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昨日の寒空とは対照的に、春の陽射しが心地良い午後。
いつものカフェに入ると、南国をイメージさせるBGMが私の心を落ち着かせた。
ゆったりと時が進むのが分かる。

この窓際のテーブルに座り、忙しく行き交う人々を眺めるのがゆかは好きだ。
これだけたくさんの人が通りすぎるのに、皆様々な人生を抱えて歩いている。
想像するんだ。
あの人はきっと、今朝寝坊して会社で叱られたんだ、とか。
いつの間にか、暗い顔をした人を見つけるのが得意になった。
ゆかは人の不幸が好きなのかもしれない。
ううん、そんなはずはない。そんなはずは。

キュッとストローを吸うと、久しぶりのアイスティーが喉から胃に流れていくのが分かった。



ーそれでねっ、それで、


そう、今日ゆかは特等席を独り占めできずにいる。
向かいに座る彼女は、朝からずっとこの調子。
ニコニコ、いや、ニヤニヤ、と言った方が正しいだろう。
頬をだらしなく緩め、時々宙を見上げ、息継ぎを忘れているかのように話続ける。


ーその後その人がさっ


うん、知ってる。
だってゆか、この話聞くの今日三回目だもん。
公園にいたら突然雨が降ってきて、どうしようかと慌てていたら、誰かが傘をスッと差し出してくれたらしい。
何それ、意味分かんない。
ていうかそもそもあんた公園で何してたん。
あ、しかも夢の中の話っていうんだから余計に意味分かんない。



ーのっちのこと、いつも見てましたって、

ヤバいよねードラマみたいだよねーって、またその顔。
いつもなら自分の話したいこと忘れちゃうくらいゆかの話、聞いてくれるくせに。
よっぽど嬉しかったんだね。
恋がしたいって、最近口癖みたいに言ってるもんね。
ばかじゃないの、夢なのに。
顔だって分かんなかったんでしょ。


ストローの曲げる部分をくにゃくにゃしながら、ゆかは相づちをうっていた。
ていうか何で今日はこんなに外眩しいの。
暑いくらいだよ。意味分かんない。




ーゆかちゃんさぁ


宙に浮いていた彼女の視線がいきなり私をとらえた。
その瞬間、自分の心臓の大きさ、位置が、はっきり分かった。


ーごめんね何度も


分かってるなら同じ話するなっつうの。
私はそう思いながら、首を横に振り、彼女に最高級の笑顔を見せた。
そんなゆかを見て、彼女もまた笑った。
ニヤニヤじゃない。ゆかとは違う、最高の笑顔。

その時また、私の心臓が自己主張を強めた。

…もうムリ


そろそろ帰ろう、と彼女にきりだし、私たちは席を立つ。
さっと伝票をとり、私の前を歩く彼女の少し大きな背中を見つめた。
きっと顔を見たら一生言えないから、今言ってあげる。


[傘くらい、いつでもゆかが入れてあげる]



その声は、心臓の音にかき消された。



ー行こう


くるりと振り向く彼女に、私はまた、最高級の笑顔を見せ、私たちは店を出た。


いつもと変わらない午後。
これから先も、変わることのない午後。


  • END-






最終更新:2010年04月05日 21:48