「綾香と出会ってからさ、あたしの人生がガラっと変わったのよ。もうね、灰色だったのがばら色に変わったくらいにさ!!」
のっちはまだあ〜ちゃんとのなれそめ話を続ける。
「綾香と出逢ってからしばらくしてミキコさんから連絡あってさ。ダンススクールを開くからそこのインストラクターやらないかって言ってくれたんだよね」
「じゃあ、それが今やってるやつ?」
「そう。正直さ、もうダンスに関わる仕事なんて出来ないって諦めてたらすんげー嬉しくてw」
「あ〜ちゃんはのっちにチャンスも運んでくれたんだね」
「おっ!ゆかちゃん、上手いこと言うね〜wまー、たしかにそうかも。だって、ホントにあいつと会ってから良い事ばっかだもんw」
あ〜ちゃんの話をする時ののっちはだらしない顔つきになる。
きっと本人は気付いてない。
「だって、ゆかちゃんにも会えたしw」
「は?」
「んー、だってそうでしょ?綾香がいなきゃ、うちら知り合ってなかったんだよ?それってすごくね?」
「そうだね・・・」
そうだ。考えてみたらそうだ。
あ〜ちゃんと友達にならなきゃ、のっちと知り合ってなかった。
やっぱり、あ〜ちゃんには勝てないよ。てか、勝つとか負けるとか意味ないけど。
「好きな人と一緒にいれて、好きな仕事出来てあたしはそれで十分幸せだったんだけどねw」
急にのっちはお得意のハノ字眉になってみせた。
「二年以上一緒にいるとさ。なんつーの?
一生懸命さ両手で壊れないように大事に大事に扱ってた物なのに、なんかさ色んな事に慣れちゃってさ、片手で持っても大丈夫じゃね?って思っちゃたんだよね」
そう話すのっちは両手を小さく広げて何かを包み込むように動かしてる。
「あっ?言ってる意味わからんよねw」
「えっ・・・あっ、なんとなくわかる、よ?」
「疑問系じゃんw・・・ようは、欲が出ちゃったって事」
「欲?」
「そう。人間、ずっと最高の状態でいるとそれに慣れちゃうんだよね。そんで、もっと最高を求めちゃうわけw」
「あたしは綾香と出逢って、あいつさえいれば生きていけるって思ったんだけどさ。ミキコさんの知り合いの人からダンサーの仕事しないかって言われたのよ」
「それって、この前のやつ?」
「そうそうw最初は断ったんだ。さすがに怪我したし、二年以上もブランクがあったからねw」
電気ストーブのおかげでいつの間にか濡れてたじゅうたんが乾いてた。
「でも結局断りきれなかったんだよ。まー、期間限定って言われたから、それなら平気かなって思ったのね」
「傷・・・は、平気だったの?」
「んー、ねw最初は不安だったけど、やってみたら意外と大丈夫だったんだよね。たまに張る感じはあるけどw」
「よかったじゃん。ゆか、のっちが踊ってるの見るの好きだよ」
「あはwありがとう。あたしも久々に踊って楽しくて楽しくて仕方なかったんだよw」
「でもね、それに夢中になりすぎて・・・綾香の事、三ヶ月ほったらかしちゃったんだよね・・・。
あいつ・・・寂しがり屋だからいつもそばにいないとダメってわかってるのに、あたしは仕事を選んじゃったの。だから罰が当たっちゃったのかなw」
「ばち?」
「んー、やっぱり片手で持っちゃダメだったんだよ。両手で大切に扱わなきゃいけなかったんだよ・・・」
今までののっちはあ〜ちゃんの話をしてる時は、めっちゃ誇らしげな感じだったけど今は違う。
めっちゃ不安げな顔してる。
のっちは後悔してる。
あ〜ちゃんよりも自分の夢の続きを選んだ事を。
ゆかなら、そんな事のっちにさせないのに。
のっちの夢、心から応援するのに。
頑張れ!って言えるのに。
「綾香とちゃんと話し合おうとしてんだけど、あいつ・・・あたしの事避けてるんだよね、、、」
ずっとのっちの眉毛はハノ字のまま。
「んんーー!?てか、傷の話からかなり飛んじゃったねwあー、止め止めw今度はゆかちゃんが話す番!」
「えぇぇ!?」
なにそれ。すんごい中途半端に切らないでよ。気になるじゃん。
「あの人とは順調なの?」
無邪気な顔して無神経な事訊かないでよ。
店長の事は触れられたくない。
「・・・終わった。やっぱり、ダメだったの」
「そっか・・・」
それ以上のっちはまるでゆかの心の中を読んだかのように、何も訊いてこなかった。
そういう、わけのわからない優しさが苦しい。
「なーんかさ!難しいと思わない?」
「なにが?」
「愛情表現!!」
のっちはそう言い残し、ゴロンと寝そべってしまった。
次の瞬間には寝息を立ててた。
気付けば、貰ってきたお酒はのっちが全部呑み干してた。
3缶もひとりで普通呑む?
ちょっと呆れて笑いそうになった。
ゆかが貸してあげたハーフパンツから出てるのっちの右足。
膝には傷の痕。のっちの夢を奪った憎い奴。
でも、傷がなかったらゆかはのっちと知り合ってなかった。
憎いけど憎みきれない傷をソッと指でなぞる。
急に切なくなった。
ふたりのなれそめ話、ずっと聞きたかったけど、やっぱり聞かなきゃよかった。
聞けば聞くほど、のっちのあ〜ちゃんへの想いが大きくて辛かった。
やるせない気持ちになった。
ゆかがどんなにのっちを好きでいても意味がないから。
あ〜ちゃんよりもゆかがのっちの事が好きでも意味がないから。
こんな気持ちいらない。
いらない。
どこに捨てればいい?
燃えるゴミ?燃えないゴミ?
ゆかの両手にはのっちの想いでいっぱいだよ?
何度も捨てようとしたけど、気付いたら拾ってた。
それの繰り返し。
もう拾うの疲れたよ。
もうやめたい。
最終更新:2010年04月05日 22:11