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泣きたいくらいに小さな小さな雨の、雫。
「もう、やめない?」
「…な、にを?」
「……友達」


[011:a rain of drop]


あれから数日後、のっちの風邪は治った。
“まったく”なんて言いながらも、あ〜ちゃんは嬉しそうだった。
ゆかは…ゆかはあの雨の夜から具合が悪いんだ。
風邪をひいてるわけじゃないんだけど、どうも気分が後ろ向き。
なかなか元気が出ない。いや、元気は元気なんだけど…。
ゆかはうまく笑えているだろうか?
あの夜、あ〜ちゃんは言った。

「ゆかちゃんが救ってくれればいいのになー」

確かにあ〜ちゃんが、ゆかに言った。
それっていったいどうゆうこと?
のっちには普通の友達が必要なことも、今、ゆかが唯一のそれであることもわかっているのに。
じゃあ何でこんな気分になるんだろう。
ゆかはのっちを救えるんだろうか?
だいたい普通の友達ってなによ?のっちが異常なんだよ。
友達とエッチしないもん、普通。
ゆかとのっちが……うん、大丈夫だ。異常な友達にはなりそうもない。
ゆかは恋人としか、したくない。
じゃあ何で、こんなに胸が苦しいんだろう。
あ〜ちゃんを想うと、心があったかくなって、可愛いなぁって顔はデレッとして、優しい気持ちになれるのに。
のっちを想うと、なんでこんなに胸がギュッてなるんだろう。
この痛みはなんなんだろう。
こんなんで救えるのかな?この痛みは?
ゆかは…のっちを、、






————————————


「好きみたいよ、あたしのこと」
「うん、知ってる」
「超どんかんよ、あの子w」
「うん、知ってるw」
「ま、あたしのこと好きってのは勘違いだったけどー」
「え?あ、うん、知ってる」
「…あからさまにホッとしてんじゃんww」
「いやいやいや」
「…ヤっちゃえばいいのに」
「ばっ、ばか!」
「だってー」
「そ、そうゆんじゃないんだよ」
「…じゃあ、なんなんよ?」
「いや、うん、、」
「なん?」
「ただ…うん。そ、ばに、」
「うん」
「友達で、ね?普通の、さ」
「なんでよっ!?」
「…手に入れてから失うなら、さ?手に入らない方が、ダメージは少ない、だろ」
「ば、ばか、、」
「ごめん、あやか。むりなんだよ、、」
「…悲しいこと、言わんで」
「ごめん」
「そんな顔見たくない」
「うん、ごめん、」
「…ばか…」
「…ごめん」
「とりあえず…もうあんたとはヤラない」
「えっ!?なんで?」
「こんなこと続けとったら手に入るもんも入らんくなるよ!」
「ま、まじかー!?」
「まじ!!」
「うー、、」
「うー、じゃない!」
「…じゃ、最後に一回だけ!ね?」
「…最後?」
「うん!」
「……一回、で済むん?」


————————————






「明日ゆかちゃんも行くよねー?」
ゆかの部屋であ〜ちゃんと二人、遅めの夕飯を食べてると、あ〜ちゃんは急に聞いた。
明日?


「あしたって、なに?」
「あれー?聞いてないの?」
「うん、何?誰から?」
「えー?のっちからー」


のっちから?聞いてないよ。ゆか、何も聞いてないよ。
そもそも最近会ってない。
あの夜から、なんでか知らないけどのっちと会えないでいる。
たまに会っても、すぐにのっちが出かけたり、ゆかに用事があったりで…
二人でいる時間が全然ないんだ。


「明日あいつイベント出るんよー」
「ノイズでさー、服屋のイベント。ショーもあって、DJもやるんだってー」
「…へぇー…」


あぁ、それで最近いないのか。
なんなん。ゆか、何も聞いてない。教えてくれたっていいじゃん。
明日は残業決定だし、時間もお金も超余裕ないけど、言ってくれたらよかったのに。


「会ってないの?」
「…うん」
「話くらいしてるでしょ?」
「…してない」
「なに?なんかあったーん?」


あ〜ちゃんは困ったような、でもちょっと笑ってるような、なんとも言えない表情だった。


「なんもない」


なんなんよ、のっち。
ゆかには教えんと、あ〜ちゃんだけ誘って、、。
いいもん。ゆか、忙しいんだから。


「ゆかちゃん一緒にいこーよー」
「・・・・・いかない」


そうゆかがムスッと言うと、あ〜ちゃんは笑った。ニヤニヤしてる。


「…なんよ?」
「なーんもなーいw」
「なんよー!?」
「ふふふw」
「あ〜ちゃーん?」
「かわいーんだーww」


むむ。楽しんでるな、あ〜ちゃん。


じゃ、明日くる気になったら連絡してー。と、ニヤニヤ笑いながらあ〜ちゃんは帰った。
そんなこと言ったって、ゆか行かないもん。
ゆか、忙しいんだから。





「「あっ、」」


夜、シャンプーがないことに気付いて、仕方ないコンビニまで行こう、と玄関のドアをあけると、
そこにはまさに今帰ってきたであろう隣の住人の姿が。
相変わらずゴツいヘッドフォンをして、片手に大量のレコードと、片手にCDケースを持っている。


「どっかいくの?」
「う、ん。コンビニ」
「あー、じゃ、のっちも」


ちょっと待って、と乱暴に鍵をあけて玄関に荷物とバッグを置いた。
「ごめん、おまたせ。いこ?」
そう言って、ゆかより先に階段を降りて、ゆかの少し前を歩く。
のっちが振り向けば、簡単に目が合った。
「久しぶりって感じ、しない?」
笑いながらゆかの前を歩く。
視線を前に戻したその後ろ姿に、ゆかはとっさに抱きついた。のっちは少しヨロけた。


「おっ、と、。どしたー?」
「・・・」


ゆかが何も言えないでいると、


「…どうしたの?」


もう一度、さっきよりも落ち着いた優しくて、なんでも包み込むような、のっち特有のあったかい声が聞こえた。
ゆかはのっちの背中に顔を押しつけたまま、首を横に振った。“なんでもない”と。


「そっか」


優しく言って、それ以上のっちは何も聞かなかった。
ゆかの両腕は金縛りにあったみたいにのっちのお腹の前で固く結ばれて、そこから動かなかった。
いったいどれだけの時間が過ぎたかはわからないけど、その間、ゆかはずっとのっちにしがみついたままで。
のっちはそんなゆかに何も聞かなかった。
優しいんだな、のっちは本当に。
優しさに触れて、心があったかくなったゆかは、金縛りを解いた。
そんなゆかにのっちは何も聞かないで、「いこ?」と、コンビニまでの道を指差した。
のっちが振り向けば簡単に目が合って、歩きだせば簡単に手は繋がれた。


“なんでもない”


本当、なんでもなかった。
ただのっちが足りてなかっただけで、
それ以外は、なんでもなかった。





「じゃ、おやすみ」


のっちが何も言わないから、ゆかは悔しくて明日のことには触れなかった。
だけどさっきまで抱いてた感情は、のっちに会ったことでずいぶんと穏やかなものに変わっていた。
ゆかは自然とおやすみが言えた。
のっちは笑顔を見せて、また乱暴に鍵をあけた。


「あ、ちょ、ちょいまち!」


ゆかも鍵をあけて部屋に入ろうとしたら、急にのっちがそれを止めた。


「なんよ?」
「ん、はい、これ」
「なに?」
「チケットー」


ポケットの財布から、ふたつに折り曲げられたチケット。


「明日ひまー?」
「…あした?」
「うん。ノイズでDJやるから来てよ」
「・・・」


ゆかは受けとったチケットをまじまじと見る。


「ショップのイベントでさー、ショーもあるからー」


何も言わないゆかに、のっちは話し続ける。


「久しぶりで緊張すんなー」


嬉しそうに照れながら話す。


「やっと渡せたー」
「直接誘いたかったんだー」


明日イベントがあることも、DJすることも知ってるけど、ゆかは知らんぷりをした。


「・・・来て、くれる?」


明日ゆかは、新製品と不良品についてのデータまとめなきゃで残業決定だし、給料日前でお金も余裕ない。
時間は20時から。間に合うわけないし、そんなの、、


「…行くに決まってんじゃん」


てか間に合わせるし。
午前中から窓口サボってデータまとめるし。


よかったー、そう言ってのっちは笑った。
だからゆかも笑った。
おやすみ、また明日ね。を言い合って、部屋に入ろうとしたら、またのっちがそれを止めた。


「ねぇゆかちん!」
「なに?」
「明日が終わったらまた暇だからさ、作ってよ!カレー鍋!」


んじゃ、おやすみー。
そう言い残してのっちは部屋に入っていった。
……ちゃんと覚えてた。




コンビニで買ったシャンプーは安物で、逆に髪にダメージだけ残した。
“サラサラできれい”一緒に眠った夜にゆかの髪を撫でながらのっちが言った。
ゆかはそれからこまめにトリートメントをするようになった。
抱きついたゆかに、のっちは最後まで何も聞かなかった。
目が合えばホッとするし、手が繋がれると嬉しかった。
のっちが笑うとゆかも笑えるんだ。
一粒の雫から水たまりになるみたいに、それが海になるみたいに。
のっちが増えてくのを、ゆかは喜んでるのかな?
それってどうゆうことなのかな?
これって普通なのかな?
それとも、、、。







最終更新:2009年12月24日 18:49