気付いた時には遅かった、気付いた時には雨だった。
「…忘れな、よ」
「・・・」
「…忘れてよ!」
[014:It was notice just rain]
東京の雨はいつだって怖いくせに、ゆかがそれを望んでしまった夜から数日がたった。
相変わらずあ〜ちゃんは女豹ちゃんで、合コンのお誘いメールがひっきりなしにくる。
相変わらずのっちはつかめなくて、フラフラしてると思ったら突然の更生宣言。本当、よくわかんない。
相変わらず三人でだらだらと夕飯を食べたり遊んだり、、。
だから…変わったのは、ゆかだ。
二人とも気付かないし、ゆか自身も認めないけど、ゆか、ちょっとおかしんだ。
なんてゆんだろ。こう、胸がギューってなってズキズキするし、はぅーってなる。
それもこれも…認めたくないけどのっちのせいだ。
あんな無邪気に、あんな優しく、あんな、あんな表情で「かわいい」なんて言うから、
ゆかはなぜだか嬉しくなって、そんで、ちょっとだけ苦しいんだ。
それなのに好きな人がいるみたいな、いないみたいな、よくわからないこと言って。なぜだかゆかは焦ってる。
別にいんだけど。別にいんだけど、、。のっちが特定の人を好きになるって不可能なことだと思ってた。
大失恋をした相手を今でも想い続けて、情けなくてかっこわるくて、それでいて無茶苦茶で。
そんなのっちが次へ進もうとしてるのを、ゆかは素直に喜べなかった。
ねぇのっち?ゆかはどうしたらいい?ゆかの存在意義はどこにあるんよ?
こんな大都会の東京という街で、のっちという光がいなくなったら、ゆかは、、ゆかは、、、。
「ただいまー」
「あ、おかえりー」
“今日は遅くなるけど夕飯家で食べます。待っててくれない?”
昼間のうちにのっちからきたメール。
“じゃ、ご飯つくって待ってるね”
ゆかはすぐに返信した。
本当にちゃんと帰ってきた。
のっちの部屋に合鍵で勝手に入って、勝手にキッチンつかって。
こんなおままごとみたいな新婚ごっこでも、ゆかは嬉しくなる。認めたくはないけれど。
キッチンに立つゆかの後ろに荷物を置いたのっちが立つ。
いい匂いーごはんなにー?って覗き込んでくる。ゆかはそれを横目で見て、たまらず振り返った。
「ん?」って可愛く首を傾げて、
ニコッて優しく目を細めて、
「なに?」って指先でゆかの前髪を撫でるから、
“ううん”ゆかは首を横に振って、あいてる胸に飛び込んだ。
最近、自分の行動に自分が一番驚くけど、もうゆかに離れる気はなかった。
まわした腕におもいっきり力を込めて、音が出るほど抱き締めて、その広い肩に顔をすりよせた。
グリグリグリグリ頭をすりよせて、“ちょっとやりすぎた?”なんて思ったけどもう遅いし、ゆかはもう戻れない。
「…ねぇ、ゆかちん?」
のっちの声が頭の上から降ってくる。
優しい声、あったかい声。
「…なに?」
でも、のっちの腕はゆかを抱き締めないから、ゆかの両腕はますます力を増すばかりだ。
「・・・シタイの?」
のっちの声は言葉とは裏腹に、優しかった。
「違う、、そうじゃない」
そうじゃないんだ。ゆかは違う。
その他大勢と一緒なんて嫌。
「…そっか、、」
のっちは小さく笑いながら呟いて、その長い両腕でゆかを抱き締めた。
ゆかがしたみたいな力任せの乱暴なのじゃなくて、ふわって柔らかくて優しい、包み込むような。
のっちの腕の中は、あったかい。そう感じるのはなぜだろう。
簡単だよ、のっち。ゆか、、、
「ねぇ、のっち」
「ん?」
「まだ、、」
「…ん?」
「・・・好き、なの?」
抱き締めてるのはゆかなのに、
抱き締め返してるのはのっちなのに、
抱き合ってるのはふたりなのに、
なんでゆかは別の誰かの話なんかしたんだろ。
簡単だよ、のっち。はっきりさせたいんだ、ゆか。
「・・・そうゆうの、、面倒だな」
のっちの声は変わらず優しいし、腕の中はあったかい。
でも…面倒ってなにが?
その人の話は、面倒?
好きって感情は、面倒?
ゆかが、面倒?
ねぇ、のっち、ゆかは、、、
「・・・そっ、か、、」
精一杯冷静を装ってみたけれど、抱き締める腕にこんなに力が入ってちゃ台無しだね。
ねぇ、のっち。ゆか、今認めたのに。
認めた瞬間、闇に落とされた気分になったよ。
のっちの肩越し、窓の外は気付いたら雨だった。
いつの間に降りだしたんだろ。
それはまるで、ゆかが闇から解放されることがないような、生温くて気持ち悪い雨だった。
…なんでだろ。
うまくいかなくてもいいんだ。なにも起きなくてもいい。この先に待つのが絶望でもいいから。
こんな時くらい、せめて晴れてよ。
初めて、好き、を認めた時くらい。
最終更新:2010年01月19日 19:06