「のっち、かしゆかのこと、好き?」
突飛な質問に虚を突かれたのか、のっちは目を丸くして驚く。
「うん。大好き」
でもすぐに破顔して素直にそう答える彼女が、本当に可愛くて。
つい笑ってしまった。
「なんで笑うのぉー」
ひとしきり笑って、向き直る。
一呼吸して、
「—じゃあ、あ〜ちゃんは?」
おそるおそる尋ねる。
のっちのことだから、その答えは想像つくけれど。
「もちろん。大好きだよ」
いつものへらっとしたその笑顔は、今まで自分が考えてきたことがどうでもよく思えてくるような、
不思議な魅力だった。
私がのっちから一番聞きたかった言葉のはずなのに、なぜかココロの表面だけに浸透したような、ふわふわとした感覚だった。
——うん、もう大丈夫。
——私達は、”3人”でいよう。
胸中で呟く。
目の前の人へ伝えたいメッセージは、封をしてずっとココロの引き出しの奥へしまっておこう。
いつか『差出人不明のメッセージだよ』なんて笑いながら、伝えられる。
「・・・どっちのほうが好き?」
こんないじわるな質問をして、彼女がどんな顔をするのかはわかりきってる。
ほら、予想通り、彼女は眉を下げて相当困ってる。
「・・・・・・無理。選べない。二人とも大好きだもん」
そう真顔で答えるのっち。
たまらなく愛しくて、やっとの思いでようやくひっこめた涙が、また出てきそうになってしまった。
やっぱり私は、彼女のことが「大好き」だ。
「・・・・・・じゃあ、・・・これからもずっと3人でいられるよね」
半ば自分に言い聞かせるように。
3人でずっといればきっと、こんなこともあったよねって笑い話にできる日が来るはずだから。
「もちろん。・・・その前に、ゆかちゃんとこ行かんと」
一面に広がる星空からは、いつの間にか雪が降っていた。
吐く息より白い雪の中、六角形の結晶が手のひらにおちる。
触れた瞬間、それは滲んで溶けていった。
なんでもない冬の一日。
そう笑える日のために、また明日からも3人で。
未来の3人へ、メッセージを。
そばにいてって言えないくらい
好きだった人がいて
好きだよって言えないくらい
愛してる人がいた
あきれるほどの寒さより
レンジで温めたセリフより
ただ届けたいのは
ただ届けたいのは
「 、 。」
...3 Years Later
「あの時はかしゆかホント怖かったわ〜」
——楽屋の窓から雪が見えた。
あ〜ちゃんがメイク道具片手に、昔話を回想する。
「だってなんかいつの間にか二人でいい感じに解決しちゃっててさぁ!」
「だってゆかちゃんのっちから逃げたじゃん」
「だってそれはあの場面だったら誰でも逃げるよ!」
PSPを持ちながらのっちはかしゆかの怒号を聞き流す。
——遠い冬の一日を思い出す。
「『だってだって』うるさいんよ〜。あ、マスカラまぶたについちゃった!」
「あのあとゆかがどれだけ泣いたかわかっとるん!?」
「知ってるよぉ〜目も鼻も真っ赤にして、思わず襲っちゃうかと・・・」
「あ〜〜もう、変態!この話恥ずいけぇやめよ!」
「ちょっと〜二人どっちか綿棒持っとらん?」
昔話を掘り起こされて、いつかの泣き顔のように顔を真っ赤にするかしゆか。
「・・・それに好きでもないのっちに襲われたくない!」
「なぁにそれぇ。あ〜ちゃんへの遠まわしなお誘い?」
自分のポーチから取り出した綿棒をあ〜ちゃんに渡しながら、のっちがニヤニヤする。
「ご指名ありがとうございま〜す。あ〜ちゃんです」
受け取った綿棒をつまんでポーズをキメるあ〜ちゃん。
「・・・はぁ」
深いため息をつくかしゆか。
——なんだかあの日を境に二人ともどんどん変態になっていく気がする(特にのっち)のは気のせいだと思いたい。
・・・あ・・・最近の衣装のスカート丈的には私も「変態」なのか——
なんてどうでもいいことを考えながら、3人での仕事のための支度を始める。
こうしていつまでも笑っていられる日のために、また明日からも3人で。
【P.S.】from N
「そーいやぁ、あのとき何て言ったん?」
「んー・・・?」
「ゆかが屋上から出てった、とき」
「あー・・・言わんとだめ?」
「気になる」
「はずかしーけぇ嫌じゃ」
「なんでぇ言ってや」
「ご想像にお任せしまーす」
「はぐらかさんでよー」
ドアを開けたら、懐かしい匂いがした。
そうだ、寮にいたころのあ〜ちゃんの部屋のバニラのアロマ。
今でもまだ焚いてるのかな?
今度久しぶりに家行かなきゃ。
で、たい焼き買って来たよーって入ったのっちの視線の先には、
何やらゆかちゃんに耳打ちするあ〜ちゃんがいて。
何か知らんけど、ゆかちゃんは顔真っ赤にして下向いてた。
あ〜ちゃんも心なしか紅潮している。
のっちがいない間にふたりは一体何を!
「なしたんふたりとも・・・」
「別になんもしとらんよ」
いつもの笑顔で答えるあ〜ちゃんと、何か言いたげに眉を寄せるゆかちゃんと、バニラの香りが心地よくて。
きっと、あの冬の日のことだろうなって思ったけど、口には出さなかった。
ふたりへのメッセージは、あの日からずっと届けられずにいるけど。
こうやって、いつでもそばに一緒に居る。
それが何よりものメッセージだよね。
——「これからも、ずっと3人で。」
fin.
最終更新:2010年02月19日 20:19