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今日もいい天気だ。こんな日の、窓際の席は睡魔が襲う。その睡魔にすんなりと従うのっちは、ぽかぽかとした暖かい日差しを受けながら眠りにつく。季節は秋なのに、今年の秋は何だか少しおかしい。最近問題になっている異常気象のせいだろうか、気温は春先のようだった。のっちがうとうとしていると、突然、制服のスカートのポケットに入れっぱなしにしていた、携帯電話が震えた。驚いて起き上がると、もう昼休みになっていた。まわりの生徒は、仲の良い者同士固まって、弁当箱を開こうとしている。
送り主は、あ〜ちゃん。
『ちょっとー、お昼休みになってるんですけどー? お弁当食べちゃうよー?』
慌ててリュックサックをかるって教室を出て廊下を走り、一目散に階段駆け上った。思いきりドアを開けると、「もう、遅いけえ。」と、少し膨れっ面のあ〜ちゃんと、そのあ〜ちゃんの背後に広がる青い空が何ともきれいで、のっちは少しだけ見とれた。
慌ててあ〜ちゃんの傍に駆け寄り、「すいませんでした。」と深くお辞儀をすると、スッとあ〜ちゃんの手が伸びてきてのっちの頭を撫でる。


「あ〜ちゃんのこと忘れとんかと思った。」
「忘れるわけないじゃん! こののっち様よ?」
「どーだか。」


口では冷たくあしらうあ〜ちゃんも、表情はやさしくてのっちもすぐに怒ってないことがわかった。触れた掌がそれを物語っているかのようにあったかい。
並んでフェンスに凭れて弁当箱を開く。天気のいい気候のちょうどいい日の昼休みは、屋上に集合することが日課になっていた。普段は施錠してある屋上の鍵を、あ〜ちゃんが委員会室で見つけたらしくそれをこっそり持ち出している。2人だけの世界、2人だけの時間。これほどのしあわせがあるものか、とのっちは思う。
お弁当を食べながら、あ〜ちゃんは今日あったことをのっちに話す。「先生がね、語尾に必ず“ね”つけるんよー。」だとか「稲垣くんがあ〜ちゃんのことちらちら見てくるんよ、きもいー。」だとか、キラキラした声で話す。のっちはその隣であ〜ちゃんの横顔を眺めながら、頷く。


「あ、あと10分で昼休み終わっちゃう。」
「ほんとだ。」
「あ〜ちゃん次体育やけえ、もういこっか?」


荷物を片付けてここにいた痕跡のないようにしてから、屋上をあとにする。のっちは毎回この行為が、あ〜ちゃんと過ごした時間がかき消されてしまうようで少し胸が痛むけれど、あ〜ちゃんには悟られないようにする。
カチャン。静かに鍵をかけると、その鍵をあ〜ちゃんはそっとポケットに閉まった。階段を降りて、あ〜ちゃんは委員会室に鍵を返しに行く。教室へ戻るのっちとは、反対方向に向いて歩き出すその後ろ姿を見つめていた。


「のっち!」
「え?」


あ〜ちゃん以外のひとにのっちと呼ばれて、驚いて振り返るとそこに立っていたのはゆかだった。あの日から、何かとゆかとのっちはよく出会う。


「あ、ゆかちゃん。」
「今の子、お友達なん?」


え? と思い、ゆかの視線の先とすらっと伸びた細い指の先には先ほど別れたあ〜ちゃんの後姿があった。


「あ、うん。」
「ふーん、可愛い子じゃねえ。」
「でしょー?」


自分の大好きな女の子を、こんな美人のゆかに可愛いと褒められて気を良くしたのっちは、思わず得意げにどうだ、と言わんばかりの顔をゆかに見せた。そんなのっちにゆかは、ぷぷっと吹き出して笑う。


「のっち、ほんとーに面白いわ。」
「えー、まじー?」


時間を忘れてのっちとゆかは会話をしていた。すると授業始業のチャイムが鳴り響いて、慌てて「じゃあね! ゆかちゃん!」と言うとゆかもそれに答えてから、走って教室へと向かった。




昼休みにあ〜ちゃんが今日は委員会ないよ、と言っていたからのっちは、一緒に帰れるわくわく感を胸に抱いて下駄箱であ〜ちゃんが来るのを待った。今日は久しぶりに早い時間に一緒に帰れるから、帰りに甘いものでも食べて帰ろうかなー、なんて思いながらあ〜ちゃんを待った。
ふと、誰かの足音が聞こえた。それに反応してニコニコしながら音のする方を見ていると、現れたのはあ〜ちゃんではなく、ゆかだった。


「今日、よお会うね。」


下駄箱からローファーを取り出したゆかが、のっちの元へ歩いて来た。一向に帰る気配のないのっちを不思議に思ったゆかが話しかける。


「誰か待ちよるん?」
「あ〜ちゃん待ちよるんよ。」
「あ〜ちゃん?」
「あ、さっきゆかちゃんが可愛いっていよった子。」




ゆかは視線を上の方へ流したあと、ああ、あの子かあ、と言った。相変わらずのっちの表情は弛みっぱなしである。そんなのっちの表情を見たゆかは、閃いた! と言わんばかりのにやついた口元を隠しながらのっちの耳にその唇を寄せた。


「…のっち、“あ〜ちゃん”のことすきでしょ?」


突拍子もないゆかの言葉にのっちは言葉を詰まらせる。そして思わず後ずさりをする。視線は大きく見開いてゆかの視線とばっちり合わさって、その行動は肯定としか思えない。そんな単純過ぎるのっちを見て笑ったゆかは、手招きする。後ずさりしたばかりの身体を、様子を窺うかのように恐る恐るゆかの元へ戻ると、再びゆかの唇はのっちの耳元に寄せられた。


「大丈夫、誰にも言わんよ。」
「う、うん…。」


とんでもないことになった。
のっちは自分の行動の間抜けさに呆れた。先ほどから心臓は煩いほどにバクバクと音を立てて鳴り響く。


「のっち?」


そんな心臓の音にかき消されて足音など聞こえなかった。名を呼ぶ声に反応すると、そこに立っていたのはあ〜ちゃんだった。
あ〜ちゃんが現れたのに気付いたゆかは、スッとのっちから離れると「じゃあまたね。」とひらひらと手を振ってその場から立ち去ってしまった。
相変わらず心拍数は治まることを知らない。隣にやってきたあ〜ちゃんが天使のように首を傾げて、のっちを見るものだから更に速まった。




「ねえ、さっきの子、誰なん?」

自転車のうしろに乗ってのっちの腰に腕を回したあ〜ちゃんが尋ねた。すかさずのっちは「最近出来た友達。」と告げた。


「ふーん。」


あ〜ちゃんは然程興味なさそうに呟いてから、目先に見えるクレープ屋さんを指差して「のっち、クレープ食べて帰ろ。」と言った。あ〜ちゃんの返事に寂しさを感じたのっちだったが、甘いものを食べて帰ろうと考えていたのが、あ〜ちゃんに伝わったようで嬉しくなって、そのことは忘れた。






最終更新:2009年12月12日 20:09