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薄れゆく意識の中で、
暗闇にまどろむ意識の中で、
聞こえてきたのは、いつかの思い出。


だんだんと聞こえなくなる耳の奥の方で、
聞こえたのは、いつかあなたが言った言葉。


薄いベッドの上。
冷たい空気。
無機質な部屋の中。
私は私を放棄した。


全て捨てて、かえりみないと、
私の身体は意志をなくした。
閉じた瞳の裏側で、
たくさんの光が私を照らす。


薄れゆく意識の中で、
暗闇にまどろむ意識の中で、
最後に聞こえてきたのは、、、


「お姉ちゃんが、、、助けて、あげるから、ね、、、」


いつかの思い出?


それとも、、、



001:はじまり
sideA




「はやく起きんと学校間に合わんよっ!!」


隣の部屋のドアをノックすることもなく開けると、まだ布団にくるまったままの妹の姿。


「…うるせーな、、」


小さく唸ったかと思ったら、長い手足をおもいきり伸ばして身体を起こした。


「あんたね!うるさいなんて言える立場じゃないでしょ?毎朝毎朝!感謝しんさいや!」
「へいへーい。わかってるよ、お姉さまー」


まだ眠そうな顔で文句を言うのも、それに言い返すのも、毎日の習慣。のような近頃。
この子とこんな穏やかな会話が出来るようになったのは、何年振りだろうか?


4つ歳の離れた妹・彩乃が、まともな生活を取り戻して大学にも通うようになった。
私にとってはそんなの当たり前だけど、この子にはどうやらそれが難しかったみたいだ。
私と違って、どうもこの子は繊細にできている。


そんな妹が、ここ何年かで急激に変わった。
煙草もお酒もやめて、勉強して。
元々やらないだけで、やれば出来る子だったから、大学に入るのなんて簡単だった。だけど、、、


…医学部、となると、そうもいかない。
代々続く医者家系なだけあって、パパも医者、ママも元看護婦。
義務教育が終わってからも勤勉に励んでいた私も、今年から晴れて研修医の身だ。
将来が決められている。そんな窮屈な家の中で、グレずにいい子でいられた私と、そうでなかった妹。
そんな妹も今年で医大生二年目だ。
そもそも変われたのは、、、




「今日、、、行くの?」


ベッドから抜け出して、着替えてる妹の背中に聞く。


「行くよ。当たり前じゃん。あ〜ちゃんは?」
「行くも何も、うち、だし、、」
「あぁ、そっか」


ロンTからスポッと顔を出して笑って見せた。
今でもこの子の笑顔を見ると泣きそうになる。


「じゃ、いってきます。ガッコ終わったらよるから、ゆかに言っておいて」
「ん、わかった。いってらっしゃい」


キッチンのカウンターに置いてあったドーナツを一口かじって、
汚れたスニーカーを履いて、妹は大学へと向かった。


そう、変われたのは、、、




有香。
私たちの大事な大事な妹。




これは、私たち“家族”の話。
私と妹と、そのまた妹の話。
冬が近付くこの街で、
雪の便りを待ちわびる間の思い出話。







最終更新:2010年02月06日 20:39