夕暮れが綺麗な空。こうやって2人きりで歩くのは久しぶりだった。
手をつなごうとして、やっぱりやめた。
そこに君はいるのに、確かにここにいるはずなのにできなかった。
きっと今でもお互いの気持ちは変わってない。
でもどうしてかな。いつからこんな風に触れあえなくなったんだろうね。
公園を横切って歩く。
さっきから何の会話もない。でも不思議と心地よかった。
言葉を交わさなくてもそばにいられるのは、君への想いは愛おしさや温かさっていう穏やかなものだけでこの胸を埋め尽くしてるから。
少し俯きながら、そんな事を考えていた。
ふと気配が消えたと思って振り返ってみると君が立ち止まっていた。
夕暮れに伸びる君の影。
それが教えてくれた気がした。
幸せはいつまでも同じかたちじゃないんだ。って。
ずっと一緒だよ
そう言ってたのにね。
「のっち」
「ん?」
「ちょっと座っていかん?」
「いいよ」
少し小さいブランコに2人座って、ゆらゆら。
夕日が眩しい。こんなに綺麗なオレンジ色は、きっと人には作り出せない。
切なくて、寂しくて、温かい。オレンジ色。
勢いよくブランコをこぎ出した。
前に後ろに飛んでいきそうになる体。
ずっと止まったままの君。
君を軸にして、私はただひたすら行ったり来たりする。
ふりこみたいに。
愛おしさと、どうにもできない現実。
独占欲と、君の幸せ。
君を軸にして、私はただひたすら行ったり来たりする。
ふりこみたいに。
あの日、君が真夜中に突然訪ねてきた日。
驚く私を横目に、するっと部屋に潜り込んだかと思ったら、飲めもしないお酒を持ってきて、『今日は飲もうよ』なんてどこか寂し気に言ったよね。
君が何も言わなくても、言いたいことはわかっているつもりだった。
だから気づかないふりをした。認めてしまったらもう後戻りできないと思ったから。
それは君も同じだった。きっと。
酔っぱらった君を見て、どうにも表現できない感情が心の中を渦巻いていた。
やっぱり愛しいなって。でも何でこんな姿見せるの?って。
どうしてこんな事させちゃったんだって。何でこんな事になったんだろうって。
「のっちぃー」
そう言って抱きついてきた君の体はとても熱くて。だけど、心の中はどうしようもなく痛かった。
いつだって愛に包まれてるのに、愛で溢れてるのに。
悲しみはこんな風にいつも愛情の近くに潜んでいて、忘れた頃に意地悪みたいにたまに顔を出す。
ただずっとこの幸せが続けばいいのにって思うだけなのにね。
「・・・のっち」
抱きついたまま君が耳元で呟く。
「ん?」
「ごめんね・・・」
「・・・何が?」
「いきなり来て、こんなに酔っぱらって・・・もう最悪じゃ」
「そんな事ないよ。一緒に過ごせるなら、何でも嬉しいよ」
たぶん、君は泣いていた。
でも、何も言えなかった。
ずっとそばにいたけど。
もしも、正義の味方なんてものがいたら、きっと私はただ困らせることしかできないんだろうな。
やめてよ、って。連れて行かないで、って。離れ離れにしないでよ、って。駄々こねてさ。
いつだって君を束縛してきた。好きすぎてたくさん傷つけた。数えきれないくらい泣かせた。
いつかカッコいいヒーローが、そんな私から君を奪っていくんだ。
ふりこの勢いが弱くなっていく。
行ったり来たり。
その間隔が小さくなって、ようやく君の隣りに止まった。
夕暮れに伸びる2人の影。
出会ったころの私たちは、もっと小さくて細い影だった。
お互いの影を踏んで遊んだりしてさ。
もう、ずいぶんと変わってしまったね。
背負うものも、抱く感情も。
このまま君の影を踏み続けて動けなくしてしまえば、君はずっとそばにいるのかな。
でも、やっぱり教えてくれてるんだ。この影が。
幸せはいつまでも同じかたちじゃないんだ、って。
ずっと一緒にはいられないから。
「のっち・・・」
「ん?」
「・・・ごめんね」
何が?ってもう聞かないよ。わかってるから。
誰も悪くない。誰も責められない。
だって人は間違いばかり繰り返すんだ。
だけどね、2人が出会ったこと。2人愛し合ったこと。
君が・・・あ〜ちゃんが好きで好きで、ずっとそばにいたこと。
あ〜ちゃんの笑顔がいつだって私を照らしてくれたこと。
あ〜ちゃんの為なら何だってできるって思ったこと。
あ〜ちゃんが私を受け止めてくれたこと。
あ〜ちゃんが私の隣りにいてくれたこと。
あ〜ちゃんがその答えを出したこと。
全部、全部。間違いなんかじゃないよ。
夕暮れに伸びる影。
隣りには眩しいほどのオレンジ色を浴びた、綺麗な君の横顔。
立ち上がって君の手を取って体を引き上げる。
答えるかわりにぎゅっと抱きしめた。
夕暮れに伸びる影。
2つ重なった影は細長くて、もうすぐ沈む夕日がその輪郭をぼかしていく。
ただの悲しい別れなんかじゃない。暗い結末なんかじゃない。
君が出した答え。私が見えていた未来。
全く同じじゃなかったけど、きっとどこかで似ていた。
「だいじょうぶ、だよ」
きっとこれだけで伝わってる。
これでよかったんだよ。間違ってなんかないよ。
後戻りでも立ち止まってるわけでもない。
2人が2人を想って、歩きはじめた。
だからもう少しこのまま。
この夕日が沈んで2人の影が闇に溶けるまで。
もう少し、このままでいさせて。
END
最終更新:2010年04月05日 21:06