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自分ちだ、なんて思うな。
普段優しい父親から、初めて聞いた厳しい言葉。
そんなのわかってる。当然だ。
甘えるつもりなんて、毛頭ない。
そもそも命を扱う仕事だ。
甘えなんて危険すぎる。許されることじゃない。




「お!あ〜ちゃん、おはよー」


入院しているおじちゃんたちと挨拶を交わす。
小さいけれど、うちは病院だ。パパは医者だし医院長。
だからもちろん自分も医者を目指すのに、なんの疑問も抱かなかった。


いつからか“あ〜ちゃん”と呼ばれるようになった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と呼ばれることに慣れていた小さな世界から、
他人とかかわる大きな世界へと変わった時、綾香だからと誰かがつけた。
この時、不真面目で小さな小さな世界に閉じこもっていた妹から“あ〜ちゃん”の呼び名を奪った。
妹は何も言わなかった。泣きもしなかった。
逆に、嬉しそうに私を呼んだ。
「あ〜ちゃん」と、何度も、何度も。




病室にむかう。
一通りの仕事を済まして、私はきまってこの時間に同じ病室にむかう。
ガラガラと音をたてた扉の奥から、今日も可愛い声が聞こえた。


「あ、お姉ちゃん!おはよー」


それだけで私は泣きそうになる。
毎日毎日、第一声のそれを聞くだけで。
必死で泣きそうになるのを堪えてる。


「おはよ、ゆかちゃん」


目が合って、ニカッと笑う妹の姿。
ベッドの上で退屈そうに、私が来るのを待っている。


「カーテン開けたん?」
「うん、晴れてたから」
「眩しくない?大丈夫?」
「ちょっとまぶしいけど、でも、きれい」
「そっか」


冬の日差しが部屋の中を明るくする。
この子のいいところは、濁りがないくらいに鮮明で明るいところだ。
冬の日差しに負けないくらい、十分光を放っている。ように見える。


「今日のっちはー?」
「ん、学校終わったら来るって」
「ヤッタ!じゃアイスたのもーw」


ゆかは、呼び名をとられた妹に新しく“のっち”と呼び名をつけた。
“お姉ちゃん”と呼ばれることは、激しく嫌がっていたんだ。
まだ準備ができてない。そうゆうことだったのかな。




4年くらい前、
道を踏み外してる妹に、怖がりもせずゆかは言ったんだ。


「のっち、お姉ちゃんじゃん!ゆかを助けてよ!」


怖がりもせず。
でも、泣きながら、そう言ったんだ。








最終更新:2010年02月06日 20:57