雨が降る、愛はfull、雨が降る。
「思わせぶりとかできない」
「…うそだ」
「ほんとだよ。本気になるからフリになんない」
[012:love me rain]
ヒールを履いたのがまずかった。これじゃ走れんじゃん。ばかだな、ゆか。ちょっと考えればわかること。
なんだか気持ちがパンパンで、余裕、ないかも。なぜだかは、わからないけど、、。
ノイズに着いたのは21時過ぎだった。
結局データ処理は手間取るし、ヒールのせいで走れんし。
道は混んでてタクシーもあてにならないこの街で、ゆかが精一杯急いで、1時間遅れ。
のっちの出番は?モデルもやるんだよね?DJは?
まさか…終わってないよね?
「ゆかちゃーん!」
独特の甘ったるい声に振り返ると、そこにはあ〜ちゃん。今日は一段とお洒落で、一段と声が高くて甘い。
こんなに人が集まるこの空間にいても、彼女はそれに溶け込むことなく彼女特有のオーラをガンガン放ってる。
ゆかの元へと駆け寄ってくる姿を何人の人が目で追ってるんだろう。
やっぱり他にいないよ、あ〜ちゃんみたいな子。すごいよ。何か、すごい。
でも、ゆかはそんな人をもうひとり知ってる。
「あ〜ちゃん!のっちは?もう出ちゃった?」
ゆかが慌てて聞くと、あ〜ちゃんは笑った。
「まーだだよ!大丈夫、人気者はすぐに出やせん!」
「なるほどー」
「あっ!ちょうどショー始まるみたい!」
あ〜ちゃんが言うと、その一秒後にライトが消えた。
ステージにピンクの照明があたる。いつのまにかDJがR&Bからハウスに変わった。柔らかいベース音が響く。
ショップの店員やら、その友人やら、何人かが順番に出てきてはウォーキングしてポーズとって、を繰り返す。
それを何回か繰り返したところで、ゆかの知ってるもうひとりが出てきた。
「あ、のっち、、」
途端にお客さんから声があがる。可愛いだのかっこいいだの、歓声ってほどじゃないけれど辺りは確実にざわざわしていた。
のっちの着てる服も、歩き方も。普段見せないようなクールな表情も、全部が全部かっこよくて、ゆかは誇らしかった。
ゆかの友達、すごくない?超かっこいいでしょ。
「ねぇあ〜ちゃん!のっちかっこいいね!」
「ふふwうん」
「モデルやればいいのにね!」
「んー、、うん」
「…なに?」
「ふふw」
「なんよ?」
「DJの方がもっとかっこいいからちゃんと見ててあげて?」
大音量の音楽のせいで、あ〜ちゃんはゆかの耳元で言った。
ゆかの耳の奥はあつくなって、その言葉が何度も再生されては期待は膨らむばかりだ。
早く見たい。のっちがDJしてるとこ。
そんなことを考えてる間に、のっちの姿はもうステージにはなかった。
ショップのラインが変わって、新しいモデルたちと雰囲気が変わった照明。
DJブースに目をやると、そこには人だかり。…間違いない。のっちだ。
のっちがDJやるってなると、さっきまでフロアでショーを見てた半分くらいの人が今度はDJブースの前に移動し始めた。
瞬間、照明が落ちて辺りは真っ暗になった。ターンテーブルのまわりのライトだけが、不規則にチカチカ光ってる。
「きた!」「くるぞ!」「でる!?」まわりからのそんな声とともに、照明は一気に派手に光りだした。
DJブースでは見慣れた綺麗なショートボブが揺れていた。
————————————
「どうよ?禁欲w」
「そうゆうこと言うんじゃないよww」
「ふふw平気なのー?」
「んー、、ま、今んとこ」
「…へー」
「てか、それどこじゃないわー」
「どしたん?」
「うぬぼれてるのかなー?」
「…なにがよ?」
「へへーw」
「……うざっ」
「なっ、!?」
「てか明日なにかけるん?」
「んー」
「アイビリーブ?」
「いやー」
「レフレックス?」
「まさかw」
「えーなにー?」
「……らぶ?」
「うわっw本気じゃん!w」
「…そろそろね」
————————————
DJブースの前で踊りだす男の子。
そんな男の子を見て笑う女の子。
DJプレイに関心してる男の子。
そんなDJに惚れ惚れしてる女の子。あ、男の子もか。
まわりのお客さんをチラッと見て、DJはニカッと嬉しそうに笑う。器用にベース音をあげたりさげたり。
DJのことも音楽のこともそう詳しくはないけれど、のっちのやってること、かっこいいって思う。
選曲だってさっきまでの人より断然センスがいいし、てかその見た目!捨てたもんじゃないね。
少し離れた位置からのっちを見つめる。あ〜ちゃんはのっちの隣に行ってしまった。
ゆかちゃんも行こうって腕をひかれたけど、ゆかは、行けなかった。
なんだかそばには近寄れなかった。ゆかには、、ゆかは、何も持ってないから、、。
「かしゆか?」
肩に伝わる振動と、呼ぶ声に振り返ると、
「カヨ、ちゃ、、」
「…ひさしぶり」
「・・う、うん、」
うまく声が出なかった。
うまく笑うことも出来なかった。
そりゃそうだ。カヨちゃんがここにいることの方が自然だ。ゆかのが不自然。少し前までは考えられなかった。
カヨちゃんがフロアから外れたドリンクカウンターを指差す。
ゆかはチラッと横目でのっちを見てから足を進めた。
“ちゃんと見ててあげて”
あ〜ちゃんの言葉が再生される。
だけどゆかは、、その資格が、あるのかな、、。
「今日はどしたの?めずらしいね、かしゆかクラブくるなんて」
「う、ん、」
「最近会わないもんね。知ってた?今日私もDJで出たんだよ」
「あ、そうなんだ、、見たかった、な、、」
「……うそ」
「え、」
「興味ないでしょ?」
「え?そんな、」
「あー!うそ!ごめん、なんか、」
「・・・ううん」
「…で、どしたの?今日」
ドリンクカウンターの隅、天井から吊された小さいモニターにDJブースが映ってる。のっちいい顔してる。今日、ゆかは、、
「……のっち」
「え?」
「のっち、見にきた」
思い切って言ってみたら、カヨちゃんは笑ってくれた。そっか、って。仲良くなったんだね、って。
まるで全てを知っていて、ゆかから早く聞きたかったかのように、カヨちゃんは笑って言った。
「ごめ、、カヨちゃん、ゆか、」
「ねぇかしゆか!」
「ん?」
「カヨたち友達じゃん?てゆうかむしろ親友じゃん」
「う、ん、」
「だからね、隠さないで?溜め込まないで?」
「カヨ、ちゃ、、」
「壁、、つくんないでよ、、」
ごめん、カヨちゃん。ごめん。
ゆか、何してんだろ。何してたんだろ。カヨちゃんの何見てたんだろ。何知ってたんだろ。
久しぶりに話したカヨちゃんは、やっぱりゆかより数倍大人で、可愛くて、優しくて、、ゆかが大好きなカヨちゃんだった。
変わらず親友は親友だった。
ちっぽけな自分が、笑えるほど情けなかった。
「ごめんね、呼び出しちゃって。早く行きな、終わっちゃう!」
「あ、うん。ありがと!」
バイバイ、またね。と手を振って、カヨちゃんは奥へと消えてった。
のっちとのことは聞かなかった。聞けなかった。
親友に、“住んでる世界が違う”とまで言わせたその人と、今はゆかが仲良いなんて、、。
少なからずのっちはゆかの親友を傷つけたのに、そんな人をゆかは好きだなんて、、。
ん、、好き、、、?
好き、だなんて言うと変な気分だ。変に意識してしまう。
そうじゃなくて、、そうじゃなくて、、、。
のっちはゆかの友達なんだ。大事な大事な友達なんだ。
ゆかはのっちの普通の友達。普通の普通の友達なんだ。
そんなことを考えながらフロアへと急いだ。
DJブースの前には相変わらず人だかり。
少し高くなってるそのブースステージ。のっちの隣にはあ〜ちゃん。
はたから見れば間違いなく恋人みたいだ。ここでは男とか女とか、そんなのは気にならないように見える。
あ〜ちゃんはのっちがかける曲にあわせてノリノリで踊っては客を煽ってる。
そんなあ〜ちゃんを見てのっちは嬉しそうに腰を抱いた。
ゆかはそれを遠目で見てた。
来る時くもりだった空は、今、星が出てるかな。
雨が多くて嫌になるよ。東京の雨はいつだって怖いんだ。
フロアに響く音がだんだん小さくなっていく。
なんだろう、よくわかんないけど、ゆか、この曲好きだ。
それはとても、身体の中が熱くなるような。
音が消えてステージに派手な照明があたる。
ショーがまた始まる。
同時にDJは交換。
消えてくのっちの綺麗なショートボブ。
最後のあの曲、あれなんてゆんだろうな。
最終更新:2010年01月19日 18:11