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他には何も、いらないの。
「…ごめん」
「え?」
「このまま…」


[021:only only only you]


『もしもし』


3コール目が鳴り終わったと同時に、電話のむこうから懐かしい声がした。
たった一週間かそのくらい会わなかっただけで、懐かしく思えるのは、何でだろ?


『…ゆかちん?』


何も言わないままだったゆかを心配するかのような声がした。
例えばもし、あの人と一緒にいることになったのだとしても、こんなゆかを心配してくれるだけの優しさは、まだ、あるんだ。
急に淋しくなったり、安堵したり。ゆかの心は忙しい。


「のっち、今、どこ?」
『…もう、帰るとこ』
「ゆかね、のっちに会いたいんだけど」
『…うん』
「今度いつゆかに会ってくれんのよ」
『…』
「ゆかね、話したいこと、あるよ、、」
『…ゆかちん、あのね?』
「うん?」
『今、ね?』
「うん」




『もう、外にいるんだけど、』
「えっ?」


慌てて立ち上がって玄関にむかった。少し足が震えた。
耐えきれなくなって、ドアを開ける前に名前を呼んだんだ。
こんな夜中に、大声で名前を呼んだ。
それは、こんな大都会で見つけた、愛しい人の名前。


玄関のドアを思いきり開けると、眉を少し情けなく垂らした愛しい人が待っていた。
話したいこともあるし、聞きたいこともある。
でも、もう待てないよ。ゆか、我慢強くなんかないんだ。


もう一度大声で呼んだ名前は、涙に邪魔されて聞こえづらかったかな。
ゆかは無我夢中で抱きついた。


「っ、、のっ、ち…」


のっちの背中にアザが残ればいいのに。
そんなふうに思いながら、強く強く抱き締めたんだ。







「・・のっち、、」
「うん、、のっちだよ、」
「・・のっち、のっち、、」
「うん、」
「のっち…」
「…うん?」
「…忘れな、よ」
「・・・」
「…忘れてよ!」
「・・ゆか、ち、、」
「忘れて、、よ、、、」



「…苦しいよ」


まわした腕の強さが、のっちの限界に達したみたいだ。
のっちはゆかを無理矢理はがした。
眉を垂らしたその顔じゃ、何を考えてるかわかんないよ。
もうこれ以上、心も、体も、離れるのは嫌なんだよ、、


「・・・っつ、」


無理にはがされて淋しい体を強引に引き寄せるのは、確実にのっちの腕だ。
痛いくらいに抱き寄せられて、今度はゆかの体にアザが残りそうだよ。
ゆかはそれで、全然いいんだけど、、、。



「怖いんだ、、」
「え?」
「…怖いんだよ、、」


のっちの腕の力が弱まっていく。
次第にゼロになって、だらんとすべり落ちた。
ゆかは、力をなくしたのっちを部屋に招き入れた。





「これ以上、、進みたく、ない、んだ、、、」
「な、んで?」
「…」
「のっち?」
「…っ、、ゆ、かちんまでいなくなったら、、もう立ち直る自信、ない…」
「なっ、そんなの、
「絶対なんてないんだよ!信じられるもんなんかない!疑いたくもない、傷つきたくもない。
…怖いんだよ。。また大事な人が、、どっかいっちゃうんじゃないかって、、、」
「そんなこと!
「わかんない!」
「ゆかがするわけない!!」



「…人は、変わるんだ、よ、、、」
「なんで!?のっち!なんでわかってくれないの!?」
「…」
「ゆかは、
「…そんなの、、」
「ずっとここにいるから!」


なんでわかんないの?
なんで信じないの?
ゆか、こんなに必死だよ?
ねぇ、のっち?なんで?


「・・・同情、すんな、、」


何言ってんの?
馬鹿じゃないの?
のっち?ちゃんとゆかのこと見てよ。



「・・・愛情、だもん」


ねぇ、のっち?なんで怖いの?
ゆか、ちっとも怖くないはずだよ。
わかってるでしょ?ゆかは違うんだよ。
他の誰かと一緒にしないで?
あの人とゆかを一緒にしないで?
どっか誰かの面影を、ゆかに被せないでよ。


「愛情だよ、のっち。ゆかのこれは、愛情。」

「・・っ、、ゆかちん…」

「のっち、愛してる」

「ゆ、、

「ゆかはのっちを愛してるよ」




他には何もいらない。
のっち、ゆかはどこにもいかないよ。
怖がらなくて、いいんだ。
だってこんなに好きが溢れてるんだもん。



「お願いのっち、ゆかを好きになって」



他には何もいらないから、



「お願いします」






最終更新:2010年04月05日 21:41