「ねぇ、ゆかちゃん。起きとる?」
「んー、起きとるよ?」
「あんね・・・ちょっと、ゆかちゃんに聞いてほしい話があるんじゃけど、聞いてくれる?」
「?ええよ」
ふたりとも布団に入り部屋の灯りはとうに消して、だいぶ目が暗闇の慣れた頃あ〜ちゃんに話しかけれた。
「ちょっと長くなっちゃうかもしれんけど、ええ?」
「うん。平気よ」
「話聞いてる途中で寝ちゃうってのは無しだからね?」
「あはは。ダイジョーブダイジョーブ」
あ〜ちゃんの顔はここからじゃ見えないけど、声のトーンが少し緊張しているのがわかる。
それがわかったから、ゆかは少しでもあ〜ちゃんの緊張を和らげようと明るい声を出した。
「のっちのこと・・・なんじゃけど・・・」
「うん」
「実は・・・のっちとは”友達”じゃーないんよ」
「うん?」
「付き合ってんの・・・二年半前から」
「・・・付き合ってるって、、、それって”恋人”って意味?」
「うん・・・」
なんとなく、もしかしたらそうなのかもって実は思ってた。
でもあ〜ちゃんの口から直接言われると、やっぱり驚いた。
「・・・女同士で付き合ってるって聞いてドン引き?」
「そんな事思ってないよ!」
「キモいって思った?」
「思ってないよ!!あ〜ちゃんはキモくなんてないよ!!」
「のっちの事は誰にも言ってないんよ。家族にも他の友達にも・・・」
「うん・・・」
「ゆかちゃんだけに初めて話したんよ・・・」
「どうして、ゆかに話してくれたん?」
「だって・・・ゆかちゃんとはずっと友達でいたいと思ったから、、、親友で、いたいと思ったから、、、」
あ〜ちゃんの声が震えてきた。見えないけどきっと泣くのを堪えているんだ。
「ゆかちゃんには、ホンマの事、知って・・・ほしかったんよ・・・」
「こんなん聞いて、、、あ〜ちゃんの事嫌いになった?」
「なるわけないじゃん!!」
「嫌いに、ならんでぇ・・・ヒック、ヒック。ゆかちゃん、、だけ、には、ヒック、ヒック、嫌われとうないんよ」
「だからなるわけないでしょ!!」
ゆかはベッドから抜け出して、嗚咽してるあ〜ちゃんを抱きしめた。
「ヒック、ヒック・・・ホンマにぃ?ずっと、ヒック、ヒック、、、友達で、、いてくれるのぉ?」
「当たり前じゃろ!!うちらはこれらもずっと友達だよ!!」
「あでぃがどう・・・」
「ゆかこそ、話してくれてありがと・・・」
その夜、ゆかはむせび泣くあ〜ちゃんに寄り添って眠った。
そういう男同士、女同士で付き合ってる人たちがいるは知ってるけど、実際会ったのは初めてだった。
正直、気持ち悪いって思わなかった。普通の人はそう思うのかな?ありえないって思うのかな?
ゆかはそう思わんかったよ。だってあ〜ちゃんは可愛いし、のっちは綺麗だし、二人とも絵になるじゃん。
そんな二人が気持ち悪いわけないじゃん。だってそういう人がいてもいいじゃん。
そう考えるゆかはおかしいのかな?
単純に考えすぎなのかな?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おはよ」
「おはよ」
翌朝、あ〜ちゃんと顔を合わせたらちょっと照れくさかった。
あ〜ちゃんもそう思ったからか、二人で笑い合ったりした。
リビングにいくと、のっちは長い手足を投げ出してまだソファーで寝ていた。
「ちょっと〜、のっち。起きてよ」
あ〜ちゃんがのっちの身体を揺する。
うーん、昨日二人は恋人同士って言われたからか、妙に意識しちゃう。
「んー・・・あぁ!!」
まだ目が完全に開いてないのっちは猫みたいに全身を伸ばしている。
「ねぇ、車でゆかちゃん送って」
「へいへい・・・」
のっちはおはようも言わずトイレに入った。
「ごめんね。あいつ、愛想悪いでしょ」
「ううん。そんなこと・・・」
ある。とは、さすがに言えない。
「しかも基本無口だからみんなちょっと怖がるんだよね」
「へー、そうなんだ」
はいはい。ゆかも怖いって思ってます!
「でもそれは見かけだけなんだよね。”あれ”喋ると残念な子だからw」
のっちのコトをちょっとバカにして話すあ〜ちゃんは、とても優しい顔で、それは本当に「のっちの事が好きなんだな」って伝わってきた。
「えっ?あ〜ちゃんも行くの?」
「はぁ?なんで行っちゃいけんのよ!」
身支度を終えたのっちは、ちょっと怒ったあ〜ちゃんを尻目に冷蔵庫を指差した。
のっちの指した先を見たあ〜ちゃんは「あっ!!」って声を上げた。
「今日だったの忘れてたわ〜」
あ〜ちゃんが手に持ってるのはガス点検をお知らせする紙。
どうやら後10分くらいでガス屋さんが点検しに来るらしい。
あ〜ちゃんはそれに立ち会わなくちゃいけないから、渋々お留守番。
ゆかはのっちの車で送ってもらうことに。
その足でのっちは仕事に行くらしい。
てことは、のっちと二人っきり!?
しかも車の中。てことは密室!?
ヤバイ・・・何話していいか、わけわからん。
電車で帰ろうかな・・・。あー、財布に330円しか入っとらん・・・。
「車、地下だから」
「はい・・・」
スタスタ歩くのっちの後を追う。
この人、仕事行くらしいけどめっちゃラフな格好・・・。
たしかサービス業って言ってたよね?こんな無愛想な人がサービス業なんて務まるのかいな?
チン。
5階にエレベーターが着いた。
箱の中はゆかとのっち、ふたりだけ。
「ありがとね」
うー気まずいって思ってたら、急にのっちにそう言われた。
何がありがとうなのかわからないゆかは、きっと今不思議そうな顔してたんだろうな。
「綾香のこと、受け入れてくれて・・・ありがと」
のっちの視線は常に階数を知らせてる電光ランプ。
必然的にゆかはのっちの横顔しか見れない状態。その横顔はとても綺麗だった。
「昨日・・・聞いてたの?」
「うん」
あっ、B2に着いた。
のっちはゆかに歩調を合わせようとせずに、スタスタ歩き出す。
ゆかは小走りで追いかける。
「綾香ねぇ、樫野さんのことめっちゃ好きだから受け入れてもらったこと、ほんとに嬉しかったんじゃないかな?」
「そうなんだ」
「そうだよ。最近の綾香はいつもキミの話題ばっかだよ?」
「へー、なんかちょっと恥ずかしいなw」
のっちは「どうぞ」って言って車の助手席のドアを開けてくれた。
それだけのことなのにこの人への苦手意識が少し薄らいだ。
「のっちはあ〜ちゃんみたいに、あの・・・その、ゆかに・・・その」
「あぁ、誰かにカミングアウトしたかってこと?」
「・・・うん」
「いや、誰にも言ってないよ。てか、言う必要なくない?」
どこか冷たい言い方。あっ、やっぱりこの人苦手かも・・・。
「別に綾香のことを否定してる訳じゃないよ。だだあたしには自分のことを理解してほしい人が周りにいないだけ」
「友達とかいないの?」
「んー、いないに等しいかな。元々人付き合いは苦手だし。あたしは綾香がいればそれでいいから」
「職場の人には?」
「なんで職場の人にわざわざ自分の性癖を告白しなきゃいけないの?『私はレズです』って言う必要がないじゃない」
「そう、だよね・・・」
「それにもしカミングアウトしたら、絶対偏見視されるって」
「そうなの?」
「そうだよ。『この人、私のことそういう目で見てるんじゃない?キモイわ』って思う人出てくるってw」
「ゆかは、そう思わなかったけど・・・」
のっちは一瞬視線をゆかに向けた。
「しかもそういう風に思ってる人って大抵ブサイク。誰もオメーになんて欲情しねーよって突っ込みたくなるようなw」
「そうなんだ」
「そうだよ。それに同性愛者だけが告白するのって割に合わなくない?だったらSM好きとかロリコン好きの人も自分の性癖言わなきゃ、ズルいっしょw」
「はぁ・・・。あっ、そこ次、右」
「へーい」
のっちは軽やかに右折した。
この人は前にそういう偏見を受けてきたのかな。
それともそういう人を見てきたのかな。
ゆかにはわからない世界にのっちは住んでるんだね。
だからその世界にいるあ〜ちゃんを一生懸命守ろうとしてるのかな。
そうじゃなきゃ『綾香がいればそれでいい』なんてちょっとキザなセリフ、さらっと言えないよね。
「あっ、これ。あ〜ちゃんとおそろ?」
ゆかはのっち左手の薬指にあるゴツめの指輪を、指して訊いてみた。
「うん。かっちょいいでしょ?あたしが選んだんだ」
「でもそこに指輪はめてると、色々訊かれるんじゃない?」
「んー、あんまり。そもそもあたしって何故か周りの人に怖がられてるらしく、ほとんど話掛けられない」
「あー・・・」
「綾香だけは違ったんだよね。他の奴らとは違うんだよ、あいつは」
のっちは真っ直ぐ前を見ている。真っ直ぐ見ている彼女の横顔はやっぱり綺麗だった。
「あっ、ここで大丈夫」
「そう?」
「送ってくれてありがとう」
「いーえ」
「あっ、仕事がんばって」
「へーい」
ゆかが車から出ようとドアに手をかけた時のっちにまた「ありがと」って言われた。
「綾香と友達になってくれてありがとね」
「ううん。ゆかもあ〜ちゃんと友達になれて嬉しいよ?」
ありがとうと何度も言う彼女。
その時だけはあの無愛想な感じはしなくて、優しい顔つきになる彼女。
「あいつ、周りに人がいないとダメなんだよね。寂しがり屋つーの?だからこれからも一緒に遊んでやって?」
「わかった。てか、のっちなんかあ〜ちゃんの保護者みたいだよw?うちらと同い年でしょ?」
「いつ同い年って言ったよ?おじさんはキミたちの三つ上だっつーのw」
「えっ!?そう、なの?あ・・・そうなん、です、ますか?」
急に年上だと言われちゃって、タメ口と敬語が入り混じって噛み噛みになっちゃった。
「あははは。タメ口でいいって。じゃあね」
この人が笑ったとこ初めて見た。あっ、八重歯が見えた。
ただそれだけのことなのに、彼女への苦手意識がだいぶ薄らいだ気がした。
最終更新:2010年01月19日 18:45