◆A-side◆
扉を開けると、パジャマがはだけたあ〜ちゃん(中身はちゃあぽん)に、のっちが跨がっていた。しかも、キスしてた…。
見なきゃ良かったと後悔した。だけど…悲しいのと同じくらい、怒りが込み上げた。のっちが自分以外の人と、そんな事するなんて嫌だ。体はあ〜ちゃんだけど、嫌だ。
「いや、ちゃあぽんコレは…ち違うんよ」
顔を真っ赤にして言い訳しようとするのっち。何が違うの。何も違わないよ。
「のっち最低!なんで…なんで、こんな事するんよ!」
どうしよう。のっちは何も知らない。何も分かってないのに、理不尽な事だと分かっていても、止まらない。涙が止まらないよ。
「な…なんで…って…」
ほら、またのっちを困らせてる。混乱するのっちの眉はみるみる八の字で、今にも泣き出しそうな表情。
ちゃあぽんまで、混乱してる。妹にこんな姿だけは見られたくなかったな。お姉ちゃんの面目丸潰れだよ。
「…ごめん、…っ友達の家戻るから…」
今は逃げる事しか頭に無い。これだけこの場をグチャグチャにして逃げるなんて質が悪いけど、このままだと苦し過ぎるから。
チラッと目に入った自分の体には、紅い痕が付いていた。
◆N-side◆
とにかく走った。部屋にあ〜ちゃんを独り置いて、ひたすら走った。
夜風が頬を刺す。ピリピリと痛い。だけど心がもっと痛い。大切な人を傷付けた時の痛みと似ていた。
あの場面で、あそこまでちゃあぽんが取り乱した理由…きっと、のっちが原因だ。涙まで見せた理由…本当の理由が知りたい。
しばらく走ると、前方にちゃあぽんの後ろ姿。のっちは叫んだ。
「待ってちゃあぽん!」
立ち止まり振り返るちゃあぽん。その頬には一筋の涙。まだ…泣いてたんだ。
「…のっち…」
目をゴシゴシ擦る。その手をそっと掴んだ。
「そんなに、強く擦ると…目、が腫れちゃうよ…」
息が切れてるせいで言葉が途切れてしまう。
「少し…話したい事があるの」
のっちの言葉に、ちゃあぽんはゆっくり頷いた。
◆C-side◆
一人ベッドに残されたあたしは、目を閉じて大きく息を吐いた。お姉ちゃん…泣いてた。
お姉ちゃんは良く泣く。嬉しい時、悲しい時、悔しい時…今まで数え切れないくらい泣き顔を見て来た。
だけど、こんなに辛いのは初めてだ。身が裂けるような痛みを感じる。大切な人を傷付けてしまったんだ。
◆A-side◆
のっちに手を引かれ、近くの公園のベンチに並んで座った。夜風は冷えるから、とのっちが上着を着せてくれた。優しい。本当に王子様みたい。
「今日は、二人共…なんか変だね」
そりゃそうだ。だって体が入れ替わってるんだもん。それに、これだけ取り乱したら誰だって気付くよね。
「なんで泣いたの…?」
のっちの声が、誰も居ない公園に響いた。薄暗い街灯が静かに公園を照らす。ブランコが反射して、鏡みたいだ。
あ〜ちゃんは何も言わずにうつむいた。のっちを困らせたくないのに、言葉が浮かんで来ない。
「ごめん、直球過ぎたね…えっと…のっちも動揺してるって言うか…」
のっちも言葉を探してる。大丈夫、言いたいことは分かってるつもりだから。
「……ありがとう」
あ〜ちゃんがそう言うと、のっちは動かなくなった。瞬きだけを繰り返す。
「ありがとう、追いかけて来てくれて」
凄く嬉しかった。のっちは照れた様に小さく笑う。凄く可愛い。あ〜ちゃんも釣られて笑った。
「ちゃあぽんは…お姉ちゃんのこと好き?」
「え…」
唐突な質問だ。自分のこと好きとか聞かれても困るな。
答えられずにいると、のっちは立ち上がった。軽いステップで滑り台に近付いて、よじ登った。楽しそうな笑顔でまるで子供だ。
「のっちはね、大好きだよ」
凛としたのっちの声。のっちの声は真直ぐだ。いつもあ〜ちゃんの胸を突き抜ける。
のっちは滑り台の上で踊る様にはしゃいでる。あ〜ちゃんは立ち上がって、滑り台の下にある砂場に歩み寄る。
そこにしゃがみ込んで、上にいるのっちを見上げた。のっちは視線に気付き、笑いかけてきた。不意打ちに胸が高鳴る。
「初めてだったんだ、こんなに誰かを好きになるの」
のっちの声はひたすら真直ぐ、あ〜ちゃんだけに届く。
「ずっと一緒に居たいと思った。ずっと隣で笑顔を守りたい、って」
なんで、急に真面目な顔をして言うの?また溢れてくる。今度のは、嬉しい時に溢れる雫。
「あ〜ちゃんの事、ずっとずっと大切にするって決めたんだ」
のっちの言葉は、誓いに似ていた。いつもそうやって一方的に約束するんだ。ずるいよ。
泣いてるあ〜ちゃんに気付いたのっちは、あたふたしながらシューッと滑り降りて来た。
「ずるいよ…のっち」
本当にズルイ。あ〜ちゃんの全部を平気で奪うんだもん。
のっちがピタッと固まった。風がのっちの短い髪を弄ぶ。綺麗で見とれていると、のっちの唇がゆっくり動いた。
「…あ〜ちゃん…?」
そう呟いて、のっちは眉をひそめた。あ〜ちゃんはただその目を見つめた。するとのっちは顔を真っ赤にした。
「う…やっぱり、あ〜ちゃんだ…」
のっちは後退りしてあ〜ちゃんから遠ざかる。ついにバレたか。なんか、あっけない。
「のっち気付くの遅すぎ」
「なんで…なんでちゃあぽんと入れ替わっとるんよ」
「知らん」
そう言うと、フツフツと何か込み上げて来たのか、のっちは自分の髪をグシャグシャする。そして訳の分からん事を叫んでる。こらこら、近所迷惑じゃけ止めんさい。
「うわーヤバいヤバいヤバい」
「何がヤバいんよ」
「ちゃあぽんと…する所だったよ…」
そうだよ。もう少しで愛する妹の初体験の相手がアンタになる所だったんだよ。今更だけど、あ〜ちゃん様子見に行って正解だったね。
「てか、なんで言わんかったんよ!普通恋人に一番に言うじゃろ」
「えー」
「えーって…そんな頼りないかなぁ」
のっちは肩を落として溜め息を付いた。けど、ありがとう。気付いてくれて嬉しかったよ?
◆2-7:End◆
最終更新:2008年10月12日 19:16