アットウィキロゴ
いっつもいっつも、そればっかり。
「だから振られたんだよ」
「・・・何で?」
「・・・弱いから」


[016:everytime it rains]


「「うみーー!!」」
「…さっびぃー」


“雪が降る海って素敵だと思わん?”
そんなあ〜ちゃんの突然の発言で、ゆかたちはなぜか海にいる。
あ〜ちゃんの発言はいつも突然で困るけど、今回はちゃっかりゆかものっかった。
だって三人で出かけたことなかったんだもん。だけど、、


「ね!のっち車出して!海いこ、海!」
「行きたい!ゆか仕事休む!」
「えー、、うみぃ?」
「うみ!」
「うみうみ!!」
「…だって冬じゃん」
「いーの!綺麗じゃろ!」
「…だって寒いよ」
「いーんだって!ロマンチックだと思わん?」
「……思わん」
「えー!行こーよー!!」
「だって…うみ、きらいだし、」
「「つまんねーーw」」


のっちは全然乗り気じゃなかった。
冬だとか寒いからとか言ってるけどさー。昔は毎年お正月に沖縄行ってたって言ったの誰でしたっけー?
嫌いなわけないじゃんね。何言ってんの。


でも、こうやって海に着いたのに、はしゃいでるのはあ〜ちゃんとゆかだけで。
のっちはモッズコートのフードまで被って「さみーさみー」って腕組んで足踏みしてるだけ。


「ちょっと!のっち!テンション低い!」
「えー、、、」
「ほら、はしゃげ!」
「むちゃくちゃだーこの人」
「ふふw」
「てか、雪、降ってねーじゃん」
「「あっ、」」


そういえば…。のっちの声に二人して空を見上げる。
薄暗いくもり空。寒いけど雪は降ってない。


「もー刺身食って帰ろーよー」
「もぅ!なんでそんなことゆーんよーw」
「のっち。ちょっと黙りんさい!」


あ〜ちゃんの一喝で、のっちは「へーい」っておとなしくなった。
ブーツの爪先で砂浜を蹴ってる。
ポケットに手を突っ込んで、フードを被って。鼻までマフラー巻いて…って、それじゃ、


「のっち、のっち!顔、見えんよ?w」


ゆかの声にのっちは爪先を見ていた視線をあげた。
目しか見えないけど、その目を細めてのっちは笑った。


「…いーのー。見えなくて」


ポケットから片手を出して、チョイチョイって犬でもあしらうような手つき。
あっちで遊んできな?って言われてるみたい。
振り返ると波打ち際であ〜ちゃんが、ギャーギャー騒いではキラキラ笑顔を振りまいていた。




「ねぇのっち?」
「うん?」
「海、嫌いなん?」


二人ではしゃぎまくってる間、ずーっとのっちは砂浜を蹴ったりコーヒーを買いに行ったりで、ちっとも楽しそうじゃなかった。
「もー帰ろーよー」を何回聞いただろ。毎年沖縄行くとか言ってた人が。
あ〜ちゃんもゆかも不思議に思ったのは確かだ。


「んー…べつに」
「なん、それ?」
「きらいじゃ、ないよ、、」
「なんよー」
「…ただ、」
「「ただ!?」」
「……あんま来たくないだけ」


のっちは小さな声でボソリと言った。
それは本当に聞き取るのがやっとだった。
なんでだろ、ゆかは聞くことができなかった。
あまりにものっちが“触れてくれるな!”って態度をとったから。
だけど、そんなのあ〜ちゃんはお構いなし。
ゆかの気持ちも、それにのっちのことも、わかってる上で、土足で上がり込む人だ。
きっとゆかものっちも対人関係に消極的だから、そんなあ〜ちゃんが好きなんだろうな。


「なんで?なんで来たくないの、うみ」


普通な顔してシレッと聞くあ〜ちゃんをよそに、のっちは更にフードを深く被った。
爪先で砂浜をガシガシ蹴って、ポケットに手を突っ込んだ。


「ねぇ、なんで?」


あ〜ちゃんもゆかもすぐに気付いた。
気付いたけれど、口には出さなかった。
だってそれはのっちの口から聞きたいし、それに、ゆかは、、。
矛盾してるけど、、聞きたいけど、聞きたくない。でも聞かなくちゃいけない。知っていたい。
……もう。なんて矛盾屋。
嫌なんだけど、隠されてるのはもっと嫌。
誰にも言わないで、一人で考えてる方がもっと嫌。





「あぁ、もうっ!」


のっちは被ってたフードをめんどくさそうにとって、そのまま髪をくしゃくしゃにした。
マフラーを鼻まで戻して、手をポケットに戻して、海を見た。
どんよりしたくもり空。水の色は綺麗、とは言えない。
のっちの横顔はなんとも言えない、切ないような、悲しいような、そんな表情だった。


「…思い出しちゃうんだよ、うみ、来るとさ、」


違う。
これは“淋しい”そんな表情だった。


海。こなきゃよかったな。
ゆかもこんなこと聞きたくなかったけど、のっちもそんなこと言いたくなかったでしょ?


「…ごめん、ね」


辛いこと、言わせちゃって、ごめん。
それなのに聞きたくなかったとか、ずるいよね。
受けとめる準備、したはずだったのに。


「あ、いや。大丈夫…ごめん、なんか、」


のっちは少し焦って、またフードを被った。
また目しか見えてないよ、のっち。
それでもわかるくらいの淋しそうな顔。
そんな顔、しないでよ、のっち。


「…えーっと、、あ〜ちゃん地雷踏んだ?w」


すっかりしんみりした空気を、また元に戻すところはさすがあ〜ちゃん。
「踏んだ踏んだw」ってのっちも笑う。
ゆかもつられて笑った。


「でもさーそんなこと言ってたら一生海これんじゃーん」
「あー、そうだよねーw」
「思い出がカタマリになっちゃったら、なかなかどいてくれないよーw」


“だから来てよかったでしょ?”って得意気な顔してあ〜ちゃんは笑った。
カタマリ、か。もうなってるのかな。いや、なってるだろうな。
どうしてこう、、あ〜ちゃんって凄いこと言うよなー。ゆかにはそんなこと言えん。
自分のことじゃないの泣きそうだもん、なぜだか。
あ、のっちのことだから泣きそうなのか。
のっちのことは、もう、ゆかのこと、だもん。





「でもまぁ、来てよかったよ。本当は海好きだしwそれに…別になんともなかった」
「…そっか。ならよかったじゃーんwね、ゆかちゃん?」
「え?あ、うん。よかった、ほんとに、、」
「ゆかちんっ、」
「ん?」
「…ありがと」
「えっ?「えー!あ〜ちゃんには!?」
「あ、あぁwありがとありがとw」
「うわっ!てきとーwなんか今、差を感じたーw」
「ちょっ!んなことないってー」


あぁ、もう。だめだ、ゆか。
のっち、なんであんたはそうやって、いとも簡単にゆかの心奪ってくの?
なんか、もう。なんか、なんか、、、


「帰ろっかー?」
「うん、かえろ」
「遊んだわー」
「ん、ゆかちん?」


…もう、超、すきだ。


かえろ?ってゆかに手を出して笑うのっちも。
ゆかちん?って目を細めてゆかを呼ぶのっちも。
なんか、もう、全部すきだ。超すきだ。
いったん認めた気持ちは、こんなにも簡単に想いが加速する。
ドキドキがどんどん増えてって、ゆかの中ののっちがどんどん大きくなる。
だから、のっちの中のゆかも、ちょっとずつでいいから大きくなればいいな。
そんで、いつか、、、
いつか、越えることが、、、



「……のっち?」



—————えっ?



「のっち…でしょ?」



—————うそ。



呼んだのは、ゆかでもあ〜ちゃんでもない。
悔しいのは、悔しいのはさ。
目しか見えてない顔。それすら見えない後ろ姿で、その人はのっちに気付いたこと。
悔しいのは、悔しいのはさ。
のっちの顔が、また“淋しい”に戻ったこと。
それなのに、なんで、、、なんであんたは笑ってんのよ。


「っ……ひ、ろちゃ、、」



お願い!
雪でも雨でもなんでもいいから、今すぐ降ってよ!
どしゃ降りにして、早くここから逃がしてよ!
いっつもいっつも降るくせに、肝心なとこではちっとも降らないじゃない。






最終更新:2010年02月06日 19:47