三ヶ月って思ってたより短い。
学校とバイトを往復してたらあっという間に三ヶ月たった。
気付いたら自分の誕生日がもう目の前だ。
街のネオンはクリスマスカラー。
のっちがバックダンサーを務めたアーティストのツアーは大成功に収めたらしい。
朝の情報番組のエンタメコーナーで特集されてた。
それを見てると、のっちが遠い存在になった気がした。
学校が冬休みに入ったと同時にのっちが帰ってきた。
あ〜ちゃんはそれだけでご機嫌。
ご機嫌なあ〜ちゃんを見ると、のっちはちゃんとあ〜ちゃんを不安にさせないように愛情を注いでるんだって感じる。
あ〜ちゃんの提案で久々に三人でご飯を食べることになった。
しかもいつもは大体ふたりの部屋で会うんだけど今回は珍しく外食。
のっちが臨時ボーナスが出たって言ったからおごってくれるらしい。
待ち合わせ場所に行くとあ〜ちゃんの姿を発見。のっちはいない。
「あれ?のっちは?」
「あー、一緒に来る予定じゃったけど、仕事場に寄らなくちゃいけんくて、ちょっと遅れるんよ。ごめんね」
「ううん。仕事だもん。しょうがないけぇ」
「・・・ゆかちゃんは偉いね」
「えっ?ゆかが偉い?どして?」
「うん。大人。あ〜ちゃんは時たま仕事を言い訳に使うのっちがムカつくんよ。でも一番ムカつくのはそういう風に思っちゃう自分なんだけどねw」
あ〜ちゃんは冗談っぽく笑って話すけど、どこか寂しそうだった。
そんな寂しそうなあ〜ちゃんの肩越しからのっちの姿がみえた。
「ごめん。待った?」
「ううん。ゆかも今来たところじゃけぇ」
「あっそう。ならよかった。てか、ゆかちゃん久しぶりだねw」
のっちとはスクールで気まずい別れをした以来会ってなかったけど、三ヶ月と言う時間が気まずさを綺麗に洗い流してくれたみたい。
だから三ヶ月ぶりに会うのっちはいつものようにヘラっとした笑顔をくれた。
ヤバイ、胸がキュンとした。
やっぱり三ヶ月って思ってたより短い。
すぐさまのっちへの恋心が甦ってきた。
今日行くお店はちょっとオシャレな居酒屋。
のっちの仕事の知り合いの友達のお店らしくて、少し安くしてくれるらしい。
「はい」
「ん?なに?」
席に座ったと同時にあ〜ちゃんから可愛くラッピングしてある袋を渡された。
「誕生日プレゼント。ゆかちゃん、明後日誕生日じゃろ?ちょっと早いけどあ〜ちゃんからw」
「えーーーー!!マジで!!!嬉しい!!」
マジで泣きそうなくらい嬉しい。
あ〜ちゃんがゆかの誕生日を覚えててくれたなんて。
あ〜ちゃんがゆかに誕生日プレゼントをくれるなんて思ってなかった。
「開けていい?」
「うん。開けて開けて」
袋に入ってたのは、あったかそうなガウンだった。
「やわらかーい。ありがとう、あ〜ちゃん」
「・・・明後日、ゆかちゃん誕生日なんだ。ごめん、知らなかった」
のっちはあ〜ちゃんの隣で非常に気まずそうにしている。
「なんで知らんの?あんた、それでもゆかちゃんの友達なん?」
「ごめんらさい」
「しかも噛みよるし。遅刻するし。なにしとん!」
「ごめん。・・・でもね・・・ゆかちゃんには申し訳ないけど、あ〜ちゃんにはクリスマスプレゼントあるよ」
「は?な、なによ。てか、ゆかちゃんに悪いじゃろ・・・」
「マジでごめん。ゆかちゃんのプレゼントは後日絶対あげるから!」
のっちはゆかに向かって手を合わせて謝ってきた。
ゆかは首を振って平気だよって言った。
「じゃーん♪」
のっちが出してきたのは、日本で一番有名なテーマパークのチケットだった。
「あ〜ちゃん、前からイヴに行きたいって言ってたでしょ?ホテルも予約しといたよん」
「えっ?イヴなん?」
あ〜ちゃんからは意外な反応。
ゆかなら飛び上がって喜んじゃうんだけど。だって、イヴでホテルに泊まるって最高のクリスマスプレゼントじゃん。
「えっ?どうして?イヴじゃダメなの?」
のっちもあ〜ちゃんの態度に困惑してるみたい。
そりゃ、そうだ。自信満々で贈ったプレゼントを喜んでくれてないんだもん。
「イヴは、お母さんとちゃあぽんとたかしげが広島から出てくるんよ・・・。みんなで汐留に行く事になったんじゃけぇ」
「えっ?そんなこと聞いてないよ」
「言おうとしたけど、のっち電話出なかったじゃろ・・・」
「だって、それは仕事が忙しかったからしょうがないじゃん」
「そんなんわかっとるけぇ・・・」
「でもイヴは空けとくのか普通じゃないの?」
「だって、その日に来るって急に言われたんよ」
「急っていつ?」
「三日前・・・」
「断れないの?」
「断れんよ・・・。だって、みんなこっち来るのすんごく楽しみにしてるけぇ」
「あたしも、あ〜ちゃんと一緒に行くの楽しみにしてたんだけど・・・」
「そんなん前から言ってくれとったら、あ〜ちゃんも断っとった」
「・・・もういいよ」
なんだこれ。最悪だ。
さっきまであ〜ちゃんにプレゼント貰ってウハウハだったのに・・・。
なんというか・・・最悪な雰囲気の中での食事は食べた気がしない。
あ〜ちゃんとのっちが険悪な状態って初めて見たかも・・・。
てか、のっちがあ〜ちゃんに対してキレたってのが意外。のっちってあ〜ちゃんの尻に敷かれてるってイメージだったから。
のっち怒ると怖い・・・。怒りがますます美人を綺麗にしてる。
「これ・・・ゆかちゃんにあげる」
「えっ・・・」
帰り際にのっちに渡されたのは、あ〜ちゃんを喜ばせられなかったあのチケット。
「なんかおさがりって感じで悪いけど、あたしからの誕生日プレゼント。誰か誘っていってきなよ」
「悪いよ・・・。もらえないよ」
ゆかはチケットをのっちに突っ返す。
のっちのあ〜ちゃんへの想いが入ったチケットなんて軽々しく受け取れない。
「ふたりで行ってくればいいじゃろ・・・」
ゆかの前をひとりで歩いていたあ〜ちゃんが振り返ってそう言った。
あ〜ちゃんのその言葉にゆかは、思わずのっちの顔を見た。
のっちは、まるで飼い主に捨てられた子犬のような瞳をしていた。
「そんな・・・やっぱり、あ〜ちゃんとのっちが一緒に行くべきだよ」
「行けんよ。・・・あ〜ちゃんはのっちも大事だけど、家族も同じくらい大事なんよ」
あ〜ちゃんは涙を溜めながら呟く。
のっちはそんなあ〜ちゃんの頭をガバっと抱きしめた。
それは一昔前のハリウッドのラブストーリー映画のワンシーンを見ているようで、今にも甘ったるいBGMが流れてきそうな気がした。
のっちはあ〜ちゃんを抱きしめてる。
のっちの腕の中であ〜ちゃんの肩が震えてる。あっ、泣いてるんだ。
やっぱりふたりは険悪になっても元通りになるんだ。
それはのっちが大人だからだ。のっちの器がでかいから二人はやってけるんだ。
いいな。
あ〜ちゃんは幸せ者で羨ましい。
ゆかもあ〜ちゃんだったら、のっちに愛されたのかな。
最近、日に日にあ〜ちゃんの事を羨んでる自分がいて嫌だ。
羨んでる自分が醜いと感じて嫌だ。
そんな自分が嫌いだ。
大嫌いだ。
最終更新:2010年02月19日 19:58