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カツカツ、カツカツ、、、
静かな夜道。ブーツの音が、キンと冷えた空気に吸い込まれ、消えてゆく。

はぁぁ・・・
吐く息は、これでもかってくらい白く
ヤになっちゃうくらい、目につく。
けど、だからといって
いつもより白くたって、あっという間に、消えてしまう。

もとから、そこになんかありませんでした。

そんなふうに。


似てるな。

そう思った。


「どれだけ、付き合いが長くなっても、全然わからない」と彼女は言う。
「つかみどころがない」と。


あたしに言わせれば、彼女のほうが、つかみどころがない。
いや、、、つかめそうで、つかめない、か。

そこに、あると思って、手を伸ばした途端、消えてしまう。


この、白い吐息のように。


つかめないと知りながら
相も変わらず、呼吸を繰り返す、あたし。
だって、仕方ない。
呼吸が止まっちゃうと、死んじゃうもん。

なんて。


それにしても、今日はほんとに寒い。
だから、だな。
こんなこと考えるのは。
だってあまりにも、ナンセンス。


はぁ・・・

真っ白い吐息を追うように、夜空を見上げると
都会の空にはめずらしく、星がきらきらしていた。

つかめそうな気もするけど、それこそ、届くはずがない。

つかみどころがない、、、か。


そうかもなぁ、、、だって

自分ですら、自分をつかめないんだから。


そんなことを考えながら、家路を急ぐ。


マンションの前、見慣れた人影あった。





「…かしゆか?」
そう声をかけると、
「のっちぃ、遅い〜」
なんて、唇を尖らせて言われる。

「いやいや、聞いてないし。てか、なんでおるん?」
「んー…のっちに会いたくなったから?」
「…ふーん」
「わっ、冷たい返事ぃ」

なんて言いながらも、彼女の表情からは不満の色は窺えない。

入り口を開けると、当たり前のように後をついてきて、エレベーターに乗り込む。


「だいぶ待ったん?」
「うー、、まぁまぁ」
「風邪ひいたらどうするん?てか、あんなとこおったらあやしくない?」
「えぇ〜、じゃぁ、合鍵ちょうだい」
「なんでそうなるん?」
「あの人には渡してるん?」
「いや」
ふふん〜じゃぁいいや、と笑う。
「てか、今日はデートだったんじゃろ?」
エレベーター到着。
「うん、まぁ」
「一緒に帰ってくるかと思って、待ち伏せてたのに」
「まさかぁ、そんなことはしません」
部屋の鍵を開ける。
「残念〜、修羅場を期待してたのにっ」
「修羅場になんか、なるわけないじゃん」
「それもそっか。女の子同士って、便利だねぇ」
なんて言いながら、あたしより先に、部屋にあがる。
「・・女の子、同士、、ねぇ・・・」


そういう問題じゃない気もするし、そうだよなぁと思う自分もいる。


「…ねぇ、一応聞くけど、今日は泊まってくの?」
「こんな時間なのに帰ると思うん?」
「・・・お風呂の準備してくるね」

面倒だから、シャワーにしようと思ったけど
こんなに寒い日は、ゆったりと湯船に浸かるほうがいいだろ。

あっためて、トカシテシマワナイト・・・・


浴槽をささっと洗う。
「のっちぃ?」
部屋から、かしゆかの声が聞こえる。
「んー?」
「ゆかの部屋着はぁ?」
「クローゼットの中—」
ボタンを押して、お湯をはる。

部屋に戻ると、着替えの真っ最中。
「もぅ、洗濯くらいしといてよぉ」
「まだ、1回しか着てないじゃん」
「だけど、いつくるかわかんないのに」
「とか言いつつ、毎週来てるし」

あたしも、自分の部屋着に着替える。



「あそうだそうだ、のっち?」
「ん?」
「じゃじゃーん!」
振り向くと、目の前に差し出されたのは
あたしが、最近、大のお気に入りのバンドのCD。
「欲しいて言ってたの、今日フラゲできたんだよ!」
なんて嬉しそうな表情をするんだろね。
「あ、、うん」
すっげー嬉しいんだけど、、、
「のっちも、今日、買ってきた…」

あ、
そう言って、一気にテンションが下がる彼女。

「…ごめん」
「んーん、ゆかも聞きたかったし、自分のにする!」
「…うん、、てか、よく覚えてたねぇ」
「ん?そんなの、当たり前じゃない?」
「そう?」
「うん、好きな人の好きなものくらい、覚えてるでしょ?」
「あぁ、、まぁ、、、」

あの人は、まだ、このややこしいバンド名を覚えてすらないだろう。
まぁ、、、のっちだって、あの人の最近のお気に入りと聞かれても、、、

「わかっとるん?」
「ん?」
「ゆかは、のっちの“愛人”なんだよ?」
「…わかっとるよ」

そう答えると、ふふっとイジワルな笑みを浮かべて
「のっちはまだ、わかっとらんよ」って。


わかってない、、か。
んー・・・そうなのかなぁ、、そうかもな・・・


『じゃぁ、ゆか、愛人でもいい』

もう、、半年くらい前になるのかな?
3度目の、かしゆかからの告白。
あたしには、その時も、まぁ、今もなんだけど、付き合ってる人がいたから
『…だからぁ、、ムリだって』
と、これまた、3度目の返事。
でも、2度目までと違ったのは、この『愛人でもいい』発言。


『・・・愛人、、、て』
『ダメ?』
『…ダメ、でしょ』

さっきまで茶化すような表情だった、彼女の瞳が変わる。

『んじゃさ、ゆかのこと嫌い?好き?』
『そりゃぁ、好きだよ、、、友達だもん』
『もし、彼がいなかったら、付き合ってくれる?』
『・・・わからん』

『んじゃさ、あ〜ちゃんは?』
『えっ?』
『好きでしょ?』
『うん、超好き。あ、もちろん、友達だからね』
『うん、わかってるってwじゃぁ、あ〜ちゃんとは?』
『へっ?』
『付き合ってみたい?』
あ〜ちゃん、と?
『いやぁ、ないない。それは、ない。
 あ〜ちゃん大好きだけど、そんなのじゃないよ』

そう答えると
さっきまで真剣な色してた瞳が
なんだか、見透かしたような色に変わって

『なんで、ゆかのことは、そんなふうに即答できないの?』
そう言って、ふっと笑った。

どうして即答できなかったんだろ?

そして、いいよ、とも
ダメ、とも言えないまま
奇妙な「愛人関係」が始まった。






「のっち?」
「…ん?」
「なに、ぼーっとしてんの?」
「いや、別に・・」

「そう、、、ねぇ?」
「ん?」
「のっちが買ってきたCD見せて」
「えっ、でも、おんなじのだよ?」
「いいから、見せてっ!」

カバンから取り出すと、さっと奪われる。そして
「はい」
そう言って、手渡されたのは、彼女が買ってきたCD。

「ゆかからのプレゼント」
「・・・同じのだよ?」
「うん、わかってるwでも、こういうのもいいでしょ?」

ま、たしかに悪くない。


「お風呂みてくるね」

溶室を開けると、真っ白い湯気に襲われた。
さっき、吐き出した息と
同じくらい白くて
同じように、あっという間に消えてった。


なのに、なぜだか
とらわれた気分になった。


なんだろ。
今夜は、どうも、いけない。


「お風呂、先に入りなよ」
「いいの?」
「うん。外で待ってるの寒かったでしょ」
「ありがと。。。あ、ね!一緒にはいる?」
「入んないよ」
「シたくなるから?w」
「なりません!てか、ヤんないって言ってんでしょ」

「わかってるよ〜w」
まったく・・・
「でも、なんで?」
「ん?」
「なんで、ヤんないの?」
「なんでって・・・」
そりゃぁ、、、、、

なんで、だ?

「…恋人、、、じゃ、ないから…?」
「ふーん」
なにか、言いたげな瞳。
苦手なんだけど、たまらなく、好き。
「ちゅーは、するくせにね」
「・・・」

「かしゆかは、さ?」
「うん」
「やっぱ、シたいの?」
「当たり前じゃん。だって、ゆかはのっちが好きなんだもん」
「…そっか、、」
「でも、、
「でも?」
「ヤんない」
「…どうして?」
「ふふっ、秘密、だよ」

ほんとは、わかってんでしょ?
そんなこと言いたそうな、イジワルな笑みを浮かべて
浴室へと消えていった。



はぁ、、、今夜は、ほんと、、、なんか変、だ。
…きっと、あの人のせいだな、、、久しぶりのデートだったのに。
そう、、、きっと、そうだ・・・


よし、買ってきたCDでも聴いて、気分を変えよう。



「ゆか、この曲好きだな」
甘い声に引き戻される。
「うん、のっちもいいなぁって思った、、て
 あがってたんだ?気がつかなかった」
ソファに転がっている、あたしの足元にちょこんと腰をかけ
「うんwのっち、全然気付かないんだもん」
ダメだな、、なんだか、抜け出せそうにない。
「やっぱ、なんかあったん?」
「ん?」
「今日ののっち、なんか変だよ?」

そう、変なんだ、、変なんだけど、、、
なんでだろ?
それは、、、わかるようで、わかんなくって・・・


すると彼女は
「…教えてあげようっか?」
「・・・え?」
「だから、教えてあげようっか?」
そう言って、のっちに跨って、
なんともいえない瞳で、見下ろしてくる。
「・・・なに、、を?」
口角が、キレイにあがるのをみて、ドキッとした。

「ホントの、こと」

ほんとの、とこ?


「のっち、今日、デートうまくいかなかったでしょ?」
「え、、なんで・・・」
「ドタキャン、、、もしくは、途中で用ができたとか、なんとか」
「え、だから、なんで「知ってるのか、、、て?」
さっきから、心臓がバクバクとうるさくて仕方ない。

「だって、ゆかが呼び出したから」

音が全て、部屋の隅に吸い込まれて、消えた。

「へ?」
きっと、のっち今、すごく間抜けな顔してるんだろな。
「ゆかが呼び出したの、“会いたい”って」
「ごめん、わけわかんないんだけど」
「あ、勘違いしないでね?別に彼のこと好きとかじゃないから」
だって、ゆかが好きなのは、のっちだけだもん
そう言って、かしゆかは、続ける。
「試してやろうって思って、彼の気持ち。
 ほんとに、のっちのこと好きなのかって。
 ゆかが想うよりも、のっちのこと大切にしてるのかって」

ゆるりと、空間が歪んだ。
なんで?・・・涙、だ。
のっち、泣いてるんだ。

「あの人、簡単に、ゆかのほうに転がってきたよ?」

でも、なんで泣いてんだろ?
悲しい?・・・んーん、そんなんじゃない。

「ゆか、、、最低、だね・・・ごめん」
細くて長い、つめたい指先が涙を拭う。


「でも、、、ゆかのほうが、何倍ものっちのこと愛してて
 何十倍も、のっちが必要、なん、だ、ょ・・・」

頬を撫でる、そのやさしくて大きな手をとる。

「…、どうして、そんなこと、したの?」


—だって

—だって?

「ゆか、もう、愛人なんかじゃ、ヤなんだもん」

言い終わるか、どうか

ぐっと、上半身を起こし、細い細いカラダを抱きしめていた。




予想外だったのだろう。
彼女から伝わるのは、戸惑い。

でものっちは、、、
のっちをずっと覆っていたクダラナイなにか、は
すっと、暗闇の中に消え
見えたのは、ずっとずっと
そこにあった、真実。


なんだ、そういうこと、か。


「なんだ、かしゆか、のっちのこと、めちゃくちゃ好きなんじゃん」

「バカ!今ごろなに言うとるん」
トンと、背中を叩かれる。そして
「そんなん、、、当たり前じゃろ」
細く長い腕で、きつく抱きしめてくれた。


今日は、ほんと、久しぶりのデートだった。
なのに、全然、楽しみじゃなかった。
会ってそうそう、「ごめん、用ができた」そう言われて
店に置き去りにされても、なんとも思わなかった。

そりゃそうだ。
だって、最近はずっと、かしゆかのことばっか考えていた。
考えてたくせに、そんなことわかってたのに
知らないフリ、気付かないフリしてた。

ほんとは、とっくに、夢中になってた。


だからこそ、失いたくなくって
中途半端に、そばにおいて・・・


ほんと、のっち、バカだ。

愛してくれてること、こんなカタチでしか認められなかったなんて。


たしかに、ちょっと、、、いや、かなりイきすぎだよね?
そこまでやっちゃうの?だよね・・でも

愛しくて仕方ない。

そ、、、のっちもとっくに、おかしいくらい彼女に溺れてるんだから。


怖いくらいの想い、に、気づかれたくなかった。
壊したくないから。
怖いくらいの想い、に、気付きたくなかった。
壊れたくなかったから。


でも、もう、、、、ね?


お互いがイタイくらい想いあってんなら、、、もう、いいや。


「…かしゆか?」
「なに?」
「抱いていい?」

瞳を覗き込むと、一瞬驚いたような表情をしたけれど
すぐに、のっちの大好きなイジワルな顔して「ダメ」って。

「どうして?」

—だって

—うん

「ベッドがいい、から」


それはそれは、失礼しました。


じゃ、そういうこと、で。


シーツに包まって
熱くなって


隙間なく、愛し合おう。





最終更新:2010年04月05日 21:38