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もしも、雨が降っていれば。
「そっか、、残念、、」
「…うそつき」
「ごめんね。」


[017:if it rains]


「…ば、かじゃないの、、」
「ばかじゃないよ」
「、っ…何で、気付くの、、」
「気付くよ」
「よく声、、かけるよなぁ、、、」
「かけるよ」
「ふざけ、…忘れてて、よ、、」
「私そんな薄情じゃないよ」
「……知ってる、よ」


色白で淡泊な顔立ちに茶色のショートヘアがよく映える。綺麗な人、だ。見た目も、多分、心ん中も。
晴れた日の澄んだ青空みたいに、透明感のある優しい笑顔と優しい口調。
そのどれもがゆかよりも確かに大人で、悔しいけれど夢中になる気持ちが少しわかってしまった。


独特な空気だ。
はしゃくでもなく、争いになるわけでもなく。
…独特な空気の人だ。
悔しいけれど、やっぱりそれは、のっちのそれとあってる気がした。


「…あ〜ちゃん、いこ。」
「え?あ、うん」


耐えきれなくなったゆかは、あ〜ちゃんの腕を引っ張った。
こんな場面想像もしてなかったし、目の当たりにしたくなかった。
そんなゆかをあ〜ちゃんは心配そうに見つめ、ギュッと手を握ってくれた。


「のっち、鍵かして」
「・・・」
「…のっち!」
「あ、あぁ。ごめん、先のってて」


のっちから鍵を受け取って、あ〜ちゃんはその人にペコッと頭を下げた。ゆかもつられて頭を下げた。
真正面から見たその人は小さく笑ってとても丁寧に頭を下げた。


あ〜ちゃんに手をひかれて車に戻る。
途中横目でのっちを見たけれど、その大きな目にゆかはちっともうつってなくて。
変わりにうつっていたのは、目の前のその人だった。

あぁ、この人だ。この人が“寛ちゃん”だ。かの有名な“寛ちゃん”
大恋愛も大失恋もした“寛ちゃん”
…なんだよ、のっちのやつ。
“どーでもいい”とか言っといて、こんなふうにこの人目の前にしたら全然どーでもよくなさそうじゃん。
ゆかの視線になんかちっとも気付かないくせに、無駄に大きいその目で、目の前の人を睨み付けるように見やがって、、。


……ん?


視線を感じた先を向くと、その人とバッチリ目が合った。
ドキッとするほどに柔らかく優しい笑顔をむけられたから、ゆかはすぐに目をそらして車へと戻った。






「ごめん、お待たせ!かえろ!」


そう言いながらバタバタと運転席に乗り込んできたのっちの目は赤かった。

…ばかじゃないの。ちっともどーでもよくないじゃん。
なにやってんの。なに勝手に泣いてんのよ。

待たせたお詫びって、ゆかとあ〜ちゃんに缶コーヒーを手渡した。さみーさみーって言って暖房を強にした。
あきらかに無理した顔で笑ってるのっちに、助手席に座るあ〜ちゃんが手を伸ばす。
ぐしゃぐしゃぐしゃ。のっちの髪をぐっちゃぐちゃにしてるあ〜ちゃんの目も真っ赤だった。


「…ばかじゃん。ふたりとも、、」
「え?何?」


ふたりに聞こえないゆかのその小さな声は、窓ガラスのむこうに消えていった。
のっちは何事もなかったかのようにアクセルを踏んだ。


あーぁ。来なきゃよかった、海なんて。
なにこの偶然。偶然にしては意地悪だよ。
てか、ばかじゃないの、ふたりとも。
なにが“どーでもいい”だよ。泣いてんじゃん。
なに勝手に心配して泣いてんの。


「…ぐす…」
「え?」
「わ!え、ゆかちん!?」


なに勝手に悲しくなって泣いてんだろ。ゆかもばかじゃん。


「ちょっとー、ゆかぢゃぁんどじだのよー」
「って、おい!おまえまで泣くな!」
「だっでぇーー」


ゆかを心配しながら、とうとうあ〜ちゃんまで声を出して泣きだした。
結局うちらが泣いてんじゃん。…ばかみたい。


「ごめん、ごめんって。泣かないでよ」


のっちは慌ててる。慌てて優しくなだめてる。
…もう、やだ。もう、やだよ、のっち。
なんで今日、出会っちゃったんだろ。
なんであの人だったんだろ。
なんでゆかは、もっと早くに出会えなかったんだろ。
なんでゆかじゃ、だめなんよ、、。
…もう、やだ。もう、やだよ、、


「もう、やめない?」
「…な、にを?」
「……友達」
「えっ?何言って、、
「冗談だよ。前、見て」


ゆかは泣いた。声を殺して。でも耐えきれなくて泣いた。
そんなゆかを困ったようにチラッと見て、のっちはまたすぐ視線を戻した。
危ないじゃん。前、むいててよ。





さっきはちっとも見てくれなかったくせに、泣き顔ばっか見ないでよ。
助手席で糸が切れたあ〜ちゃんは、声を出して大泣きしていた。


「ばかのっぢぃーなに話じでだんよー」
「ちょっと、あやか!鼻たれるって、」
「なんなんよーいまさらー」
「…うん、わかったよ」
「のっぢのばかぁ、なに話ずごどあるんよー」
「…ごめん。なんもないから」


のっちは運転しながらあ〜ちゃんの頭をポンポンってした。
あ〜ちゃんはひくひくしながら鼻をかんだ。
ゆかは後ろでそれを見てた。
涙はいつの間にか乾いていた。


どうしようもない劣等感がゆかを襲う。
その感情を冷静に受け止めてしまったから、ゆかは涙が止まっちゃったんだ。
あ〜ちゃんみたいに大泣きできたら、ちょっとは楽になるのかな。
意味のわからないことを言ってのっちを困らせて、そんなことくらいでしか振り向いてもらえないなんて。
ばかにもほどがある。
自分で自分を陥れてるって、それ。
ゆかは窓ガラスに頭を預けて、ボーッとのっちの後ろ姿を見ていた。
どんなに視線を送っても、のっちが振り返ることはなかった。
…当たり前か。運転中だもん。




「あれ?雪?」
助手席の泣き声がやんで、しばらくたったころ、窓の外を見てあ〜ちゃんが言った。
ゆかはまだ、のっちを見てる。
「え、まじで?」
のっちは運転しながら空を見た。
その後ろ姿に向かってゆかは言った。


「違うよ」
「え?」
「雨だよ」


雪なんかじゃない。これは雨だよ。
ゆかを独りにさせる、怖い東京の雨。
のっちが振り返った。でも、だから何?
雨はやまない。
ゆかの涙の変わりだもん。
やむはず、ない。







最終更新:2010年02月06日 20:45