「やっぴー♪」
「・・・あ〜ちゃん」
ダンススクールでのっちを一方的に罵声して以来、ゆかはふたりを意図的に避けてた。
避けてたらあ〜ちゃんがバイト先に顔を出しに来た。

「バイト何時まで?」
「・・・9時」
「あと、30分だね」
「・・・うん」
「実はね、ゆかちゃんに話があるんよ・・・」
あ〜ちゃんの視線はメニュー表に向かってるから、表情が読めない。
あ〜ちゃんが来てからゆかの心臓はバクバクいってる。

「バイト終わるまで待ってるから、少し話せる?」
「・・・わかった」
ゆかがそう言うと、あ〜ちゃんの視線はゆかに向けられて少し泣きそうな顔をして笑ってくれた。

30分間、ゆかは時々手が震えて口が渇いて、頭の中はあ〜ちゃんのさっきの表情でいっぱいでバイトどころじゃなかった。

バイトが終わりあ〜ちゃんが待ってるファミレスへ向かった。
あ〜ちゃんにゆかの気持ちがバレたと思うから本当は行きたくなかった。

あ〜ちゃんの恋人を好きになっちゃったゆかは、もうあ〜ちゃんの親友でいる資格がないから。
ゆかは親友と好きな人を一片になくしちゃうんだ。

「ごめん。お待たせ」
あ〜ちゃんは「ううん。平気」って言って首を横に振った。

「ゆかちゃん、お腹空いとる?なんか頼む?」
「あー、いいや。大丈夫・・・」
「じゃあ、ドリンクバーだけでいい?」
「・・・うん」
あ〜ちゃんはテーブルに置いてある店員を呼ぶボタンを押して、ゆかの分の注文を頼んでくれた。

カチャカチャとカップの中でスプーンを回す音が響く。
話があるって言ったのはあ〜ちゃんなのに、なかなか切り出さない。




別に喧嘩したわけじゃないのにとんでもなく気まずい雰囲気。
ゆかはその雰囲気に今にも押しつぶされそう。
未だに心臓はバクバク言ってるし、手は震えてる。
何度もコップに口をつけても、渇きは解消されない。

「ゆかちゃんとのっちが仲良くなったら嬉しいって感じると思ってたけど・・・」
あ〜ちゃんはスプーンをカチャカチャ鳴らしながら話し始めた。
あ〜ちゃんの視線はゆかじゃなくてカチャカチャ鳴るカップ。

「でもね・・・実際にそうなったら、そう感じなかったんよね・・・。自分から頼んだくせにね」
ゆかの心臓は持つだろうか。さらに鼓動が加速する。

「なんだろ・・・これって、嫉妬なんかな・・・。すんごいふたりに仲間はずれにされた気分になってしまったんよ」
あ〜ちゃんはカチャカチャを止めた。

「なんでこんな気分になってしまったんじゃろ。あ〜ちゃんはゆかちゃんも好きなのに・・・」
口がカラカラ。水分が欲しい。欲しいけど、手が震えてコップが持てない。

「ゆかちゃんは・・・のっちのことが・・・好きなん?」
緊張しすぎて気持ち悪くなり吐きそうになった。
ここに来て初めてあ〜ちゃんと目が合った。
今にも泣きそうだ。きっとゆかも同じ顔してる。

「のっちは・・・友達だよ。あ〜ちゃんが想像してるそういう感情は、ないよ」
ゆかは首を横に振った。
嘘ついた。

「ほんまに・・・?」
「うん」
今度は首を縦に振った。
また嘘ついた。

「よかった・・・」
あ〜ちゃんはクシャって笑った。
ゆかもつられて笑う。心臓のバクバクはなくなった。
バクバクはなくなったけど、チクチクする。



「ごめんね、疑っちゃったりしちゃって」
「・・・ううん」
「待ってる間ね・・・もし、ゆかちゃんがのっちの事好きだったら、どうしようってずっと考えてたんよ」
あ〜ちゃんはカップを手にとって飲み干した。
ゆかも手の震えが止まったから、口の渇きを潤した。

「でもね、考えても考えても・・・答えが出んのよ」
あ〜ちゃんはのっちみたいに眉毛を下げてゆかを見る。
「もう考える必要ないじゃん・・・。ゆかはのっちのことは友情しか感じてないんだから」
「・・・そうだよね。うん。もう、考えるのよそう。えへへ」

この場は上手く切り抜けたけど、なんだろ・・・とんでもない後ろめたさを感じる。
嘘ついたからだ。ゆかは今ここだけで三回嘘ついた。
あ〜ちゃんは本音でぶつかってきたのに、ゆかは嘘で逃げた。

本音でぶつかる勇気もなくて、嘘で逃げても後ろめたさを感じる。
ゆかはそういう中途半端な人間だ。自分でも嫌んなる。

「そう言えば、のっちまたバックダンサーの仕事すんだって」
「へー、そうなん?」
「うん。なんかね〜今度は一緒にツアー回るらしいよ」
「すごいじゃん!でも、また忙しくなっちゃうの?」
「うーん、三ヶ月くらい家空けるんだって。だから、ゆかちゃんまた泊まりにきて〜」
「ふふふ。ええよ」

よかった、のっちが三ヶ月いなくなる。
この間にのっちへの気持ちを整理しよう。

絶望的な相手にずっと恋しててもしょうがない。
親友に嘘をつかなきゃいけない相手にずっと恋してても未来はない。

もう嘘はつきたくない。






最終更新:2010年02月06日 20:59