上手に後悔をするために、あなたに『さよなら』と告げた。
この胸の奥に、いまもまだ小さく燃えている炎に気づかないフリをして…。
大好きだった、きっと今も大好き。
単純な事なのに、どうして素直になれないんだろう?
可愛くなくてごめんね。
「優しすぎるんよ…」
ため息のような呟きは、あなたには届かない。
背中にあなたの視線を感じながら一歩を踏み出した。
そんなに強くないんよ…今だって泣くのを必死に堪えてる。
気を緩めたら、我慢してる気持ちが涙になって溢れてしまいそうだ。
あなたが気づかないくらい微かに上を向いて息を吸った。
「…大好きだよ」
静かな部屋に響いたあなたの声は、さっき私が告げた言葉が無かったかのように優しかった。
「のっちはゆかちゃんが大好きだよ。ゆかちゃんがのっちを嫌いになっても、この気持ちは変わらん」
どこまでも直球な言葉を躊躇いもせずに言えるあなたが羨ましい。
「ゆかは…もう、のっちを好きにはなれん」
自分で自分の心を傷つけていく。
「それでもいい。のっちは…私は…生涯、あなただけを愛していくから」
「ダメ!!…だめ…だよ」
「ダメじゃない。のっちはもう、ゆかちゃん以外愛せないんだもん」
悲しいくらいに深い愛情が私を包む。
「この瞬間が最後になったとしても、ゆかちゃんがのっちを忘れても、それでもやっぱりゆかちゃんを想っていたい」
「やだ…想わんでよ…忘れてよ…私のこと嫌いになってよ…」
我慢していたはずの涙は、いつの間にか頬を濡らして、喉の奥がグッと痛んだ。
「泣くほど…嫌い?」
気がつけば、あなたの声がすぐ後ろで聞こえた。
「…」
何も答えられないよ、だって、大好きなんだから。
「ゆかちゃんはさ…嘘が下手だね」
そう言って、温かな両腕が私を包み込んだ。
「別れたくないくせに…なんでそんな強がっちゃうの?」
「強がってないもん」
止まらない涙を見られたくなくて俯きながら呟く私に、あなたはそっと笑った。
「そんなとこも可愛いけどさ…」
そこで言葉を切って、私の肩に頭を乗せて深く息を吐いた。
「周りを気にして別れを選ぼうとするゆかちゃんは…嫌い」
あなたに嫌いになってと言ったのは私なのに、あなたが『嫌い』と言った瞬間、堰を切ったように感情が込み上げてきて両手で顔を覆い首を振る。
そんな私の頭を優しく撫でてくれるあなたが、やっぱり好き。
小さな子供のように泣きじゃくる私に、あなたは優しい声でたずねる。
「もう一度聞いていいかな?ゆかちゃんはのっちの事、嫌い?」
「…」
答えられずに泣き続ける私に辛抱強く答えを待ってくれるあなた。
「き…らい…じゃ…ない」
ほとんど聞き取れないくらい小さな声で答えると、私を包んでいたあなたの腕に力がこめられた。
私はあなたのなすがまま、ただ泣きじゃくるだけ。
あなたはそんな私を抱きしめて、固まったまま。
お互いの呼吸音のと鼓動がシンクロする。
「もう、こうやって抱きしめられないかと思った。本当に嫌われたんだって思ったから…怖かった」
どれくらい無言でいただろうか、私の涙も乾いた頃、あなたはポツリと呟いた。
「…ごめんなさい」
「謝らなくていいんよ。ゆかちゃんが傍におってくれるんなら、それだけでいいんよ」
あなたの優しさに甘えて、あなたがいるこの陽だまりから離れようとしてついた最低の嘘を、あなたは許してくれる。
嫌いになんてなれるわけないじゃない。
こんな私を受け止めてくれる人はあなたしかいないのに。
「ごめんなさい」
「いいって」
「ごめんなさい」
「謝らんで」
「ごめんなさい」
「だぁー…もうっ!!謝らんでよー!!」
私を包んでいた腕が放れた瞬間、私の視界には眉を八の字にしたあなたの顔が映った。
「言う事聞かない悪い子は、お仕置きしないとね…」
ゆっくりとあなたの顔が近づく。
私の瞳が閉じたと同時に感じた感触。
それは今までのどのキスよりも温かくて、この先もずっと忘れる事のないキス。
もう戻れない。
私も覚悟を決めたよ。
のっち…あなたは私の生涯の恋人。
最終更新:2010年01月19日 19:43