アットウィキロゴ
2度目に触れたその肌は、1度目の時よりも熱っぽくはないのに、べたべた湿っていて、同じくべたべた湿ったわたしの指先は滑らかにその表面を這った。吸い付くみたいに密着する肌と肌。そして時々、耐え切れずに漏れる吐息のような声とも言えないような喘ぎが更に熱を加速させる。
・・・やっぱり、小悪魔だ。そんな風にされたら、もっと、、ちゃんと喘がせてみたくなるじゃん。聞いてみたくなるじゃん。その抑えられた声も。こんなの久しぶりすぎて、、困るくらい、最低に気持ちいい。



成り行きとは言え、、まさか、ゆかちゃんとまたこんなことになるはずじゃなかったのに!・・・と、言えばウソ。
成り行きとは言え、バカみたいに短いスカート、其処から伸びる透けた黒タイツの向こう側に素直に欲情した。と、言うのがホントウ。

正直に生きて行きたいじゃん?自分の気持ちには。そう、だって、あ〜ちゃんも言ってたもん。「ウソを吐かないで生きて」って。そう、だから、正直なんだ。自分の欲望には。欲しいものは欲しい、それだけ。


そもそも、煽ったのは其方。ゆかちゃんの方だから。そう、相手のせいにすればラク。
だからゆかちゃんも「だって、先に欲情したのはのっちでしょ?」って此方のせいにすればいいよ。ね?此れでお互いラク。


だから、其処に特別な感情がある、と言えば、其れもウソ。
だからこそ、ラク。此れがホントウ。




気だるい熱がまだ少し残る二人の身体。腕枕をしてあげようと思ったら、ただ一言「やめて」と断られた。
遠慮の意が込められた「いいよ」じゃなくて、拒絶の意が込められた「やめて」だって。やっぱり、ゆかちゃんってちょっと変わってる。大抵の女の子はこうしてあげれば喜ぶのにさ。まぁ、わたしもされるのは好きじゃないけど。あ・・、ってことは、わたしも十分変なのか。

決して甘くはない空気だと言うのに、二人の間の温度が柔らかく感じるのは、この行為特有の副作用みたいなものなんだろうか。
腕枕はさくっと断られたけど、同じベッドに潜って、柔らかな体温を共有している。それに、このキューティクルの整った長い髪をくるくる指先に巻きつけて弄んでても嫌な顔ひとつされない、なんて普段のゆかちゃんじゃ考えられない。まぁ、かと言って微笑みもしないけど。

まぁ、こんな空気も嫌いじゃないよ。うん、嫌いじゃない。これくらいの感じがゆかちゃんとのっちにはたぶん調度いい。





「ねぇ、あ〜ちゃんもさー。エッチとかするんかなぁ」
「そりゃ、するじゃろ」
「あの彼氏と?」
「・・・そりゃ、、ね」


まだ温もりの残るベッドで他の女の子の話なんて無粋?まぁ、そんなの、今更じゃん。そんなことイチイチ気にするような関係でもない、って思ってるのはゆかちゃんの方だろうし。


「あ〜ちゃんの彼氏って、どんな人?」
「はぁ?知らんの?」
「見たことはあるけど、話したことはないし。興味もなかったし」


そう言うと、はぁ〜と深いため息を吐いたゆかちゃん。
そこはフツー興味持っとくとこじゃろ、って呆れる声が今にも聞こえてきそう。っていうか、冷たい瞳がそれを物語ってる。あらら、さっきまでの柔らかな空気もどこへやら。。
だって、しょうがないじゃん。興味ないものは興味ないんだから。好きな子がどんな奴と付き合ってたって関係ない。欲しいものは欲しい、、それだけ。


「ねぇ、そいつカッコイイの?」
「カッコイイよ。フツーにフツーでカッコイイ。今時な顔立ちだけど派手すぎなくて、背も少し高くて、ソフトマッチョで、黒縁メガネもVネックとスキニーをちゃんと着こなしてて。あ〜ちゃんとは、高校からずっと付き合ってて。それに、育ちもめちゃくちゃよくて、お金持ちで、おとーさんは代議士だかなんだかで。もちろん本人もエリート街道まっしぐら。だけど、別にそれを鼻にかけてる訳でもないし、人望もあって友達も多い。フツーにイイ人で、」

「分かった!分かったから、、もういいよ」

淡々とまくしたてていく、ゆかちゃんの言葉を遮る。
つまりは、この厳しいゆかちゃんも納得済みのあ〜ちゃんに相応しい男、ってことかよ。


「でものっちの方がカッコイイよ」
「は?」


ゆかちゃんがのっちを褒める時なんて、大体冗談か、上げて落とす、みたいな時だけだけど。今の言葉はとても真剣で、いつもみたいな冗談ぶった、してやったり、みたいな笑顔じゃなくて。


「のっちの方が百倍カッコイイし、百倍やさしい。それにゆかの方が百倍頼りになれるし、百倍大切にしてあげられる」
「・・・それって全然、納得してないじゃん」
「でもさ。あの人は男ってだけで、あ〜ちゃんが望む幸せをあげることができるんだよ」
「そんなの、男だからって誰にでも譲っちゃっていいの?」

「そんなわけないじゃん!」

不安定に揺れる口調とは裏腹に、伏し目がちの瞳は真っ暗だ。


「・・・・・・そんなわけないけど、どう頑張ったって女のゆかじゃ、あ〜ちゃんを幸せにしてあげることはできなかった!」


・・・・「できない」じゃなくて「できなかった」?





「ゆかちゃん、、もしかして・・・」
「、、そーだよ」

ウソでしょ?

「付き合ってた」

ねぇ、ウソだよね?

「、、付き合って、たの」

なんだ、それ。

「、、コイビト、だったの」

なんだよ、それ!


「・・・・二番目、だったけど」

そんなのってある?


「ゆかは、、月にすらなれなかったから」


「つき?」
「あ〜ちゃんは太陽だから」


それだけ言うと、ゆかちゃんはくるりと壁の方を向いてしまった。

白い背中が、やけに小さく思えた。ただでさえ華奢な背中がそのまま消えてしまいそうだった。


「・・・男に生まれたかった?」
「・・・・わかんない、」


「でも。もし、ゆかが男でも、、きっと、あ〜ちゃんはゆかを選ばない。・・・・・そんな気がする」


それはまるで、
そうであって欲しい。そう思いたい。と言ってるみたいだった。


そりゃ、そうだ。
もしも男だったら、、もしも性別が違っていたら、選ばれてた恋、だなんて。


そんなのあんまりだ。報われないにもほどがある。
・・・それがみんながいうフツウ、なのかも知れないけど。。
やっぱり、そんなのってあんまりじゃんか。そんなの、切なすぎんじゃんか。辛すぎんじゃんか。
救われないよ。

脆いんだ、結局。
わたしたちなんてさ、ちっぽけな存在でしかなくて。どんなに強がってみたところで、到底一人でなんかじゃ生きてやいけないんだ。脆いね。虚しいね。でも、世の中、そうできてるもんだ。
それでも救われたくて。それでも幸せになりたくて。脆いなりに足掻いてんだよ。
自分が望む普通の未来を、他人に異常だと言われても。虚しいなりに足掻いてんだよ。


そんなことを思ったら、肩を震わせる彼女を抱きしめずにはいられなかった。



抱きしめたちっちゃな背中は、壊れそうなくらい華奢で、でも柔らかくて、温かかくて。

なんだろう。
この湧きあがってくるこの感情は。


「・・・・のっちは、ゆかちゃんが女の子でよかったよ」

じゃなきゃ、きっと、こんな風に柔らかく抱きしめることもなかっただろう。


ゆかちゃんの瞳から涙が落ちた。
ずっと一人で抱えていたであろう想いが溶け込んだ涙が落ちる。

そんな彼女の涙を拭ってあげながら、
細くてさらさら流れる髪の毛に指を通しながら、

やっと、気づいた。


ああ、そうか。
これが愛しいってことなんだ。


ううん。。
だけど、やっぱりさ。


「・・・・ごめん、、ゆかが言ったこと、忘れて・・・」
「ぜんぶ?」
「ぜんぶ」
「いいの?」
「いいの」

「・・・まぼろし、だね?」
「うん。まぼろし、なの」


錯覚だよ。


まぼろし。
そうだよ、全部マボロシ。

永遠なんてすぐにマボロシ。
愛情なんてカタチもないんだ。


<06-終>





最終更新:2010年02月06日 20:51