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「のっち、お誕生日おめでとう!」


17歳。のっちは17歳になった。
17歳といえば、SEVENTEEN。憧れを抱いた歳。SEVENTEENという名の雑誌も発売されているくらいだから、のっちも他の女の子と同じようにそれなりに17歳に夢を描いていた。
のっちは元々、夢や理想を描いたりするような人間ではなかった。現実主義。理想よりも現実派。だけど、現実は大嫌い。醜い世界に埋もれるくらいなら、自分だけの世界を描こう、そう気付いたのは16歳の誕生日。
だからなのか、なんとなく17歳に革命が起こればいいな、なんて思っていた。


冷めた性格は昔からで、中学に上がるとそれも一層と激しくなった。休み時間になっても友達と仲良く談笑するわけでもなく、机に突っ伏して仮眠し、ひとりで過ごす方が多かった。そんなのっちを見かねてか、とある休み時間に、いつもと変わらず席に座ったまま漫画を読んでいるのっちの元に、ひとりの女の子がやってきた。人の気配を感じて顔を上げると、そこにいたのは学級委員長の西脇綾香。何かとクラスで目立つ存在だった彼女を、人の顔と名前を覚えるのがあまり得意ではないのっちも認知していた。(あ、よく見ると顔ちょーかわいい、タイプ。)ぼうっと見ほれていると突然彼女は喋り出した。


「あ〜ちゃんと、友達になろう。」


それが、あ〜ちゃんとの出会いだった。
それからあ〜ちゃんとのっちは毎日のように同じ時間を過ごした。あ〜ちゃんと出会ってからの中学生活はのっちにとって華のようだった。キラキラと輝いていて、あ〜ちゃんが笑っている顔を見るだけでのっちの顔も自然と笑顔がこぼれる。
受験の時期になってものっちは当たり前のように、あ〜ちゃんと同じ高校を受験した。必死に勉強した結果、その願いが実って見事あ〜ちゃんと同じ制服を着ることになったのだ。こんなにもひとに執着したのは初めてだった。


高校2年、9月。のっちは17歳の誕生日を迎えた。毎年、誕生日はあ〜ちゃんと2人で過ごす。今年もあ〜ちゃんが作るケーキを2人できゃっきゃっとはしゃぎながら食べる。
物分りのいい友人からは、「のっち、あ〜ちゃんに恋してるよね。」とか「もう付き合ってるんでしょ?」とか言われたこともあった。はたから見ればそのように見えるのかもしれない。手を繋いだり、スキンシップとしてのボディータッチは日常茶飯事だし、何かとイベントがあれば必ずと言っていいほど2人で過ごした。暗黙の了解だった。
のっち自身も、あ〜ちゃんに対する想いは、数少ない他の友人とは違う気持ちを抱いていることを自覚していた。ああ、これが恋か。疎いのっちはやっと気付いたのかもしれない、自分自身があ〜ちゃんに恋をしていることを。17歳になりたての9月。


「ねえ、あ〜ちゃん?」
「ん?」
「のっちのこと好き?」


ケーキを挟んで向かい合う形で座って、対面するあ〜ちゃんにのっちは尋ねた。するとあ〜ちゃんは子猫のように可愛らしい瞳をぱちくりさせてから、くすりと笑う。笑われた気がして、のっちは拗ねたように唇を尖らすと、またあ〜ちゃんは笑った。


「何で笑うん。」
「だって、のっち面白い。面白い子じゃな、って思って笑ったんよ。」
「…のっちは全然面白くないけど。」


別に恋がどうで愛がどうで。恋愛に疎いのっちが、あ〜ちゃんのことを想う気持ちがどの部類に入るかなど自身で識別出来るはずもない。だからせめて、あ〜ちゃんの想いがどの部類に入るか聞けたら何か道標になるのではないかと思った。尋ねられたあ〜ちゃんは、「んー。」と顎に人差し指を当てて考える。のっちはあ〜ちゃんの答えをごくりと唾を飲み込んで待ち構える。




「あ〜ちゃんが、のっちのこと好きじゃないとでも思った?」
「…いや、え、あ。」
「のっちのことは大好きよ、じゃなかったらケーキなんか毎年作ったりせんけえ。少しは愛されとること自覚しなさいや。」


…違う。
すぐに違うと気付いたけれど、のっちは口に出すことが出来なかった。切なげに眉を垂らして、「そうじゃね。」と返して、真っ赤な苺をフォークに刺して口に入れた。のっちは何をあ〜ちゃんに求めているのだろう、いくら考えてもわからなかった。





翌日、あ〜ちゃんが委員会で遅くなるから一緒に帰れないという連絡を受けた。のっちは、誕生日に家族に貰った諭吉を手に服を買いに行こうとしていた。のっちに似合う服装をあ〜ちゃんにコーディネートしてもらおうかな、と考えていたので計画が白紙になりメールを受けた瞬間がくんと肩を落とした。
高校は一緒でも余裕綽々で入学したあ〜ちゃんと、必死に勉強してギリギリで入学したのっちとではレベルが違う。クラスも違う。あ〜ちゃんは進学クラス。進学クラスは6限の授業を終えたあと、補修があるから、それだけでものっちのクラスより1時間終わるのが遅いのに、委員会まであるという。あ〜ちゃんを待つ1時間なんて早いもの、のっちは「今日も待っとくよ。」と返事を送るとすぐに返事が返って来た。「今日は、ほんとに遅くなるけえ、先帰ってて。」


部活動に励む生徒が多数見渡せる廊下をとぼとぼとおぼつかない足取りで歩く。独りよがり、と言えばのっちの単なる我儘だろう。あ〜ちゃんはいつだってのっちを優先してくれているのに。元々友達の多いあ〜ちゃんを見ているとのっちは、たまにどうしようもなく切なくなる。のっちだけのあ〜ちゃんではないのだと気付く。当たり前なのに、それを何だか受け入れようとしない自分が存在した。きっとのっちにはあ〜ちゃんしかいないから、こんなにもあ〜ちゃんに対する独占欲が働くのだろう。


廊下から繋がる階段を降りて下駄箱へ向かう。校舎内には人の気配がない。同じく下駄箱にも人がいる様子はなかった。上履きからローファーに履き替えようと、床にローファーを投げ捨てた時、すぐ隣の下駄箱から同じようにローファーを出す姿が見えた。視線だけでちらりと姿を確認してから、のっちは二度見した。あまりにも美人だった。短めのスカートからすらっと伸びた足。白いシャツが白い肌を更に白く魅せる、長い漆黒の艶やかな髪の毛からは今にもフローラル系の香りが漂ってきそうだった。


(こんな美人久しぶりに見た。)


のっちの縫い付けたような視線にも彼女は気付くことなく、こつこつと爪先で床を突いてローファーを履いてしまうとスタスタと校舎から出て行ってしまった。彼女を視線が追う。のっちが見とれていると、後ろからのっちを呼ぶ声がした。


「のっち! まだおったんじゃ! よかった!」


声の主は、あ〜ちゃんだった。息を切らしながらのっちの元へやってきたあ〜ちゃんに驚いて先ほどの美女の存在は一気に飛んでいく。


「どしたん? まだ委員会じゃ…。」
「稲垣くんに任せてきちゃった。」
「え?」
「のっち、服欲しいって言ってたけえ、選んで欲しいのかなーって思って、抜けてきちゃった。」


照れ笑いを見せながらのっちのことをお見通しなあ〜ちゃんに、小さく高鳴る胸。今日はお言葉に甘えて付き合ってもらおう。


「明日稲垣くんにお礼いおっかなー。」
「やめてよー、あ〜ちゃん急用じゃけえ、とか言っちゃったもん。」
「のっちとのデートは急用だからねー。」


夕日に向かって歩きながらいつまでもあ〜ちゃんの隣におれたらいいな、とのっちは願った。それはまだ残暑残る、9月21日。







最終更新:2009年12月09日 15:26