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「メリークリスマース!!」


高揚しきった声が、桃色の部屋の中を響いた。と、同時にクラッカーのパンッという激しい音と共に、頭上を色とりどりの細い紙テープが舞った。のっちが放ったクラッカーは、見事にあ〜ちゃんの頭の上に髪の毛のように乗った。それを見てキャハキャハ笑うのっちを、「もうっ。」と怒ったフリをするあ〜ちゃん。恒例のクリスマスパーティーだ。
あ〜ちゃんがお昼から一生懸命作ったケーキを2人で囲う。お皿には、あ〜ちゃんが取り分けてくれた。ワンホールの生クリームのたっぷりの乗った苺のケーキは、2人では食べきれないから、後であ〜ちゃんの妹達におすそ分けする。


「いっただきまーす!」


変わりのないクリスマスパーティーだった。
のっちは、あ〜ちゃんが心を込めて作ったケーキを頬張った。思わず頬が蕩けそうになる。頬を押さえて「美味しいぃー。」とうっとりするのっちを見て、あ〜ちゃんは幸せそうに笑った。


「あ〜ちゃんは、やっぱケーキ作るん上手いね!」
「毎年毎年、苺のケーキじゃけど。」
「んーん! のっち苺のケーキ好きだもん。」


向かいあってにこにこ笑うのっちを、あ〜ちゃんは嬉しそうに見つめる。すると、あ〜ちゃんは何か思い出したかのように、「あっ。」と言った。不思議に思ってのっちがあ〜ちゃんを見ていると、あ〜ちゃんはごそごそと鞄の中から何か取り出した。あ〜ちゃんの掌から出されたものは、綺麗に包装された小さな紙袋だった。


「のっちにあげる。」


差し出された紙袋を、のっちは興奮気味に受け取った。


「これ、なんなん? のっちにくれるん!?」
「昨日パーティー出来んかったから、それのお詫び。」
「うっそ! 嬉しい! ありがとう、あ〜ちゃん! 開けていい?」


にこりとあ〜ちゃんが頷いたのを確認してから、のっちは急いで紙袋を開けた。ごそごそと袋の中に手を突っ込んで中身を取り出すと、それは皮で出来たブレスレットだった。そこにはしっかりと“AYANO”の文字が刻み込まれている。のっちは嬉しくて何度も、あ〜ちゃんの顔と自分の手元にあるブレスレットを、交互に見た。興奮のおさまらないのっちを、くすりと笑うとあ〜ちゃんはスッと自分の左腕を差し出した。あ〜ちゃんの左手首には、今のっちが手に持っているブレスレットと同じものがついている。


「おそろで買っちゃった。」


あ〜ちゃんの左手首には、確かに“AYAKA”と刻まれたブレスレットがついていた。のっちは嬉しさのあまり、視界が滲んだ。


「ちょっと、のっち泣かんのよ、泣くとこじゃないじゃろ?」
「だって…っ、うれしかった…。」
「ほら、涙拭いて。腕につけてあげる。」


差しだれた桃色のハンカチで、零れかけの涙を拭った。のっちの手からブレスレットを受け取ると、あ〜ちゃんは、それをのっちの左手首につけた。途端にのっちは、何だかバカバカしくなった。こんなにも悩んでいた自分が情けなくて、また涙が出てきた。





「へへへー。」
「……気持ち悪い。」
「ほーら、ゆかちゃん見て! このブレスレットを!!」


のっちはあ〜ちゃんから貰ったブレスレットのついた左手首を、ゆかの目の前に突き出した。ゆかは、ブレスレットに刻まれた“AYANO”の文字を確認すると、すぐさまその鬱陶しい左腕を払った。鬱陶しがられているのにも関わらず、のっちの気分は上々だった。


本当であればのっちは昼休み、あ〜ちゃんと過ごす。しかし今日はあ〜ちゃんに用事があるために、ゆかを誘ったのだった。お昼休みになってすぐに、ゆかに連絡した。明らかにテンションの高いのっちの声を聞いたゆかは、嫌な予感がしていたが、その予感は的中だった。待ち合わせの裏庭に着くと、弛みきった表情と声で「ゆかちゃーん。」と呼ばれて、ため息を吐く。


「ねえねえー、ゆかちゃーん。」
「なんよ。」
「のっち、今、しあわせなんだ。」


にやけた顔で、そんな風に言われてゆかはまた、ため息をついた。食べ終わったお弁当箱を鞄に仕舞い込んで、ゆかは立ち上がった。


「ちょっと、ゆかちゃんどこ行くん?」
「トイレ。」
「待ってー、のっちも行くー。」
「いや。のっちはあとで行って。」


そう言い放ってゆかは、スタスタと行ってしまった。ゆかの背中を、唇を尖らせながら見つめるのっちは、裏庭に続くタイルで出来た広場にだらんと寝転がった。その視線は、終始腕に付けられたブレスレットにあった。


「……話があるんだ。」


寝転がった視界の先、ブレスレットの向こうに、男女の足が見えた。と、同時に男の子の声がした。のっちは、見てはいけない現場に遭遇してしまったのだと、咄嗟に理解した。のっちはべたりとタイルに張り付いて自分の姿を消し、男女の足を見つめる。


「俺と付き合って。」


男が、告白した。のっちは息を殺して現場を見守る。女の子の声をごくりと唾を飲み込みながら、待った。


「……あ〜ちゃんも、好き。」


「はっ……?」


のっちは自分の耳を疑った。聞きなれた声、思わず起き上がって、姿を確認したかった。だが、それをすれば盗み聞きしていたことを知られてしまう。心臓はバクバク鳴った。吐き気がした。この場から立ち去りたいのに、足は動かなかった。


確かに、声は、あ〜ちゃんだった。






最終更新:2010年01月19日 19:34