しまった。
やっちゃった。
完璧にやっちゃった。
あ〜ちゃんが泥酔した。
ヤバイ、のっちにあ〜ちゃんのこと頼まれたのに・・・。
なんであ〜ちゃんの隣に座らなかったんだろ。
ハッと気付いたらあ〜ちゃんはすでに三杯目のグラスを空にしてた。
てか、誰だよ。ウーロン茶とウーロンハイ間違って渡したの!!
「ゆーかちゃーん♪」
だめだ、完全にこの前のあ〜ちゃんになってる。
「もう、あ〜ちゃんは呑んじゃダメ!!」
あ〜ちゃんは四杯目のグラスを手に持ってたから、ゆかは懸命にそれを奪い取った。
「なんでー、呑みたいよぉぉ」
「ダメ。もう帰ろう。ゆかが送ってくから」
「ヤダ〜。みんなと二次会行くぅぅ」
「それは絶対にダメ!!」
二次会に連れてったら絶対にのっちに怒られる。
ゆかたち以外の子はみんな二次会に行くことになった。
さすがにこの状態のあ〜ちゃんを電車に乗せることは出来ないから、公園で一休みしてから帰ることにした。
ここの公園は近くにコンビニがあるから、何かあったらそこに駆け込めばいいから平気。
「あ〜ちゃん、これ飲みな」
ゆかはそのコンビニで買ったミネラルウォーターを渡す。
「ありあとう。ゆかたんやさしーねぇ」
あ〜ちゃんは呂律が回ってる。でも気持ち悪そうではない。
「ごめんれ。迷惑かけて」
コテっとゆかの肩に頭を傾けるあ〜ちゃん。
そんなことないよって、寄りかかれてない方の手であ〜ちゃんの頭を撫でる。
「ゆかたん、大好きじゃー」
「うん。わかってるよー」
「ゆかたん、あ〜たんのこと、好きー?」
「うん。大好きよー」
「のっちは?のっちのことは好きー?」
「え・・・」
「あ〜たんはねぇー、のっちのことも大好きなんよw」
「うん・・・」
「のっちもねぇー、あ〜たんのこと大好きなんよー?知ってたぁ?」
「はは。・・・知っとるよ」
「あ〜たんはゆかたんものっちも大好きなんよ。だから二人が仲良くなったら、あ〜たんすごく嬉しいんよ」
「うん・・・」
無邪気にそう語るあ〜ちゃんの頭を乗せてる肩が重い。
「でもねぇ、二人に仲良くなってもらいたいれど、仲間はずれにだけはせんといてね・・・」
「そんなことせんから、大丈夫よ」
「ふぁぁぁ、、、眠くなっちゃった・・・」
「え!?」
肩からズルリとあ〜ちゃんの頭が降りて、今度はゆかの膝に乗った。
もうだめだ。
のっちを呼ぼう。車で迎えにきてもらう。
ゆかは携帯を取り出す。
けどそれは無意味な行動だった。
だって、のっちと番号交換してないから。ゆかの携帯にはのっちの番号は登録されていない。
「ねぇ、あ〜ちゃん。起きてくれん?」
あ〜ちゃんを揺するけど、起きてくれる様子はない。
ちょっと強引だけど、あ〜ちゃんの鞄から勝手に携帯を取り出した。
他人の携帯を弄るのは気が引けるけど、この状態じゃしょうがない。
とりあえずリダイヤルを見る。
一番最初に”のっち”が出た。
すかさず、掛ける。
『んー、どしたー?』
今まで聞いたことのないようなすんごい優しい声で出たのっち。
『あの・・・』
『・・・誰?』
ほんの一言の声色であ〜ちゃんじゃないとわかったのか、急に低いトーンに変わった。
『ゆかだけど・・・』
『綾香になんかあったの?』
『ごめん、のっち。あ〜ちゃん潰れちゃった・・・』
『今何処?』
『コンビニの前の公園』
『すぐ行くからそこで待ってて』
ツーツーツー・・・。
のっちはすごい勢いで電話を切った。
怒ってる。のっちは完璧に怒ってる。
どうしよ、約束守れなかったゆかにキレてるよ。
20分くらいすると、公園の前に一台の車が止まった。
部屋着のままののっちがそこから降りてきた。
「あ〜ちゃん。起きて」
のっちはゆかに見向きもせずに、寝てるあ〜ちゃんの肩を抱く。
「・・・ぬぉぉ。大本じゃ。なんでここにおるん?」
あ〜ちゃんは目を開けたけど、また酔っ払ってる。
「綾香、乗せるの手伝って」
やっとのっちはゆかを見た。ほんの一瞬だったけど。
ゆかとのっちはあ〜ちゃんを助手席に乗せた。
のっちがあ〜ちゃんのシートベルトを締めようと腕を伸ばしたら、あ〜ちゃんがのっちにしがみついた。
「ちょっ、あ〜ちゃん。放して」
「いやぁぁ、放さんw」
「放さないと、帰れないよ?」
「帰らんでもええ」
「なに言ってんの。ほら、放して」
「嫌じゃ」
そう言っていきなりあ〜ちゃんはのっちにキスをした。
ビックリした。
まさか目の前であ〜ちゃんとのっちのキスを見るとは思わなかった。
キスが終わると何もなかったようにのっちはゆかに「わりぃ、ドア閉めてくれる?」って言ってきた。
ゆかはまだビックリしてて、すぐには行動に移せなかった。
ドアを閉めると、のっちはさよならもありがとうも言わずに車を出した。
えっ?ナニソレ・・・?
ゆか、ここに置き去り?
マジで?
てっきり、ゆかも送っててくれると思ってたんですけど・・・。
呆然と立ち竦んでいたら、携帯が鳴った。
さっきまで一緒に呑んでた子からの着信だった。
『もしもし』
『あー、かしゆか?』
『うん』
『あ〜ちゃん、どう?』
『完全に潰れちゃったから、恋人に迎えに来てもらったよ』
『マジ?じゃあ、大丈夫だね』
『・・・うん』
『てか、あ〜ちゃんの彼氏見たの?』
『・・・う、ん』
『イケメンだった?』
『・・・うん』
『そっか、やっぱイケメンだったかwいいな、うちも見てみたかったよ』
『イケメンだったけど、最悪だったよ』
『マジで?ぎゃはは。まー、あ〜ちゃんが無事ならいいや。じゃあね〜』
ツーツーツー・・・。
その子は一方的に掛けてきて、一方的に喋って、一方的に電話を切った。
なんだろ、すごく泣きたくなった。
こんなにも自分が惨めな存在って心の底から感じたのははじめてだ。
みんな、あ〜ちゃんの方が大事なんだ。
のっちも今の友達もあ〜ちゃんだけ気にかけてる。
例えるならあ〜ちゃんは花で、ゆかはその隣に生えてる雑草だ。
みんな花ばかり見てて誰も雑草の事は気にかけてくれない。そんなの当たり前だよね。
こんなにも誰かを羨ましいと心の底から感じたのははじめてだ。
雨が降ってないのに地面が濡れてる。
ゆかの涙で濡れたんだ。
この世界でもやっぱりゆかはひとりぼっち。
泣きながらゆかは唯一の自分の居場所のアパートへと歩き出した。
最終更新:2010年01月19日 19:50