間違いだったの?ううん、違う。そうじゃない。
「だってゆかちゃん?」
「なーに?」
「それは好きになる相手間違っとる」
[018:mistake“like”for“love”…?]
「…好き?」
「もちろん!友達だもん」
「そうじゃなくて、」
「なんよ?」
「ゆか、もうだめかもしんない、、」
あれから三日後。
何事もなかったみたいに世界はぐるぐるまわるのに、
何事もなかったみたいにのっちは変わらず笑顔なのに、
時々困ったような、それでも嬉しいような、呆れてるような、
よくわかんないけど、曖昧な表情をつくるようになった。
携帯が鳴るようになった。
「なんでなん?どしたの?」
「…わかんない」
目の前のあ〜ちゃんは困った顔してる。
当たり前か。ゆかだって困ってるんだ。
この悩みに解決策なんかないし。
そもそも悩みってなんだ?
ゆかがのっちを好きだから?
のっちの携帯が鳴るから?
のっちの中にいまだにあの人がいるから?
でも、それもどれも全部止めることなんか無理だから、
だから、悩む必要もないのに。
だってしょうがないことだもん。
そんなのゆかの勝手だし、のっちの勝手。
でも、だけどやっぱり、それが悩みだ。
「何に悩んでるかもわからんし、何がしたいかすらわからん」
もー自分が嫌になる。
本当はわかってるんだ。
「…ゆかちゃんの好きにしたらいいじゃん」
あ〜ちゃんドヤ顔。
いやいや、ちょっと待ってよ。
そんなん無理じゃん。無理だから悩んでるんだってば。
「ちょ、そんなの無理に決まってるじゃん」
「なんで?」
「なんで、って、、」
「誰が決めるん?そんなこと」
わかってるんだよ。
本当は、本当は、、、
「ゆかちゃんの気持ちはゆかちゃんのもの。他の誰のものでもないんよ。
大事にした方がいい。ゆかちゃんのためにも、正直な方がいいんよ」
わかってるよ、本当の気持ちは。
お願い、のっち。
行かないで。
「だけど…言えないもん」
「なんで?」
「ただの友達だから」
————————————
「元気だった?」
「…うん」
「そっか」
「正確に言えば、最近は、元気だよ」
「うん、」
「…そっちは?」
「私?うん、元気だよ」
「だよね」
「…なにそれ?」
「別に。そりゃそうでしょ、そっちはさ、」
「ねぇ!」
「な、…に?」
「もう名前も呼んでくれないんだね、、」
「…」
「…そりゃそう、か、、」
「ご、ごめん、、」
「…」
「ごめんって!」
「…優しいんだね」
「…」
「変わらないね、」
「…ひ、寛ちゃん、も」
「ん?」
「変わって、ないよ、」
「そう、かな?」
「うん。……残酷なほど、ね、、」
————————————
ゆかは間違ってたのかな。
あれは愛じゃなかったのかな。
なんてゆうか、ほら、愛ってもっと“結びつき”の強いものな気がする。
だけどゆか嫌いになんてなれないし。むしろ全然好きだしさ。
別に何でもないって言ってるんだもん。でも、、、
いったいゆかは、のっちをどうしたいんだろ。
応援できるほど大人でもなければ、真っすぐ向かっていけるほど子供でもない。
————————————
「どっちが、、、彼女?」
「ん?」
「当ててあげよっか?」
「は?」
「ロングの黒髪?」
「はっ?てか二人ともロングの黒髪だし」
「そうでしたw」
「……ためした?」
「うんw」
「…かなわんわ」
「ごめんwでもさ、」
「うん?」
「きっと大切な人なんだろうね?」
「…うん」
「嫌われちゃったw」
「……どっち?」
「秘密wわかってるでしょ?」
「…なんとなく、ね」
————————————
ご飯食べよーって、のっちが部屋の壁を叩いたから、ゆかは201号室のドアをあけた。
変わらない笑顔でゆかを迎えいれて、変わらない温度でゆかをあっためる。
あれから五日たった。
ゆかの気持ちは宙ぶらりんのままだ。
「ゆかちん、泣きそうな顔、してる」
のっちの手がゆかの頬へと伸びてきて、ゆかは咄嗟に目をつむった。
優しく頬に触れたその手は、ゆかにはあったかすぎた。泣きそうになるのをグッと堪えた。
「…のっちの、せいだよ、」
目を閉じたまま、ゆかは言った。遠くでのっちの携帯が鳴った。
連絡とってるんでしょ?知ってるよ。何で、何も言ってくれないの。
のっちの手が離れていく。ゆかはその手を慌てて掴んで、ギュッと握った。
「…行かないで、」
「え、、」
「…ここに、いて」
「ゆか、ち、」
「……なんて、ね、」
「…」
「…嘘、だよ」
握り締めた手を離した。
ゆかとのっちは友達だから、ゆかにそんなこと言える権利はない。
ゆかは背を向けて玄関を出ようとドアノブに手をかけた。
こんな状況で、ゆかはこんな状態で、二人で楽しくご飯なんて、無理だ。無理に決まってる。
だいたい最初から、無理に決まってるんだ。
のっちは何を考えて、何を思って、何を感じて、ゆかを呼んだの?
無理に決まってる。無理に決まってるんだ。
「…行かないよ」
ゆかの背中は重くなった。
「だから、、行かないで」
優しい声が、耳のすぐ裏側で聞こえる。
ゆかを抱き締めるのっちの腕は、あったかかった。少し、震えていた。
間違いなんかじやないんだ。ゆかはのっちが好きだ。
間違いなんかじゃなく、早く忘れてほしかった。もう一度出会ってなんかほしくなかった。
「なんでもないよ、ただの友達」
のっちは情けない顔で言った。
“ただの友達”って、じゃぁその人とゆかは一緒なの?
ゆかだってのっちと、“ただの友達”じゃん。
ゆかにしたみたいに、その人にも優しくするの?
ゆかにしたみたいに、その人にも甘えるの?
ゆかにしたみたいに、その人のことも抱き締めるの?
そんなの、ゆかは、嫌だよ。
ゆかにしたこと、その人にもしないでよ。
その人にするなら、ゆかにはしないでよ。
だってそんなの、、、ちっとも“ただの友達”じゃないもん。
ゆかはもう、のっちは“ただの友達”じゃないんだよ。
それに、ゆかは、、、
切っても切れない、その“結びつき”が、嫌なんだよ。
のっち、あんた間違ってるよ。好きになる相手。
最終更新:2010年02月19日 20:02