「え!?…ちょ、っと、のっちってば!」
「……」
私の制止の声は無視され続け、一応の抵抗も繋がった腕からは伝わらず。力一杯、のようでその実絶妙に手加減しているのっちの右手に引きずられ、私はあっという間に脱衣場まで連れてこられた。
無言かつ無表情なのっちは、怒っている、わけではなさそう。どちらかというと、いやどちらかとかではなく…少しだけ鼻息が荒い。
鼻息荒く私の左手を離さないまま、器用に片手でボイラーのスイッチを入れたり、バスタオルを用意したりと珍しくテキパキ動いている。
…なるほど。早くシャワー浴びてこい、てことね。
今日ののっちは淡いピンクベージュのフード付きTシャツ、その下に赤いボーダー柄のタンクトップを着て、濃紺の地に細かい白い花がプリントされたショートパンツが長い丈から見えている。
大人しくしていれば、と言うかついさっきまではボーイッシュとは逆の表現が似合う可愛らしい女の子だったのに、今やその必死な姿は……うん、いつも以上に、可愛い。
しかもこんな風にさせたのは私が原因だし。確かに、自分からキスしといて中断するのはちょっと悪かっ…「!?」
私が軽く反省しかけたその瞬間、真ん前でのっちがタンクトップごとTシャツを一気に脱いだ。
あ。ブラは黒で意外とエ…
「ロ、っじゃなくて。のっちが先に入んのね?」
「……」
私がちょうど言い終えたその瞬間、真ん前でのっちは下着だけの姿になっていた。まだ無言かつ無表情で。
相変わらず、脱ぐのが速い。
お。白い肌に黒が映え…
「て?え?」
見惚れていた肌が動いて私に向かって伸びてきたら、ワンピースをがっつり掴まれて思い切り上に引っ張られた。
「なになになに!?なに脱がそうとし」
「はいバンザーイ♪」
約3分ぶりに口開いたと思ったら満面の笑みののっち。その態度や雰囲気が、なんだか普段の自分の戦法と重なるものがあって正直嫌な予感がした。
私のワンピースはすでに、中のキャミソールごと脇下までずり上げられている。
相変わらず、脱がせるのも…
「速いじゃなくて、いやいやいや!なんで一緒に入るの!?」
「バンザーイ♪」
「そ、そんな焦んなくても、ゆかだけでバーッと浴びて待たせないか」
「バーンザーイ♪」
「あっ、もしかしてアメ?いーよこれあげるか」
「バーンーザーイー♪」
「……ば、ばんざぁい」
スマイルのっちの語尾に揺るぎない何かを感じ、私はのろのろと両手を挙げた。
…これ、思いっきり降参のポーズじゃん。
意味のない対抗心でのっちの下着は私が脱がせ、2人で浴室へ。入った途端にのっちは鼻歌混じりで浴槽に湯を入れ始めた。
え…ちょっと待ってその展開は今日はまずいってだって、
「のっ、のっち!あ」
「ん?」
「あーあー…頭洗ってあげよっか?」
「うん!」
明日朝から仕事だよ、という言葉を一文字残して飲み込んだ私は、自分を素直に褒めた。しかも上手いこと誤魔化せた。偉いぞ、ゆか。
そう、別にのっちには“その気”はないかもしれないのだ。だからわざわざ自らきっかけを作るような、ものすごく広い意味で誘うような言葉を発してはいけない。
「気持ちぃ〜」
上機嫌な恋人の髪を洗いながら、私は半年ほど前の出来事を思い出していた。
それは私たちが特別な関係になって2ヶ月弱経った頃。季節外れに小寒波みたいな空気が首都圏を襲ってきたことがあった。
仕事が現地解散となったため、お互いの用事を別々に済ませてからのっちのマンションで待ち合わせた。
「さぶっ、なんでこんな寒いの!?」
「う〜わかんないけど、めっちゃさんむい…あ!」
リビングで2人震えていたら、大きな瞳をこぼれ落ちそうなくらい開いたのっちから提案が。
「おっ風呂〜♪お風呂入ろ、ゆかちゃんっ」
「ナ〜イスアイデア!」
寒さに弱い私は、その後の展開を想定する能力が落ちていたのだろう。自分たちの関係や翌日のことを考えれば、断固拒否したはずだった。
完全にテンションが上がった2人は、今日以上のスピードで着ているものを脱ぎ捨て、体を洗っている間に張られた湯へ飛び込んだ。
そして飛び込んでから、気がついた。
そういえば、最後にあ〜ちゃんと3人でお風呂に入ったのは1年以上前で。
そういえば、それ以来白光の下で肌を晒し晒されるのは初めてで。
そういえばもう、お互いの肌の感触を結構、十二分に知っていて。
「……」
「……」
「…いい?」
と言ったのは私だったか、のっちだったか。
後は、なんというか、流れで。
…流れ過ぎて、いつもより明らかに度が過ぎて、翌朝起きられなくて。しかもようやく起きても2人ともぐったりで、一日中口数が少なかったものだから、あ〜ちゃんに心配される始末。
私たちの数少ない失敗の一つ。以降、片方の理性が吹き飛びそうになる度に、もう一方の理性がそれを繋ぎ止めてきた。…少なくとも浴槽内では、至らないように。
「…いい?」
うん、やはりあれは絶対のっちが言ったはず。
「…ね、ゆかちゃん」
名前、を呼ばれた記憶はないが、あの頃の私はまだそんなに積極的ではなかったはずだし。
違うか。わざわざ事前に聞いたりしてなかったかも。
って逆に積極的じゃん、それ。
「いただきまぁす」
「!!ゃ…んぁ」
1人ツッコミなんてしていたら、いつの間にか回想と現実が重なりあい、かつ私の上にのっちが重なっていた。
浴槽内で。
「ふ…ちょ、ちょっ…ま」
「んーん」
声を出したばっかりにのっちに侵入され、人の口の中なのに遠慮なく舌が這い回り始めた。
まだ小さいながらも生き残っていた2つのアメが、舌とともに絡み合い、
お湯の中では私の左手とのっちの右手が、浴室に入る前よりも強く絡み合い、
脚は絡まずに私の間に入ったのっちの体が、温かくて吸い付くようで、
「…は…ぁ」
「んふふ。おいしーね、コーヒー牛乳」
私を解放したのっちが、笑いながら私の濡れた髪を掬い上げ、左手で優しく耳にかけた。
美味しくて心地好くて、至近距離にある笑顔が可愛いのに妙に妖艶だから。
私は半年ぶりに降参して、理性を吹き飛ばすことにした。
…浴槽内で。
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最終更新:2010年01月19日 19:24