーフェクトなスタイルでパーフェクトなスター!

って、そんな人いるわけないじゃん!

だからさ、知りたくて仕方ないんだ。見えないところまで全部、暴いてやりたくて仕方ないの。


どうかしてる?そうだよ。どうかしてるんだよ。
まるで恋だ。そう、これは恋。分かりやすく下心でまみれた恋。甘い病ってやつ。


友達なんてイラナイって思ってた。
自分以外の誰かに合わせるのも、自分のペースを誰かに乱されるのも好きじゃない。だってめんどくさいじゃん。ほら、わたしって、人一倍、人に気を使う人だからさ?外からはそうは思われてないかも知れないけど。


誰かを傷つけてしまうのが怖いから。っていう建前で、誰かを傷つけて、自分が傷つくのが怖いから。
結構、繊細なんだ、自分の心に関しては、ね。


でも、寂しい時はフラフラ誰かに流されてみたりもした。まぁ、つまり、セックスはしたよ。色んな人と。うん。軽いねー。チャラいねー。自分でもそう思うもん。
人との間に壁作ってても、それはそれで不思議と近寄って来たがる人も多かったから。男女問わず、さ。やっぱり、この世界ってどっか壊れてんのかもね。そんなことが簡単にまかり通っちゃうんだから。
やっぱり、アレだよ。人間ってさ。理解できないものは知りたくなるもんなんだよ。ミステリアスなところが素敵☆なんて、バカなんじゃねぇの。あまりに理解しきれないと、アイツはオカシイんだ!なんて捨て台詞吐きながら尻尾巻いて逃げるくせにね。


中途半端に慕われるより、いっそ嫌われた方が楽だって気づいた。わたし、ズルイから気づいちゃった。だから、逃げる前に逃げてやったんだよ。アンタ如きにわたしは理解できないよって、こっちから教えてやったんだ。
だからさ、みんな、ヤリ捨てたし、ヤリ捨てられたよ。

別にいーじゃん。誰にも迷惑かけてないし、減るもんでもないし。
なんて思ってたら、「心が磨り減るよ!」って、あ〜ちゃんが言った。でも、そんなの目には見えないし、痛みも感じなかったし。でも、あ〜ちゃんがそう言うなら、きっとそうなんだ。のっちの心、磨り減ってたんだ。
「そんなこと、もうやめなよ」って、あ〜ちゃんが言った。あ〜ちゃんがそう言うなら、きっとそれが正しいんだ。だから、やめた。軽いのも、チャラいのも、やめようと思った。


やめたら、気が付いたんだ。っていうか、思い知らされた。
あ。わたし、、結構な寂しがりやみたい。

思い返せば、いつも誰かそばにいたんだよね。
だから、いざ一人っきりになると、どうやって時間をやり過ごせばいいか分かんなくなるんだ。だってさ、誰かといれば、とりあえず湿っぽいことしてればよかったもん。加湿器なんてなくても、べたべた肌は湿ってたもの。




ガチャ。パタン。

玄関から物音。
ゆかちゃん帰ってきたんだ。いつも思うけど「ただいま」くらい言えばいいのにね。自分んちなんだからさ。


「おかえり、ゆかちゃん」
「あれ、のっち帰ってたんだ」
「夫の帰りを健気に待つのも妻の役目ですから」
「・・・アー、ソウネソウネ。って、うわ、何これ」
「そう!見て見て、ビーズで三角君作ったー。すごくね?」
「なんよ、三角君って?暇人ねー。少しは働け」
「買い物は行ってきたもん」
「ハーゲンダッツ買ってきた?」
「うん、冷凍庫入ってるー」


ゆかちゃんの第一印象?


まぁ、最悪だよね。カワイイなとは思ったけど。


正直、可愛いだけで、せいぜい男に媚びることが特技な薄っぺらイ女の子だって思ってた。
合コンでもさ、分かりやすく男の子にべったーりくっついて。分かりやすい上目遣いに、あまったるい言葉遣い。流されるままにアルコール流し込んで、お持ち帰りされる準備は万全?なんてね。


まぁ、興味を持ったのはさ。キモイ男に肩を抱かれながら、視線だけはずっとわたしと一緒のところに向けられてたから。


視線の先にはあ〜ちゃんがいた。
彼氏の肩に頭を乗っけて、幸せそうに笑ってるあ〜ちゃんを真っ黒な瞳で見つめてた。


だからさ、一回だけあ〜ちゃんとの約束破ることにした。
約束、なんて、こっちが勝手に決めたことだけど。

一瞬、垣間見えたこの子の裏っ側を見てやろうと思って。直感的に、この子のこと、もっと知りたい、って思っちゃったから。


そしたらさ、

「住むとこないのー?だったら、ここで一緒に住めばいいじゃーん」
「へっ?」
「うち、ロフトあるしぃ。なんか無駄に広いんだよねー、この部屋」
「いいの?」
「なにがぁ?」
「のっち、ホントに来るよ?遠慮とかしないよ?」
「くればぁ??あなたがくればいいのにぃ〜♪」


あ、この子、寂しいんだ。って、なんか分かっちゃったんだよね。

通じ合っちゃった、みたいな?こっちが一方的に、だけどさ。ん?それじゃあ、通じ合ってはいないか。
通じちゃったんだよ。うん、これが正解。


じゃあ、これも甘い病?

・・・ちがうよ。

だってシラフのゆかちゃんって、全然甘くないし。むしろ辛い、っていうか、ちょー冷たいし。
だから、別に、恋とかじゃなくて。うん。全然、そんなんじゃなくてさ。
ただ単に、似てる、って思ったんだ。


だから、きっと、これもひとつの運命なんじゃないか、ってね。



「ちょっと!のっち!」
「ん?」
「ストロベリーは?」
「何がですか?」
「ストロベリーとクッキー&クリームは必須って言ったじゃん!!」
「えー、でものっちラムレーズンすきー」
「だったら、ストロベリーとクッキーと3つ買えばいいじゃん!!」


たぶん、、ね?


「ぎゃー!顔はやめて!ボディにしてー!だってラムレーズンは期間限定なんだよぅ」


<03-終>






最終更新:2009年12月09日 14:50