針の角度が小さくなった頃、ゆかはのっちの家の前にいた。
手にはコンビニで買ったバナナとぷりんと念のための風邪薬が入った袋。
メールしても返事はなかった。
もう寝てるんだそうに違いないとは思ったけど、気になりだしたらこの目で確認しないとおさまらないから…そう、確認しにきたの。
ドアノブに手をかけて回して軽く引いてみる。
…開くわけないよね。開いたらいくらのっちとは言え無用心すぎる。
だからゆかはキーケースの1番左で暇そうにしてた鍵を使うことにした。
のっちが無理矢理くれた、鍵。
使うことはないと思ってたけど、こんな時に役に立つなんて予想外だった。
「のっちー…?入るよー?」
形だけの言葉かけをして侵入成功。
キンと冷えた空間。暗い。どこの電気もついていない。
それはそうかと思うけど、ゆかならどこか一つはつけとかないと不安でしょうがない。
玄関から一つ向こうの仕切り戸が開いていた。きっとそこはのっちの食卓兼ゲーム部屋兼寝室。
音をたてないようにすり足差し足忍び足ってこれじゃ泥棒だよ。
部屋を覗き込むと…やっぱり。寝てた。おでこにはばっちり冷えピタ。
よかった。よく寝てるじゃん。心配して損した。
とりあえず買ってきたぷりんを冷蔵庫にしまおう。
覗くとそこは…なーんもない!何これ。本当になーんもないじゃん!
冷蔵庫とそこで横たわるのっちを交互に見る。
これ食べたあと、だよね?こんな調子で今日なんも食べてない…なんてこと…。有り得る。
…もっと色々買ってくるんだった…。
次はのっちを覗き込む。冷えピタにそっと触れてみたら、…ぬるい。
これ何時間冷却だっけ?こんなにぬるくて効果あんの?貼り代えといた方がいいのかな?
周りを見渡すと、そこに箱のまま横たわる冷えピタの姿があった。使いかけの袋の中から残りの1枚を取って、のっちのオデコのものをはがす。
これ新しい時冷たいよなあ。びっくりして起きなきゃいいけど。
できるだけ刺激を与えないように、できるだけそっと貼付けにかかる。
「ん…」
あ、やば。
「ん、…うぇ?なに、だ、れ」
「ごめん、起こしちゃった。ゆかだよ。風邪大丈夫?」
「ゆか…ちゃ、ん?」
寝ぼけながら伸ばしてきた手をそっと掴む。
熱い。辛いのかな?熱計ったのかな?
「大丈夫?」
「ん…来てくれたの?」
「お医者さん行ったの?なんか食べた?」
「ゆかちゃん、」
「何?辛い?」
「ありがとう」
涙を溜めたうつろな目でハニカムのっちに、胸がきつくなった。
掴んでた手をぎゅっと握ってあげるとのっちはまた目を閉じた。
「…起こしちゃってごめん」
じっとり汗ばんでる熱い手を離して家を出る。
次に目が覚めた時には、バナナとぷりんよりおいしいもの食べさしてあげよう。そうしよう。
つづく
最終更新:2010年01月19日 17:56