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あ〜ちゃん泥酔事件(事件というほどでもないけど)から1週間、あ〜ちゃんとは学校で会うけどのっちには会わなかった。
どうやらあの日の出来事はあ〜ちゃんはほとんど覚えてないみたい。
あ〜ちゃん曰くのっちが来たところまでは覚えているけど、おんぶされて帰ったことは記憶にないらしい。

ゆかはまだふたりがくっ付いた話の続きをきいていない。
訊きたいけど、訊くタイミングがなかなかないんだよね。

「いらっしゃいませ」
今日は性悪店長がいない日だから気が楽。そのかわり同じ時給なのがたまにムカつくやる気のない鈴木さんと一緒だけど。
一通り仕事を覚えたゆかはあれ以来失敗はしてない。

平日のこの時間って暇なんだよな〜。
ゆかはガラス張りの店内からボケっと外の風景を眺める。

あっ、のっちだ。
グレーのパーカーに下ジャージって、ラフな格好。手にはコンビニの袋。まるで田舎のヤンキーみたいだよ。
あら、髪切ってる。おにぎりヘアーじゃなくなってる。

のっちがゆかに気付いて、店内に入ってきた。
ちょっと緊張しながら、いらっしゃいませを言う。

この人は黙ってるとホント美人だ。
うちらの三つ上って言ってたけど、髪を切って同い年って言っても十分通じるくらい幼くなった気がする。

「ども」
少しぎこちなく軽い会釈をするのっち。
「髪切ったんだね」
「うん。ずっと切りたかったし、仕事するのにもうざったかったからね。綾香には、おにぎりから栗になったって言われたけど」
のっちはゆかのかわりにカウンターのメニューを見ながら会話をしている。
「あはは。あ〜ちゃん言いそう」
「この間の柿、ぜんぶ食った?」
「柿?あぁ、あれ。さすがにひとりじゃ食べ切れんかったから、バイト先の人に分けたよ?」
「そりゃ、そうだよね。だってうちで食べる分も渡しちゃってたから」
「えっ?じゃあ、のっちたち食べてないの?」
「うん。美味かった?」
「美味しかったよ。種もなくて食べやすかった」
「ならよかった。これひとつ」
「ゆかだけ食べちゃってごめんね」
「いいって。あたしが多く渡したのがいけなかったんだから」
「・・・。はい、300円になります」
あれ?ゆか、のっちと普通にしゃべってない?
これって、すごい進歩じゃない?この前までちょっとビビってたのっちとしゃべれてるw
それだけでもなんだか嬉しいし、楽しい。

「はい」
「ども」
のっちに出来立ての商品を渡す。
「ねぇ、仕事って何してんの?」
「地下鉄掘ってる」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うひゃひゃひゃひゃ」
「そんな笑わんでもいいじゃろ・・・」
こんな甲高い声で笑うあ〜ちゃんを初めてみた。
「ごめんごめん。あー、おなか痛い。ひー、ひっひ」
バイト終わりにいつものようにあ〜ちゃんから「うちでご飯食べない?」ってメールが入ってたから、お言葉通りゆかは今あ〜ちゃんちにいる。

「で、ゆかちゃんマジでのっちが地下鉄掘ってるって思ったん?」
「いやー、さすがに違うだろって思ったけど、『もしかして?』ってのは一瞬よぎったw」
「あひゃひゃひゃ。あ〜ちゃん、その場にいたかった〜」
「もう、恥ずかしいけぇ。からかわんでよ」
今日のあ〜ちゃんの手料理は栗ご飯。なんでものっちのNew髪型を見て急に栗が食べたくなったんだとw

「結局のっちって何の仕事してんの?一度訊いたらサービス業って言ってたんだけど」
「サービス業ね・・・。そんなに知りたいん?」
「うーん?うん。・・・知りたい!」
「じゃけぇ。したらこれから行こうか!のっちの仕事見に」
「え!?これから?」
「うん!!決めた!行こ行こ!あ〜ちゃんも久しぶりに見るしw結構楽しいよのっちの仕事w」
「のっちに許可とらんくていいの?」
「いいのいいの。気にしなーい。気にしなーいw」
ゆかたちは夕ご飯をそっちのけで、急いで身支度をし駅に向かった。
向かった先は駅前から約徒歩10分くらいの位置に立ってあるビル。
ゆかのバイト先のコーヒーショップから比較的近くだ。

ここの3階なんよって言いながらエレベーターを呼ぶあ〜ちゃん。
3階の案内には『ミズノダンススクール』って書いてあった。

えっ?てことは、のっちはもしかしてダンスを教えてるインストラクター?

3階に着くとすぐスクールの受付で、あ〜ちゃんはどうやら顔なじみのようですんなり通してくれた。
外観はどこにでもある雑居ビルだったけど、内装は綺麗だ。




「こっちこっち」
あ〜ちゃんは少し小声にして扉に空いてある小さな窓を指差した。
その奥にはのっちが流れてくる音楽に合わせて踊っていた。

ヤバイ、なんだあれ。
めっちゃ、かっこいい。
ちょっと鳥肌立った。

のっち、めちゃくちゃにかっこいい。
なんだか知らないけど心臓がドキドキうるさい。

「かっこいいね・・・」
これは無意識に口から出た一言。
「じゃろー。のっちは黙ってる時と踊ってる時はかっこいいんよw」
のっちのことを誇らしげに語るあ〜ちゃん。

「じゃあ、今日はもう時間なんでもう終わりです。お疲れ様でした」
部屋の奥からのっちが練習を終わらせる声が聞こえた。
ちぇ、もう終わりなん?もっと見たかったのに〜って名残惜しそうに呟くあ〜ちゃん。
ゆかももっと見たかった。のっちの違う一面がもっと見たかった。

ぞろぞろと練習生が部屋から出てくる。
ゆかたちは壁際に避けて邪魔にならないように気をつけた。

その中からいつもお店にくる四人組の女の子たちが出てきた。
やっとその子達がジャージを着ていた理由がわかった。ここの練習生だったんだ。

部屋を覗くと、ひとりの練習生の子がのっちと何やら話をしている。
会話は外で待ってるうちらも聞こえる音量だ。

「先生、次の休みはいつですか?」
「火曜だけど?」
「じゃあその日って何か予定入ってますか?」
「いや。別に入ってないけど?」
練習生の子は下心丸出しで、のっちの腕に絡みつき自分の胸をくっつけながら訊いてる。
それを見たゆかは内心ドキドキであ〜ちゃんを見たけど、あ〜ちゃんは動じずにその出来事を関係なさそうに傍観してた。

「じゃあその日一緒にどこか行きませんか?」
「なんで?」
すんごいぶっきら棒に対応してるのっちを見て、思わず吹き出しそうになった。
練習生の子は明らかに固まってる。ちょっとウケる。

「ほら、最近物騒だしもう遅いから早く帰らないと親御さん心配するよ?」
「そんな心配なら先生が送ってて下さい」
「今度の昇級テストに合格したらいいよ」
「ホントに!?絶対だよ?約束だからね!!」
「はいはい・・・」
練習生の子はのっちの手を強引にとって指きりげんまんをした。
されるがままの、まるでやる気のないのっちが面白い。




やっとその練習生の子が部屋から出て行った。
と同時にのっちのため息もきこえた。

『大本せんせー』
いきなりあ〜ちゃんがふざけて、甲高い声をだした。

「はい?・・・あ〜ちゃん!?」
あ〜ちゃんを見て驚いてるのっちの顔はマヌケ面だった。
「なんでいんのよ?」
「なに教え子はべらかしとんじゃ!とうっ」
「いでっ」
あ〜ちゃんはのっちのお尻に蹴りをおみまいした。と言っても怒ってそうしたって訳でもなく、じゃれ合ってる感じ?

「ゆかちゃんがのっちの仕事みたいって言っとったから連れてきてあげたんよ」
のっちはまだ部屋の中に入れてないゆかに気付いて、またあのぎこちない会釈をしてくれた。
ゆかもそれにつられて同じ行動をした。

「ダンススクールのインストラクターだったんだね」
「・・・うん」
あれ?もしかして、ちょっと不機嫌?勝手に来ちゃったから?
ほんとはゆかは見たいって言ってないんだよ。半ばあ〜ちゃんに強引に連れてこられただけだから。

のっちはゆかたちをほっぽいて、部屋の隅のロッカーからモップを取り出して、床を拭き出した。
「のっちぃ〜。あとどれくらいで終わるん?」
あ〜ちゃんは近くに置いてあったパイプ椅子にちゃっかり座ってる。
「んー、あと2、30分じゃね?」
「遅っ。そんなかかるん?なんでー?」
「なんでって、これから掃除して日誌つけなきゃいけないからよ」
「ゆかちゃん、どうする?のっちの車で戻る?それとも電車で戻る?」
「えっと、どうしよっか?ゆかはどっちでもええよ?」
「キミたちー。仕事の邪魔だから先、車で待ってなさいよ」
そう言ってのっちは車のキーをあ〜ちゃんに投げた。
のっちのくせに生意気じゃってぶつくさ言いながらも、あ〜ちゃんは素直にのっちの車に向かった。



なんか学校やゆかと一緒にいる時のあ〜ちゃんと、のっちと一緒にいる時のあ〜ちゃんって違う。
学校にいる時は人気者でしっかり者のあ〜ちゃん。
のっちといる時はちょっと幼い感じの甘えん坊のあ〜ちゃん。

ゆかは前者のあ〜ちゃんに慣れてるから、後者のあ〜ちゃんといるとちょっとムズかゆい。
そんな甘えん坊のあ〜ちゃんを受け止めてるのっちがすごく大人っぽく感じた。実際に三つ上だけど。

「てか、車どこに止めたんよ?アホのっち」
だっだ広い駐車場には無数の車が止まってて、探すのは大変そう。
「電話して聞いてみたら?」て言ったゆかの背後から「こっち」って声が聞こえた。

のっちだ。
若干息切れ。もしかして階段を使ってきた?
「あれ?早かったんね?もう日誌終わったん?」
「超ハイスピードで終わらせてきた」
のっちはあ〜ちゃんから車のキーを受け取って、スタスタ歩き出した。ゆかとあ〜ちゃんはその後にチョコチョコついて行った。

車が止まってたナンバーは215。
これって、あ〜ちゃんの誕生日の数字だよね。
あ〜ちゃんはそれに気付いてないみたいで、さっさと助手席に座った。

駐車場のナンバーが恋人の誕生日にしてるって、ちょっとキザだけどなんか素敵。
そんなことサラっと出来ちゃうのっち、かっこいい。

ゆかは後部座席に乗った。
バックミラー越しにのっちと目が合った。
それだけのことなのに、心臓がうるさくなった。

なんだこれ。
なんでのっちにドキドキしてんの?
おかしくない?






最終更新:2010年01月19日 19:07