パシャッ。パシャッ。
お気に入りのカメラに一枚、また一枚と風景や人が追加されていく。
さすが芸術の都。何気ないものでも、私の下手くそなカメラさばきでもそれなりにお洒落に記録されている。
いろんなものが目に入ってきて感覚が刺激されていく。
そこで初めて、日本ではいかに人目を気にして外出していたかを重い知らされる。
それにしても寒い。ねぇ、のっち、私の鼻また真っ赤になっ…
また、だ。
さっきから、いや、こっちへ来てからずっとだ。
お洒落なカフェを見つけても、おいしいマカロンを食べても、道端の子供が幸せそうな顔をしていても。
いつも感動や興奮を共有してくれるあなたは今ここにはいない。
そうか…いつものっちは隣にいてくれたんだ。
そんなことにも、こんなに離れた地に来て初めて気付かされた。
「かぜひかないように、あとお守り代わりに」
と貸してくれたお気に入りの大きなストールを、顔が隠れるくらいまで引き上げる。
まるで私を包んでくれている時のように香っていたあなたの匂いも、もう今は私の匂いと異国の風に掻き消されてしまっていて、そのことがますます寂しさを感じさせる。
今夜あたり電話してみようか。
でも異国の魅力とあなたに会えない寂しさはうまく言葉に出来そうにない。
声を聞けばきっとあなたの体温だって欲しくなる。
…距離って難しいな。
会っていれば、抱きしめ合ってさえいれば、言葉なんていらないのに…
寂しさだって愛しさだって、視線や息遣いで言葉以上に伝えられるのに…
早く会いたいな。そう思って東の空に携帯を構える。
海外からの写メってちゃんと届くのかな、そう考えながら撮りたての画像を添付する。
『今日もいい天気です。お土産も買ったし明日日本へ戻るね。次は一緒に来ようね。』
最終更新:2010年04月05日 22:21