新曲のレコーディングを終えたあたしたちは、タクシーに乗り込んだ。
のっちだけ、今日はお休み。
のどの調子がよくなくて、明日ひとりでレコーディングするらしい。
車が動き出す。
ラジオから流れる、軽快なポップス。
メールを打ち終えたゆかちゃんが、バックに携帯をしまいながら、話しかけてきた。
「今日は、のっちおらんかったけぇ。二人きりじゃね。」
「そうじゃね。」
「なんか、久しぶりじゃろ?こういうの。」
「うん。」
「…なんね、あ〜ちゃん。えらい無口じゃね、どうしたん?」
「どうもせんよ。」
「あ、…緊張しとるん?」
「し、しとらんじゃろ。」
「そう?…ゆか、素直じゃない子は嫌いだな。」
「。。。えっと、…ちょっと、しとるかも…。」
にっこりしたゆかちゃんがカラダを寄せてきた。
膝においたあたしの手に自分の手を重ねて、肩に頭を乗せてくる。
「いい子じゃね、あ〜ちゃんは。」
ゆかちゃんの体温が伝わってくる。こんな距離にいるから、体が強張ってしまう。
でも少し、ううん、かなり、…嬉しい。
「…あ〜ちゃん、ドキドキしとる。」
「うん…。」
ゆかちゃんの指先が、あたしの手の平をなぞっていく。
くすぐったくてもじもじしていると、ラジオが今日の天気を伝えてきた。
「明日も、東京は晴れ、か。」
「ゆかちゃん、明日は久しぶりのオフじゃろ。どっか行くん?」
「うん、ちょっとね…。」
最近のゆかちゃんは、なんだか秘密主義だ。
謎めいている…って言うとカッコイイいいけど、ちょっぴり、、、寂しい。
ゆかちゃん、今、…何考えてるのかな…?
「…ゆかちゃん、くすぐったい。」
「これ?気持ち良くない?」
「むずむずする。」
「だって、あ〜ちゃんが、かわいいんだもん。」
それ、答えになってないよ、ゆかちゃん。
むずがゆさを誤魔化したくて、話題を変えることにした。
「ゆかちゃんのネイル、綺麗じゃね。」
「ありがと!これ、自分でやったんよ。あ〜ちゃんにもしてあげよっか?」
「ほんまに?…嬉しい!」
「じゃあ、約束ね。」
ゆかちゃんが、肩から顔をあげて、頬にキスをしてきた。
突然のことに言葉を失っていると、ゆかちゃんがにっこり笑った。
「あ〜ちゃんのほっぺ、甘いね。」
「急に何をするんよ、びっくりしたわ…」
「あ、赤くなっとる、…かーわいい!」
ゆかちゃんがあたしの肩に手を回して、体をもっとすり寄せてきた。
ゆかちゃんの心臓の音が伝わって、…鼓動が、高まる。
「運転手さん、ラジオの音、上げてもらえますか?」
…ゆかちゃん?
音を上げて、…何をする、つもりなの…?
肩にまわされた手から、指先をあたしの髪に絡めてくる。
耳元でなにかささやくふりをして、首筋にキスをしてきた。
…体が、かぁっと熱くなって、ラジオの音が、聞こえなく、なった。
ゆかちゃんが、あたしだけに聞こえる声で、こっそり伝えてくる。
「ヤバい。…これ、アトついちゃうかも。」
「…ええよ、つけても。」
「な〜んてね。衣装、着れなくなっちゃうからダメじゃろ。」
「…いじわるじゃね。」
「ふふ、…見えんトコにしたけぇ、大丈夫。」
ゆかちゃんのささやき声が、続く。
「あ〜ちゃん、…ゆかのこと、どう思っとるん?」
「…ゆかちゃんさ、なんで同じこと、何度も言わせるの?」
「だって、聞きたいんだもん。」
「今、…言うの?」
「うん。」
「ここで?…恥ずかしいよ…。」
「言って。」
「……ゆかちゃん、大好き。」
「あ〜ちゃん、…よくできました。」
ゆかちゃんが、余った手をこっそり太腿に這わせてきた。
(…ダメッ、ゆかちゃん、こんなところで!)
運転席から見えないのをいいことに、ふんわりしたワンピースの影で、
ぎりぎりの際どいところまで撫でてくる。
「…んっ」
カラダに力が入らなくて…、声が漏れそうになる。でも…、拒むことも、できない。
耳元でゆかちゃんが呟く。
「———食べちゃいたい。。。。」
混乱と快感で、意識が朦朧としてきた。
…いつも、そうなの。
ゆかちゃんとの秘密の恋は…、激しくて。
触れられるたび、キスするたび、抱かれるたび、
遠くへ連れていかれて、…絶対、離れられなく、なる。
ゆかちゃんが小首をかしげて、あたしの目を覗き込んでくる。
「…どうして、欲しいの?」
そんな瞳で見つめないで…。
燃え上がる想いに、身を焦がしそう。
指先にこもる熱気まで移されて、…ゆかちゃん以外、もう、どうでもいい。
(……欲しいよ。…あたし、おかしくなっちゃいそう、、、、)
ゆかちゃんの吐息が耳たぶにかかって。
あっつくて、溶けそうになる。
…ゆかちゃん、あたし、夢に、落ちちゃうよ…!
「ゆ、ゆかちゃん———…。」
「…なぁに?」
ゆかちゃんのバックの中で携帯が震えている。
片手をあたしの髪に絡めたまま、器用に携帯を開く。
「…もしもし、うん、今日のことでしょ。…んーっと、これからだと、4時くらいになるかな…?
じゃ、いつものところでいいよね。…えっ。。。。それは内緒。じゃまた後で!」
ゆかちゃんの体温が、すっと遠のく。
「ゆか、約束あるけぇ、行くね。…運転手さん、次の角で止めてください。」
「ふぇっ…?」
「あ〜ちゃん、…続きは、また今度。…ね?」
車が止まる。
ゆかちゃんが子猫みたいにするりと座席から抜け出す。
立ち上がる直前、あたしの手をぎゅっと握った。
「またね?…ゆかの、かわいいあ〜ちゃん!」
二人の手が離れて、ドアが閉まる。
流れる景色から、ゆかちゃんが手を振っているのが見える。
手を振り返したあたしのことは、…もう見えてないのかな。
すごく楽しそうに、誰かと電話してる。
車のスピードが上がって、
ゆかちゃんの姿、どんどん小さくなっていく。
ゆかちゃんは、
まるでお月さまみたい。
満ちたり引いたり、
あたしをとらえて離さない、強い引力。
あたしをドキドキさせて、惑わせて、…翻弄させる。
ゆかちゃんのぬくもりが残る座席に、掌をくっつけてみる。
まだ、こんなにあたたかい…。
だけど。。。ゆかちゃんは、もう、…ここには、いない。
…ねぇ、ゆかちゃん。
あたし、ホントは…、
気がついてるの。
ゆかちゃんの好きな人は、…他にいるんじゃないかって。。。。
窓に切り取られた青空は、こんなに明るいのに。
…あたしの心は、泣き出しそうな曇り空なの…。
引き寄せたバックから携帯を取り出して、
震える指でダイヤルを押す。
「…もしもし、のっち? 今から会えない?」
最終更新:2008年10月12日 17:40