1日ぶりにあ〜ちゃんと過ごした1日は、のっちの単なる1日を更に盛り上げた。たった1日、離れていただけなのに、こんなにもあ〜ちゃん不足に陥るなんて、のっち自身も思いもよらなかった。
1日ぶりのあ〜ちゃんとのお昼ご飯を祝うかのような、青空とぽかぽかした日差しが、お昼休みを楽しませる。お弁当を空にして、少しひんやりしたコンクリートの床に寝転んだのっちを見て、あ〜ちゃんがぽんぽんと自身の膝を叩いた。
「のっち、膝枕してあげよっかあー?」
その言葉に目を輝かせたのっちは、すぐさまあ〜ちゃんの膝の上へと頭を移動させた。「へへへっ。」とにやけた顔が何ともだらしない。普段は、にやけるのっちを見て「気持ち悪いけえ、やめんさいや。」と言うあ〜ちゃんを今日は目を細めて髪を撫でる。触れる指先が気持ちよくて、のっちは目を瞑った。このまま眠りにつけたら幸せだろうな、と思いながら。
「そういえば、のっち昨日お昼どうしたん?」
あ〜ちゃんは、ふと友達のいないのっちのことを不安がり、尋ねた。
「昨日はゆかちゃんと食べたよ。」
「ゆかちゃん?」
「あー、こないだ会った前髪ぱっつんの子。」
あ〜ちゃんは目をぱちくりさせて黙った。急な沈黙にのっちは焦る。のっちも同じように瞳をぱちくりさせてはあ〜ちゃんの表情を窺うも、あ〜ちゃんは驚いた様子で黙り込んだままである。
「えっと…あ〜ちゃん?」
沈黙に耐え切れなくなったのっちが、あ〜ちゃんの名を呼ぶと、あ〜ちゃんはハッとして慌てて「ごめんごめん。」と苦笑しながら謝った。のっちの胸が小さくずきりと痛んだ。
「のっち、友達出来たんじゃね。」
「でもあ〜ちゃんとゆかちゃんだけだよー?」
「前はあ〜ちゃんがおってくれたらいいっていよったくせに、生意気な。」
「あ〜ちゃんだけでいいってばー、いでで。」
言い訳をするのっちの頬をあ〜ちゃんは、にやりと笑って抓ってみせた。じゃれあう時間が大切で、今日も太陽は暖かくのっちとあ〜ちゃんを見守ってくれている。そんな時間が何よりもしあわせ。
「少しぶらぶらして帰ろうか。」
いつものようにのっちの自転車のうしろに乗ったあ〜ちゃんが、こう言った。「りょーかい。」あ〜ちゃんと一緒にいる時間が増えることに素直に喜んだのっちは、路肩に自転車を止めた。2人並んで歩く夕日が差し掛かった道。それだけでのっちの心臓は、動きを早める。
あ〜ちゃんが昔から好きで2人でよく行ったクレープ屋を見つけると、あ〜ちゃんは小走りする。あ〜ちゃんを追うようにのっちもクレープ屋に向かい、注文する。2人とも昔からオーダーするものは変わっていない。暫くすると注文した品が2つ同時に出てきて、備えられているベンチに並んで腰掛けて、頬張った。
「うーん、おいしい。」
あ〜ちゃんの嬉しそうな表情を見ては、のっちの気持ちはほっこりする。しあわせそうにクレープを頬張るあ〜ちゃんを見ていると、のっちもしあわせになれた。
「あんね、のっち。」
「うん。」
「今年の、イヴなんじゃけど。」
クリスマス・イヴは毎年一緒に過ごすことが決まりのようになっていた。
それは、中学生のときに2人が知り合って仲良くなってからは、当たり前だった。毎年あ〜ちゃんの家で、あ〜ちゃんが作った苺をふんだんに使ったケーキを2人で食べながら、クリスマスの特別番組を見て談笑して過ごす。恋人ではないけれど、あ〜ちゃんと過ごせるクリスマスが、のっちにとってかけがえのないものだった。
あ〜ちゃんは少し黙り込んだ。視線を伏せて、もごもごしてのっちは目をぱちくりさせる。
嫌な予感がした。
「デートに、誘われたんよ。」
のっちの嫌な予感は、まんまと的中した。
「えっ…?」
思わず動揺を隠し切れないのっちは、食べることをすっかり止めてしまった。目をぱちくりさせてあ〜ちゃんから視線を逸らせないでいるのっちに、あ〜ちゃんは罰が悪そうに視線を逸らした。早まる心臓の音が更に過大して、のっちの脳内を駆け巡る。
「2組の、松本くんが、イヴに映画行かないか、って言うてきたんよ。」
「…で、行くの?」
「うん。行きたい。」
早まる心臓の音が更に加速する。のっちはあ〜ちゃんの言っていることが理解出来ないでいた。
「でも、クリスマス当日は、のっちと遊びたいけえ…。駄目かな?」
懇願するあ〜ちゃんを見ているのは、辛くて、
「…わかった。」
悲しげに伏せた目を上げることは出来ずに、のっちはただ頷いた。
最終更新:2010年01月19日 18:09