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【N】
頭が痛い。
抜糸して包帯も取れて明日退院するのに、頭がズキズキする。

かしゆかと一緒にいても痛まないのに、ふとあの天使みたいなアーチャンって子を思い出すと痛くなる。
どうやら彼女とは知り合いらしいけどのっちは全然覚えてないんだよ。
階段から落ちた拍子に忘れちゃったのかな。
でもこれくらいで忘れるならそんな親しくない間柄だったんだろうね。あれ以来お見舞いに来てくれないし。
それに比べでかしゆかは毎日の様に来てくれる。さすがのっちの唯一の友だ。

【A】
のっちが記憶を失くしたって知ってから会いに行ってない。
本当は会いたいけど、あ〜ちゃんを知らないのっちに会うのは正直辛い。

いや・・・一番辛いのはのっちだよね。
あんな大怪我させちゃったんだもん。
このまま、あ〜ちゃんの事忘れたままでもいいかもね。
あ〜ちゃんの事思い出しちゃったら、のっち自身も辛い思いが甦っちゃうもんね。

このまま身を引けば何もかも元通りになるよね。
のっちから見たらあ〜ちゃんはゆかちゃんの親友。それだけの関係でいいよ。

もうそれでいいんよ。
もうこれ以上しんどいのはいいんよ。

【K】
「ほんとうにそれでいいん?」
「いいんよ」
「ほんとうはそんなこと思ってないくせに。もうガマンしなくていいんよ?」
「・・・ガマンなんてしてないけぇ」
「じゃあ、のっちが他の人に取られちゃってもいいん?」
「・・・・」
ゆかはあ〜ちゃんを問い詰めた。
あ〜ちゃんに素直になってほしかったから。意地を捨ててほしかったから。

「ゆかちゃんの意地悪・・・」
「あ〜ちゃんが意固地になってるからじゃろ」
「だってのっちはあ〜ちゃんの事忘れてるんよ?どうしようもないじゃろ・・・」
「だったら思い出させるように仕向けたらいいんじゃない?」
「どうやって?」



【A】
のっちが目覚めた以来の病院への訪問。
心細いからゆかちゃんと一緒に。今日、のっちは退院する予定だから手作りのクッキーを持っていった。

病室に入るとのっちはすでに荷物をまとめていた。
うちらに気付いて、あのニヤケた笑顔をくれた。

「あー、来てくれてありがと〜。やっと退院れす」
「よかったね。これ退院お祝いのクッキー。あげる」
あ〜ちゃんは勇気を出して、のっちに話しかける。
のっちは少し強張った様子でぎこちなくクッキーを受け取ってくれた。

「これって、もしかして手作りですか?」
あ〜ちゃんを覚えてないのっちは敬語で話す。
「うん。のっちが前にすごく美味しかったって言ってくれたんよ?」
「・・・へー。そう、なんだ」
自分の覚えてない出来事を他人から聞くのは良い思いがしないんだろう。のっちはそんな顔をしていた。
でもあ〜ちゃんはそんなことでめげない。

【K】
ゆかは脳が覚えてないなら身体で思い出させればいいって、あ〜ちゃんに教えてあげた。
前に漫画で見たんだよ。
記憶喪失になった人が恋人の手料理を食べて記憶が戻ったって話。
あとお母さんにビンタされてその衝撃で記憶が戻ったって話もあったんだよね。

だから今日あ〜ちゃんは前にのっちに食べさせた手作りクッキーを持ってきた。
この手法がのっちに通用すればいいんだけど・・・。

のっち早く思い出してよ。
ゆかは『あ〜ちゃんが大好きなのっち』が大好きなんだから。
そう自分で言い聞かせたんだから。ゆかの決心が鈍らないうちに早く戻ってきてよ。

【N】
あ〜ちゃんって子に貰ったクッキーを食べてみた。
うまし。ちょっと硬いけど美味しい。

美味しいけど、痛い。
頭が痛い。あ〜ちゃんって子といると頭がズキズキするよ。

なんでかな。



【A】
クッキーを食べてものっちは思い出さなかった。
やっぱりそうそう簡単には戻らないみたい。当たり前か・・・。

それから一ヶ月経ってものっちは相変わらず。
一ヶ月も経つと、のっちの警戒心が少しずつだけと薄れてきた。

そうか・・・このまま、またイチからやり直すことだって出来るんだ。
そう思うと少しだけ心が軽くなった。

今日はまたゆかちゃんがうちらの為に食事会をセッティングしてくれた。
久々にお気に入りの香水をつけていこうかな。

【N】
あ〜ちゃんといても痛くならなくなった。
よかったよかった。

今日はかしゆかのアパートで三人でご飯を食べるんだ。
楽しみ楽しみ。
記憶は相変わらず戻らないけど、あ〜ちゃんといても普通だし。
もう何も心配することはないね。

「のっち!!」
後ろから誰かに呼ばれた。あ〜ちゃんだ。
「前歩いてたらのっちがいたから急いで走ってきちゃった」
あ〜ちゃんは少し息切れしてる。

あれ・・・。
この匂い・・・。
この香水どっかで・・・。

ズキンって、頭の奥から鈍い痛みが走った。

【A】
「のっち!!どしたん?」
のっちはいきなり頭を抱えてしゃがみかんでしまった。

「頭痛いん?大丈夫?病院行く?」
「・・・いい」
「でも・・・」
あ〜ちゃんが立ち上がろうとすると、のっちは手首を掴んで抱き寄せた。

「の、のっち?」
あ〜ちゃんは軽くパニック。
だってここ歩道よ?ほら、横を歩いてる人が見てるって。
あ〜ちゃんを抱きしめてるのっちの腕は力強くて、なかなか抜け出せない。

「あ〜ちゃん」
耳元で聞こえるのっちの声。
「な、に?」
「のっちは、あいつからあ〜ちゃんの事ちゃんと守れた?」
「え?」
思わずのっちの顔を見る。眉毛がハノ字。情けないほど愛おしい。

「あいつに傷つけられてない?大丈夫?」
「のっち・・・記憶戻ったの?」
「へ?記憶?」
どうやらのっちはあ〜ちゃんの事を思い出したみたい。
そのかわりあ〜ちゃんの事を忘れていた事を忘れたみたい。んー、なんだかややこしい。

なんでこのタイミングで思い出したのかはわからんけど、よかった。
ホッとして泣けた。



【N】
「のっちのばぁぁぁか!!」
えー、あ〜ちゃんが泣き叫んでる。どして?
なになに?のっちなんか悪いことしちゃった?

てか、さっきからあ〜ちゃん記憶記憶って言ってるけどなんのこと?
わけわからん。まさか、こののっちが愛しのあ〜ちゃんを忘れるとでもwそんなことないのにね。あはは。

「もうどこにもいかんでよ・・・」
「うん?」
今までもそばにいたつもりだけど?

「寂しい思いさせんでよ」
「うん」
「ずっと一緒にいてよ」
「うん。・・・て、それってプロポーズ?」
「バカ!!」
「いでw」
あ〜ちゃんの肩パンチ痛い。

【K】
ピンポーン。
おっ、来た来た。

ドアを開けると手を繋いだニヤケた面ののっちとモジモジしてるあ〜ちゃんの姿。
空気を読む能力が高いゆかはすぐピンときた。

のっちめ、ようやく記憶が戻ったんね。
あ〜ちゃんを見ると、顔に後で説明するって書いてある。

よかった。
あ〜ちゃんがやっと幸せになれるんだね。
のっちあんた騎士でも姫とハッピーエンドになれるって証明出来たんよ。

ゆかはこの二人を見て笑った。
心の底から笑った。

ほんとこの二人は如何しようも無いくらい手がかかる。


— Fin —





最終更新:2009年12月24日 18:27