リリリンリリリン♪

テーブルに置いてあったのっちの携帯が鳴った。
薄暗い部屋にはっきり光るディスプレイには『綾香』の文字。
のっちは「綾香から」って言って電話を持ってベランダに出た。

「綾香に呼び出されたからもう帰るわ」
のっちがベランダから出てきた。
「うん」
のっちは荷物を持って玄関に向かう。ゆかも一緒に玄関先まで向かう。
「じゃあね」
「うん」

ガチャってノブを回す音。
バタンってドアが閉まる音。
バタバタってのっちが歩く音。

ゆかはその音たちを聞いて寂しくなった。

のっちが去ったゆかの部屋は空のピザの箱と缶が散かっていた。
ひとりになると部屋がこんなにも広く感じたのは初めて。
恋をすると途端に一人の寂しさを感じるのは何故だろう。

部屋を片付けるのがバカらしくなって、ゆかはベッドに潜って不貞寝した。

夢も見ないで深い眠りについた頃、不快な機械音で起された。
枕元に置いてあった携帯が鳴ってる。

アラームじゃない、着信だ。
ディスプレイをみると『あ〜ちゃん』の文字。
時間を見るとAM9:32。ゆか、5時間くらい寝てたんだ。
正直あ〜ちゃんと今なに喋っていいかわからないけど、無視するのは悪いからとりあえず電話に出た。

『もしもし?』
『あー、ゆかちゃん?もしかして寝てた?』
『うん』
『まだ学校来てなかったからちょっと心配になって電話したんよ』
『んー』
『やっぱ、のっちがいって迷惑じゃった?それで寝坊したんじゃろ?』
『ううん、そんなことないけぇ・・・たまたまじゃよ?』
『ほんまにごめんね。なんか、あ〜ちゃんはゆかちゃんに頼りっぱなしじゃねw』
『んー平気よ?いつでも頼ってw』
『ありがとうw』



電話が終わると目が覚めて、ベッドから起きることにした。
気が進まないけど散かった部屋を片付ける。ゆかが片付けないと誰も片付けてくれないもん。

思い切って模様替えでもしようかな。
身体動かしてれば、のっちのコトを考えないですむ。

よし!決めた。今日は学校休んで部屋の模様替えの日!!
そう決めたら少し心の余裕が出来た。

無我夢中で模様替えをしていたら気がついたらもう夕方になってた。
そういえばお昼も食べてないからかなりお腹が減ってる。
久々に自炊でもしようかなって思って冷蔵庫を開けたら、見事になにも入ってないことに気付いた。
しょうがない、スーパーに買い物でも行くかって思ったらインターホンが鳴った。

覗き穴でインターホンを押した人物を確認すると、そこにはあ〜ちゃんが立っていた。

「あ〜ちゃん!!どうしたん?」
ゆかは驚いてドアを開けて訊いた。
「昨日の埋め合わせに来たんよ。ゆかちゃん、もう夕飯食べた?」
「まだ。これから作ろうと思ってたところ」
「よし!!じゃあ、今日はあ〜ちゃんが奢るけぇ!!」
「ええ!?」
ゆかは強引にあ〜ちゃんに外へ連れ出された。

真っ直ぐなあ〜ちゃんといると罪悪感を感じる。
ゆかはあ〜ちゃんの恋人に恋しちゃったんだよ。
それ知ったら、あ〜ちゃんはゆかの親友じゃなくなっちゃうよね・・・。

怖いよ。
ゆか、あ〜ちゃんに嫌われたくない。
のっちに恋した事、あ〜ちゃんには絶対に知られたくない。

ゆか、わかった気がする。
同性を好きになる人や不倫する人の気持ちが。

好きになったのが、たまたま女の子だったんだ。
好きになったのが、たまたま好きになっちゃいけない人だったんだ。



「あ〜ちゃん」
「んー、なに?」
「のっちといて幸せ?」
「な、なんなん?急に?」
「幸せ?」
「・・・幸せだよ?ゆかちゃん、どうしたん?」
ゆかが急に真面目に素っ頓狂な事訊くから、あ〜ちゃんは驚いたけど真剣に答えてくれた。

「ううん。なんでもなーい。のっちに愛されてるあ〜ちゃんが可愛いなって思っただけじゃよw」
「えー、なんそれ?まさか昨日のっちがなんか言ったん?」
「へへへ、内緒w」
「えー、なんそれ?あっ!!もしかしてゆかちゃん彼氏出来たとか?」
「出来てなーいよ」
「じゃあ、好きな人が出来たとか?」
ドキっとした。

「・・・うん」
「うっそーーー!!誰?誰?」
「あ〜ちゃんの知らない人だよ?」
「えー、そうなん?つまんないのー」
「えへへ。付き合うようになったら紹介するね」
「ほんまよ?約束よ?」
「うん」
ゆかはあ〜ちゃんと守れない約束をしちゃった。
そもそものっちとなんて付き合えるはずないんだ。
のっちがあ〜ちゃんと別れてゆかと付き合うだなんて、そんなこと100%あるはずがない。

この想いは報われないんだ。
完全なる片思い。

救いもある。
ゆかはあ〜ちゃんも好きだってこと。
あ〜ちゃんはすごくいい子だし明るいし可愛いし、のっちが惚れるのもわかる。

それと、あ〜ちゃんとのっちの絆は固いってこと。
ゆかの付け入れる隙は100%ない。
そこに1%でも隙があったら、ゆかは狙っちゃうかもしれない。
でも二人にはそんな隙はない。
だからゆかは狙わずにすむ。

二人の絆が壊れない限り、ゆかは二人と100%一緒にいれる。

そう、二人の絆が壊れない限りは。






最終更新:2010年02月06日 20:31