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終わった恋に、涙の雨。
「…苦しいよ」
「・・・っつ、」
「怖いんだ、、」


[010:rainy blue]


あの雨の夜の帰り道のせいで、のっちは風邪をひいた。
“めずらしいこともあるんじゃねー”
そう言いながらも、あ〜ちゃんは毎日看病に来ていた。
どんなに憎まれ口を叩こうと、どんなに傷つけあおうと、この二人には関係のないこと。
それすらひっくるめて、お互いがお互いを理解し合い、そして求め合っている。
そんな二人を見てると、ゆかはちょっとだけ悲しくなる。
この大都会で格好良く生き抜いてる、と思ってた二人も、所詮人の子だ。弱くて脆い。
きっと一人じゃいられないんだ。それならゆかとおんなじだ。
勝手に過大評価をしていたのが悪いんだけど。


のっちが風邪をひいてるから、あ〜ちゃんと二人、ゆかの部屋でご飯を食べることが増えた。
「外、出かける?」ゆかは聞いたけど、
「んー、いいや。ゆかちゃんちにしよー」あ〜ちゃんはいつも断る。
「どうして?」素直な質問だ。だけど馬鹿げてる。答えは簡単だ。
あ〜ちゃんはのっちが心配なんだ。
風邪で寝込んでるのっちをほっといて、ゆかたち二人だけで出かけるのを拒んでるんだ。
口には出さないけどきっとそう。
ううん、きっと、じゃない。絶対、そう。


あ〜ちゃんって優しいな。
それだけのっちが大事なんだな。
あ〜ちゃんって可愛いな。
ゆかが風邪をひいてもお見舞いに来てくれる?


ん?あれ?
なんかモヤモヤする。
なんでだろ。
最近のっちと仲良くなれて嬉しかったのは、ゆかがあ〜ちゃんに近付けたから、なのかな?
“のっちの好きなあ〜ちゃん”に、なりたかった?
ううん、違う。
“あ〜ちゃん”に、近付きたかった。
ん?あれ?
なんかモヤモヤする。


「ゆかちゃーん?」
目の前でビールを飲むあ〜ちゃんが、不思議そうにゆかを見てた。
いけないいけない。最近トリップしがちだ。


「ねーゆかちゃんはさー、のっちのこと好き?」
「・・・へ?」


急な質問だなーおい。
ま、あ〜ちゃんらしいけど。
でも、なんで?


「だからーのっち、好き?」
「ん?好きだよ?友達だもん」
「…ふーん」


えーーー!?
なによそれ!?
あ〜ちゃん??
何が聞きたいんよ!?


「のっちの昔の恋愛話聞いたー?」
「え?あ、うん・・・聞いた」
「そっかー」
「…うん」
「ゆかちゃんが救ってくれればいいのになー」
「え?」


なんでもなーい!そう言ってあ〜ちゃんは笑った。笑ってビールを飲み干した。
あ〜ちゃん、全然わかんないよ、ゆかには。
どうしたらいいの?ゆかに何を求めてるの?救えないよ、ゆかには。
だって、だって、、ゆかは、あ〜ちゃんが、、





————————————

「風邪んとこ悪いんだけどさー」
「ごほっ、、んー?」
「まだ好きなわけ?」
「ん?なんすかそれw」
「そのままの意味だけどー?」
「んー、、、わかんない」
「なんよそれw」
「・・・ま、忘れては、ないよね」
「・・・」
「はは、、ださいっしょ?」
「恋なんてみんなそんなもんよ」
「ふw…ありがと」
「で、この風邪は?」
「うわっ、やぼなこと聞くなよw」
「ふふwかっこつけるのは好きな証拠ー」
「ち、ちがっ、
「でも!」
「な、、ん?」
「…誰でもいいよ。のっち、人を好きになって?」
「・・・」


————————————





時計の針が24時をまわった頃、あ〜ちゃんは電車なくなる、と慌てて帰り支度をはじめた。
「泊まっていけばいいのに」ゆかが引き止めると、
「ごめんねー、彼氏んとこ行かなきゃー」そう言って女豹ちゃんは小さく笑った。


「ゆか、あ〜ちゃんが好きなのかなー」


不意に口から出た言葉に、自分が一番驚いた。そんなことを言うつもりなんてひとつもなかった。
驚きすぎて固まったままあ〜ちゃんを見ると、こちらもやっぱり驚いて固まってた。


「「ふふww」」


二人同時に笑いだす。
何事もなかったみたいに。
ゆか、すごいこと言ったのに。
どうしたんだろ。何考えてんだろ。


「なんでー?」


一緒に笑ってたかと思ったら、真っ直ぐゆかを見つめて、あ〜ちゃんは聞いた。


「え?何が?」
「なんであ〜ちゃんのこと?」
「あ、あー…んー、」
「曖昧かいっ!!」


また二人同時に笑いだす。
「電車遅れちゃうよ?」ゆかが言うと、
「大事な話じゃけぇ、いいんよ」あ〜ちゃんはそう答えた。


「んーと、ゆか、ね?」


ゆかは話した。
東京に出てきて、友達もいなくて。それでもどうにか居場所を見つけたくて。
だけどそれすら諦めはじめちゃって、カヨちゃんだけに依存して。
だから、二人と仲良くなれて嬉しかったんだ。やっと見つかった気がしたんだ。
何であ〜ちゃんなのかなんて、何でもくそもないよ。そんな理由なんてわからない。
その他諸々、積もり積もった気持ちを全部吐き出したら、
ゆかはすっきりして、あ〜ちゃんは不思議そうに笑った。


「じゃあ最近のっちとも仲良くなれて嬉しかったんね?」
「うん」
「それはあ〜ちゃんに近づいた、と?」
「そう」
「だからあ〜ちゃんが、好き?」
「・・・うん」
「んー…」
「んー?」
「近づいたのは…のっちに、じゃない?」
「へっ?」
「のっちのこと、好き?」
「好きだよー?友達だもん、って二回目じゃーんw」
「のっちってわけわかんないでしょー?」
「うんw」
「でも仲良くなれたねー」
「うん」
「嬉しい?」
「うん!」
「可愛いでしょ?あいつ」
「うん、意外だったーw」
「嬉しそw」
「え?」
「ねぇ?」
「ん?」
「鈍感?」



へ?ゆかが?鈍感ですと?
なに言ってんのー


「超敏感だよーw」


そう言うとあ〜ちゃんは声を出して笑った。
目に涙をためて、顔を赤くて、ヒーヒーのフーフーだ。


「な?なんよー!」
「だってゆかちゃん?」
「なーに?」


「それは好きになる相手間違っとる」


超鈍感じゃん、おもしろーい。そう言って笑われたのに、ゆかはちっともショックじゃなかった。
その様子を見て、
「ね?あ〜ちゃんじゃないでしょ?」
したり顔で言われた。


・・・確かに。
軽く振られてるのに、ちっともショックじゃない。
なーんだ、そっか。くらいにしか思わなかった。


「じゃあ、恋したわけじゃなかったんだーww」


ゆかがそう言うとあ〜ちゃんは悲しそうに笑った。
なんでそんな顔するんよ?


「な、んで?のっちは?」
「えー?なんで?だめだよー」
「なんでよっ!」


ちょ、あ〜ちゃん声大きいって。のっち起きちゃうよ?
どしたの?そんなに必死になって。


「だってのっちは普通の友達だもん」


のっちにはそれが必要なのわかってるし。
ゆかならずっと友達でいてあげられる。
それがのっちのため、なんて。超楽勝じゃん。
ゆかが笑顔で言うと、あ〜ちゃんは困った顔で「・・・そっか」って呟いた。


じゃあ、のっちのことよろしくー。そう言ってあ〜ちゃんが部屋を出たのは、終電が終わった頃だった。
タクシー拾うから、と言って、小さく笑って手を振ったあ〜ちゃんは、少し淋しそうだった。




深夜2時をまわった頃、ようやく眠りにつこうとしたら、隣から壁をノックする音が聞こえた。
最初は寝返りうったのかなー、なんて思ったけど、のっちの部屋はこっちの壁側にベッドは置いてない。
どうしたんだろ?
—トントン—
小さく返事をすると、ごほっ、と大きな咳が聞こえた。
それを聞いてゆかはベランダに出た。隣の住人もすでに外にいた。


「のっちー?どしたん?大丈夫?」
「んー大丈夫。まだ起きてるのかなーって」
「あ、ごめん!うるさかった?」
「いや、大丈夫。今、目、覚めたとこ」


ベランダにある塀のせいで、のっちの顔が見えない。なんだかゆかは急に不安になる。
つい最近、あんなにそばにいたのに、今夜は顔も見えなくて、風邪までひかせてしまった。


「ごめんね?ゆかのせいで」
「え?何言ってんのーのっちが勝手にひいただけだよー」
「でも上着かりなきゃ、
「いいの!それでゆかちんが風邪ひいてたらめっちゃ後悔するもんw」
「でも、
「いーんだって!のっちがそうしたかったからしただけ。何も気にしなくていーんだよ」


あー、まただ。また、痛い。
本当、なんだろ、これ。
あー、涙まで出てきた。
どうしよー止まんない。


「…ぐすっ…」
「ゆかちん?」
「…っ、ん?」
「泣いてるの?」


泣いてないよ。
そう言いたいのに言葉が出てくれない。
かわりに涙がどんどん出るから、必死で声を殺した。
のっちの優しい声のせいだ。


「あ、、雨、」


のっちの声に見上げた空から、一粒雫が落ちてきた。
真っ黒な空からパラパラと雨粒が落ちてくる。
暗い。冷たい。寒い。


「ごめんね?濡れちゃうから、中、入って?」


のっちの優しい声がする。
それなのに、見上げた空はどんどん黒く染まって、雨粒は増えるばかり。
簡単にひとりぽっちにさせる東京の空は、怖い。
暗い。冷たい。寒い。


「おやすみ」
「…おやすみ」


ねぇ、のっち?
痛いよ、、。




ベランダのドアをパタンと閉めると、急にひとりぽっちの部屋が怖くなる。
それに比例するように、止まらない涙が、ますます止まらなくなる。
ゆかはひとり、ベッドの上で泣いた。




—ピンポーンピンポーン、ドンドンドン!—


騒がしいチャイムと、玄関を叩く音に、急いで鍵をあけた。
カチャリ、まぬけな音が聞こえた瞬間、ゆかの部屋のドアは勢いよく開いた。
飛び込んできたその人が、少し辛そうで、泣きそうで。
だけどすぐにゆかをつかまえるんだ。
ゆかを抱き締めるその腕が、熱のせいかあったかくて。怖くないよ、って言ってるみたいだ。


「…ごめん」
「え?」
「このまま、、」
「…うん」


ゆかは静かに背中に腕をまわした。


窓の外で音をたてて降っている雨。
この人の過去も、全て流してくれたらいいのに。
ねぇ?もう終わったはずなのに、なんで思い出にできないの?
忘れてよ、早く。早く、忘れて。
窓の外で音をたてて降っている雨。
誰かの面影なんか、早く消してよ、ねぇ。





最終更新:2009年12月24日 17:56