さっきまで子供のような可愛い目をしていたのに、いつの間にかシフトチェンジしたのっちの目は真剣だった。あたしがそれを察して、コクッと唾を飲み込むと、のっちはそれに気付いて、大丈夫だよ、と優しい目をした。
突然沸いてきた感情が胸を焦がすなら、いっそ想うことをやめようとまで思ってた。
この感情で胸が痛むなら、もうココロはここになくていいんじゃないか、とまで思ってた。
…だけど、確かにここにあった。
それでも、のっちが大丈夫だよ、と目を細めて優しい笑顔を見せてくれたから、焦げても痛んでも、この感情を大切にしようと思ったんだ。
「あ〜ちゃん。」
いつもの、ベタッとした甘い声じゃない。余裕がある落ち着いた声でもない。
あたしのことを傷つけないようにと、気に掛けて気に掛けて。そんな時の少しだけ柔らかくて、少しだけ上ずった声。
…あぁ、触れたいのは二人とも一緒なんだ。
まるで壊れ物を扱うみたいに、優しく優しく抱き締められると、自然と鼻の奥がツーンとなった。
のっちの腕は少しだけ、震えていた。
大丈夫、あ〜ちゃんは壊れ物なんかじゃないから。
のっちの背中に腕を回して、それに答えた。頼りになる広い背中も、抱き締めちゃえば、なんだこんなにちっちゃいんだ。華奢な身体がいとしくて、無駄な肉がない骨っぽい背中が余計に心臓の音を速める。
このドキドキがどちらのものかわからないけど、違和感がないってことは、二人のもの、ってことだよね。
あたしが思うよりずっと、のっちはあたしを大切にしてくれてるし。
のっちが思ってるよりずっと、あたしはのっちのことが好きなんだよ。
「…た、大切にするから」
グッと体重をかけた身体が、トサッとベッドに転がった。あたしの上に重なったのっちは、首筋に顔を擦り寄せて何かを確認するみたいに深呼吸した。
のっちの短い髪の毛が頬にあたってくすぐったい。のっちの匂いがいつもより、より濃厚で照れ臭い。そのどれもがいとしくて仕方なくて、背中にまわした手のひらで今度はのっちの髪をといた。
のっちは肩をすくめて、また深呼吸をした。かと思えば頭をぐりぐり擦り付けて、甘えてるみたいな、そんな感じ。
あたしはたまらなくいとしくて、同じように何度も何度も髪をとく。
不意にのっちが目の前に現われたのは、しばらくたってから。のっちの目は少しだけ、赤い。
「…かみ、」
「ん?」
「きもちかった。」
照れた表情ひとつとっても、いとしくって仕方ないよ。今度は頬を包み込んで撫でた。
そしたら急にあたしの手をとって、シーツに押しつけるけど。それは乱暴なものじゃなくて、焦りみたいなものでもなくて。
優しく優しく押さえ付けられるのは、嫌じゃないよ。壊れ物を扱うみたいにしてたのっちから、少しだけ垣間見れた独占的。そんなことですら、嬉しくて仕方ないんだ。
「…あ〜ちゃんも」
「うん?」
「あ〜ちゃんにも、して?」
うん、と小さな声で頷いて、いーこいーこ、とあたしの頭を撫でるのっちの手はもう、震えてなかった。
どこで変わるのかわかんないけど、こうやってたまに、あっという間にのっちは強くなる。簡単にあたしを喜ばせてみせる。
「…すきだよ。」
「…」
「…あ〜ちゃんかわいすぎるよ。」
真剣な目をしながら顔を赤く染めて、のっちは優しく笑った。何も言えないあたしに、何も言わなくていい、と言ってるみたいに、のっちはあたしにキスをした。
それはとても、まるではじめからこうなることを望んでいたみたいに、いとしくって仕方なかった。
END
最終更新:2010年04月05日 22:15