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いつものように手際よく身支度を整え終わると、彼女はあたしの手を握った。

「ケジメは大事じゃろ?今度こそ」

そう告げる彼女。それはまるで、本当にこれが最後だよ、という再確認のようにも思えた。


「ありがと、ゆか」


それが彼女があたしのことを下の名前で呼んだ最後の台詞だった。

それまで、あたしたちはコイビトだった。
確かにふたりは、コイビトだった。


「これからは、トモダチ、としてそばにいて?」


この手を離したら、もう二度と元には戻れない。
そんなことを思った瞬間に、その手は儚くも簡単に離れて行った。

残されたあたしの手の平は無駄に大きいだけで、何も掴めてはいなかった。








「・・・ゆめ、か。。」

ちっ。。
生々しいんだよ。もう3年も前の話じゃんか。


汗ばんだ首筋に絡み付く髪の毛をかきあげながら、身体を起こす。布団から出た上半身だけが冷えた朝の空気に晒される。

真冬の朝の冷たい空気は、肌の奥まで突き刺すように痛い。
それは、鋭角になった夜の隙間によく似ている。と、前に誰かが言っていたことを思い出した。あぁ、そうだ、あの人だ。クリエイター志望でよくDJをやってたあの彼。
「夜の隙間」だとか、それが「鋭角」になるだとか、フツーの凡人でしかないあたしにはその意味は未だよく分からないけれど、妙にその表現がしっくりくることだけは分かる。


今朝の冷たい空気は生々しい夢のおかげでより鋭角になっている気がする。それはまるで抉られた心に凍みるみたい。






だけど、布団の中はいつもよりも暖かくて。人肌の温もりに包まれていた。
確かめるまでもなく、その原因はあたしの腰に絡み付く長い腕の持ち主のせい。夜な夜な現れる布団の中への不法侵入者。


ちっ。
まぁ〜た、人のベッドに入り込んでるよ、のっちの奴め。居候の分際で。


始めは奴の寝床はロフトだったはず。

「なんかわくわくするー!秘密基地みたーい」なんて言って、喜んでロフトに上がって寝てたくせに。ナントカと煙は高いところが好き、って言うしね?お似合いじゃんか。
それが三日後には、薄い布団一枚じゃ下が固すぎる、なんて文句を言って、(勝手に)ソファーの上で寝るようになって。
そして、冷え込む夜はいつの間にかこうやって人のベッドに入り込んでいる。お前はネコか!?っつーの!しかも無意識なのか、確信犯なのか、いつも当たり前のようにあたしを抱きしめながら、気持ち良さそうに寝ている。っていうか、抱きしめられながら朝まで起きないあたしもどうなんよ、って話なんだけど。


だって、他人と一緒のベッドで寝るのって本当は好きじゃない。っていうか、「野菜を食べるのとどっちが嫌い?」って聞かれたら究極の選択になるくらいに苦手。
まず、他人の吐息を同じ布団の中に感じるってだけで居心地悪いし、ましてや、腕枕なんてされた日には肩が凝って寝た気になれないし。
なんで男ってバカみたいに腕枕したがるんだろうね?する方だって楽じゃないのに。とりあえずそうしとけば女の子はみんな喜ぶとでも思ってんだろうね?ホント、頭悪い。


だけど、あたしは此奴に限っては平気みたい。

いつも気づくのは朝になってからだもん。
これが、慣れ、ってヤツ?ホント、人間って変なことにばっかり慣れていくよね。しかも案外早いスピードで。
不思議、不思議。ホント、不思議すぎるね。だけど、全く!と言っていい程、愛とか情なんて1mmだって抱いてはいないから、ってことかも知れない。だって、もうむしろ、色んな不満を通り越して、空気的存在っていうか。いや、空気と違って無くなっても困ることはないけど。たぶん。


だけど、それでも、やっぱり、、


「なんか、ムカつくー」





ぐにぃーとのっちのやわらかいほっぺたを抓ってやると、面白いほどに眉毛はキレイな八の字を描く。
ダメだ、この眉。。好きすぎる。だって、コレちょー面白い!!!漫画みたいなんだもん。


「んー・・・マリちゅわーん・・・」


って、、マリって誰よ。この前の寝言はエミリーだったっけ?その前はユウ?
絶対遊びまくってる人の寝言だよね。うちに棲み付く前も色んな人の家をふらついてたみたいだし。まったく、、何人の女の子を泣かせてきたのか。。あ、もしかして男の子も?
チャラい、チャラい。ホント、チャラいよ。まぁ、あたしも大して人のこと言えた立場じゃないけどさ。あ、これが同属嫌悪ってヤツ?いや、だけど、絶対あたしの方がマシだね。・・・遊び慣れた女を演じきれないだけ、惨めでマシ。

だいたい、あたしの腰を撫でるこの手付き。まぁ、夢の中ではマリちゃんの腰を撫でてるつもりなんだろうけど。朝っぱらからヤラシーんだよ、エロのっち。

コレがあ〜ちゃんのことを好き、だなんてありえないじゃろ。っていうか、コイツだけには、指一本触れさせたくないな。。
・・・・なんで、、よりによって、あ〜ちゃんなんだろ?なんで、、あ〜ちゃんじゃなきゃ、ダメなんだろ・・・。


「・・・ぅ、、」


ほっぺたを抓る指先についつい力が入ってしまったらしい。
のっちのキレイな八の字眉が更に歪んで、その下の瞳がうっすらと開き始めた。

あ、起きた。
半開きでも、目おっきいんだね。


「ふぁぁ、、、あるぇー?・・ゆかちゃん?」
「ごめんねー、マリちゃんじゃなくてー」
「・・・んぅ?」


可愛らしく首をかしげやがって。そんな可愛い子ぶったって、マリちゃん?誰それ?って顔に書いてあるよ。
ホンット、分っかりやすい奴。


「・・・・ってか、ゆかちゃん、泣いた?」
「別に・・」
「でも、涙のアトが」


言われて、慌てて目尻を擦った。


「欠伸しただけ、だって」


今のあたしには。
涙を流す理由すら、もう何もないんだ。


<04-終>





最終更新:2010年01月19日 19:02