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小さな寝息を規則正しくたてて眠るのっちの背中は、淋しくなるほどに広く感じた。ついさっきまで熱っぽい目で私を見て、艶っぽい声で私を呼んで、湿っぽい空気で私を抱いていたくせに。終わるとすぐ寝るんだから。いやになっちゃう。たまには腕枕とかして、二人のこと話して、次の休みの予定を立てて、そんでそんで、お互いの好きなとこを10個ずつ言い合うの。そうゆうのやろーよ。


「…せめてこっち向いてよ」


慣れたからかな。背中を向けてさっさと寝るのっちを見ても怒る気は起きなくて、それがのっちだから、なんて理不尽な条理を許してしまう。そんな自分に呆れる。だけど、こんな自分も好きだったりする。
のっちの背中に指文字で『すき』って書いてみる。ぴくりともしないから『だよ』って付け足した。なんだか楽しいし、嬉しくて私は一人でにやけてしまった。寝ている人を相手に、なにやってんだ、なんて思ったけど、起きないのっちものっちだし、そもそもあ〜ちゃんに背中を向けて寝るってのはなんなんよ。のっちのくせに生意気じゃ。


「すきだよ」


でも口を突いて出た言葉は、たいがい裏腹に素直な気持ちだったりもする。のっちの可愛い寝顔を覗き込んだら、幸せだなぁって単純にそう思った。
そうなんだ。いつだって簡単にあ〜ちゃんを夢中にさせちゃうんだ、のっちってやつは。すっごいんだ、のっちって。単純なのに、知れば知るほど計り知れなくて、あ〜ちゃんはどんどん知りたくなっちゃうんだよ。なんて、私もとことん単純だ。でもこれが幸せってやつなのかな。
もう一度、背中に指文字で『すき』って書いてみる。ぴくりともしない。ねぇ、のっちは?のっちもさ、ふとしたタイミングで再確認してくれたりするのかな?そんな時ってある?あ〜ちゃんはね、いっぱいあるよ。今みたいに寝顔見て顔がふにゃぁ〜って溶けそうになるほど緩んだり、真剣に踊ってる間の鏡越しの優しい笑顔だったり、強がりの強がりの最終的な涙だったり。いっぱいある。
ぴくりともしない背中に、もう一度付け足したのは『?』


ねぇ、あ〜ちゃんのこと『すき?』





「…んん、」


ぴくりともしなかったその広い背中が一瞬もぞっとしたかと思ったら、不意にその身体がこっちを向いた。眉間にしわを寄せて、目はかたく閉じたままで。肩をすぼめて、もぞもぞと布団の中に潜り込んでいくのっちの顔を覗くと、やっぱり起きてはいないんだけど、なんだか嬉しくて、私はまた一人にやけてしまった。
だってさ、『だよ』って書いてもなんの反応もないくせに、『?』を書いたらこっちを見てくれるのって。多分…、多分偶然なんだけど、のっちって寝てる時でもちゃんとあ〜ちゃんのことわかっとるんね。って思っちゃう。
もぞもぞと布団の中に潜り込んだのっちの頭は、ちょうど私の胸の前でぴたりとくっついて、その長い腕はぎゅっと私の腰に絡み付いた。しなやかな足も縮こまって私の足に重ねられてる。まるで赤ちゃんみたいにぴったりとくっついて、甘えん坊だな、のっちは。そんなふうに思ってはまた顔がふにゃぁ〜って緩む。
『だよ』って言っても返ってくるのは“知ってるよ”ってゆう背中。だけど『?』って聞いたらちゃんと“不安にならなくていいんだよ”ってこっちを向いた身体。なんでなんだろ?夢の中ですら、あ〜ちゃんを不安にさせないようにって思ってくれてんのかな。
そんな甘えん坊な身体をぎゅーっと抱き締めて、目を閉じる。もうこのまま寝ちゃえ。話したいこと、色々あったけど、きっとのっちは起きないだろうから。
「おやすみ」小さく告げて、もう一度ぎゅーってしたら、腕の中ののっちがまたもぞもぞしだした。かと思えば薄目を開けたまぬけな顔が布団から飛び出した。


「ん?起きた、「すき」

「…え、」



「だよ」



まぬけな顔のままにこりと笑う。さっきまで縮こまっていた身体をうーん、って伸ばして、のっちはその長い腕で私を優しく包み込んだ。それはとても優しく優しく、泣きたくなるほど優しくて。のっちは私を腕の中に閉じ込めた。さっきまでと真逆の体勢に少し笑ってしまう。目線をあげるとのっちは満足気な顔で、またすやすやと規則正しい寝息をたてていた。


あーぁ。話したいこといっぱいあったのに。好きなとこ言い合いたかったのに。のっちってすっごいんだ。たった一言であ〜ちゃんが欲しいもの全部くれちゃうんだ。あ〜ちゃんね、のっちのこうゆうとこ、すき、だよ。


のっちの胸に顔をうずめて、腕は腰に絡ませて、足も重ね合わせたりなんかして。のっちに包み込まれて、どんどん深みにはまっていって、それでもまだまだ足りないよ。
ねぇのっち、あ〜ちゃんね?
のっちのことすっごいすき、だよ。




end





最終更新:2010年02月06日 19:33