「寒いから旅館に行こう」
のっちがとうとう痺れを切らした。
あ〜ちゃんはまだここに居たそうな感じだったけど、さすがにゆかも寒くなったから海を離れることになった。
「あー疲れた〜」
そう言って畳にゴロンと寝転がったのっち。
「ゆかちゃん。夕ご飯まで時間があるから温泉いかない?」
「いくいく!」
「のっちは?」
「ゴロゴロしたいからふたりで先行ってきていいよ」
「ふーん。じゃ、ゆかちゃん行こw」
「うん」
ゆかとあ〜ちゃんはのっちを部屋に残し、温泉に向かった。
大浴場は運よく誰もいなくて、ふたりで貸切状態。
ん、そういえば・・・あ〜ちゃんと一緒にお風呂って・・・。
めっちゃ恥ずかしいんだけど・・・。のっちがいなくてよかった・・・。
「ゆかちゃん、細いね。羨ましい〜」
「えっ!嘘!細くなんかないよ。羨ましいのはあ〜ちゃんだよ」
「えーどうして?」
「だって胸おっきいじゃん・・・」
て、言いながらあ〜ちゃんがのっちに胸を揉まれてるところを想像してしまった。
ヤバイ、全身から火が出るほど恥ずかしい。てか、もろに変態じゃん。
ゆかはそれを隠すように鼻までお湯に浸かった。
「夕飯、スキヤキだって。楽しみだねw」
あ〜ちゃんは髪が濡れないようにピンで留めてる。
白いうなじが綺麗。なんとなくのっちがあ〜ちゃんに欲情するのがわかった気がした。
「今日なんでゆかも誘ってくれたん?」
ゆかの心の奥にあった小さな疑問をあ〜ちゃんに投げかけた。
「ん?だって三人の方が楽しいじゃろ?」
「そうだけど・・・。だって次の日あ〜ちゃんの誕生日じゃん」
「あっ。覚えとってくれたん?嬉しいw」
「だからゆかが居ない方がよかったんじゃない?」
「なんで?」
「だってのっちとふたりっきりでお祝いするんじゃなかったの?」
「んー・・・。ちょっと自信ない」
「え?なにが?」
「ゆかちゃんはすごいよね」
「へ?」
「だって本当にのっちと仲良くなったんじゃもん」
あ、あれ?なんか微妙に話はぐらかされてる気がするんだけど。
「すごいよ。やっぱりあ〜ちゃんの直感は間違ってなかったんよ」
「直感?」
「うん。ゆかちゃんと知り合った時から思ってたんよ」
「なにを?」
「ん?あぁ。『のっちとゆかちゃんは似てる』ってw」
「え。ゆかとのっちが?似てる?」
「似てるよ〜」
えー、あ〜ちゃん何言ってるの?全然似てないじゃん。
「そう。ふたりは似てるからきっと仲良くなるって。したらほんとになったんじゃもん。ビックリしたわ〜w」
「そ、そうんなん?」
「そうだよ〜。だからのっちのことよろしくね」
あれ?温泉でのぼせちゃったのかな?
あれ?頭がボーっとするよ。
あれ?目がチカチカする。
あれ?いま、あ〜ちゃんなんて言った?
「ゆかちゃん!!」
あ〜ちゃんの声で視界が戻った。
気がついたらゆかは布団に横たわってた。
キョロキョロするとのっちが部屋にあったA4のクリアファイルでゆかに風を送ってくれてた。
「ゆかちゃん、のぼぜちゃって倒れちゃったんよ」
「マジ・・・。心配かけてごめん」
「あ〜ちゃんビックリしちゃって、ケータイでのっちに電話掛けて助けてーって叫んじゃったもんw」
「そうだったんだ・・・」
ゆかはのっちを見る。のっちはハノ字眉になって優しく微笑んだ。
えっ。
てことは、のっちに裸見られたってこと・・・。
やだ。すんごい恥ずかしい。なんだこのジワジワくる恥ずかしさ。穴があったら入りたい。
「じゃあ、ここに運んでくれたのも・・・のっち?」
「そうじゃよ」
のっちの代わりにあ〜ちゃんが答えてくれた。
「のっちっていつもはボーっとしてるけど、ピンチになるとスーパーマンになる人だから」
ねって言いながらのっちの肩をポンと叩くあ〜ちゃん。
のっちは何言ってんの?って顔してる。
「だからピンチになったらのっちに電話すればピューって助けてくれるよ。ゆかちゃん、覚えといてね」
「う、うん」
なんか変なあ〜ちゃんだなって思いながら、ゆかのせいで予定より30分遅くなっちゃったスキヤキを食べた。
スキヤキを食べ終わったらのっちは温泉にいった。
あ〜ちゃんは家族におみやげ買うって行ってロビーにいった。
ゆかもあ〜ちゃんと一緒に行こうとしたけど、まだ安静にしてたほうが言われたから部屋でお留守番。
「あれ?のっちまだ?」
あ〜ちゃんが帰ってきた。両手にはお土産袋。
「うん」
「あ。これアイス。一緒に食べよ〜」
「ありがとw」
あ〜ちゃんからもらったバニラのカップアイスを食べる。
ほどよく溶けてて食べやすかった。
アイスを食べてる間、ゆかとあ〜ちゃんはお互いに喋らなかった。
なんだろ。変な感じ。いつもこういう時って、あ〜ちゃんが話を振ってくるのに。
黙々とアイスを食べるあ〜ちゃんはあ〜ちゃんじゃないみたい。
「あの、さ・・・」
「ん?」
「ゆかがお風呂でぶっ倒れる前にさ・・・」
「うん」
「あ〜ちゃん、ゆかになんか言いかけたよね?」
「え?・・・」
ガラっ。
のっちが温泉から戻ってきた。
タイミング悪っ。
「あー!アイスじゃん。いいなー。あたしの分ある?」
「ないよ」
「えーなんでよ!」
「だって二個分のお金しか残ってなかったんだもん」
「そうなんだ。じゃあ、あ〜ちゃんの半分ちょうだい?」
「んもー。しょうがないけぇ。はい」
「ありがと。あっそうだ。ゆかちゃん、もう大丈夫になった?」
「うん。大丈夫。心配かけてごめんね。ありがとう」
そっかって言ってニカって笑うのっちはいつも通り。
それから仲居さんが川の字に布団をひいてくれた。
なぜかゆかが真ん中に寝ることになった。
右を見たらゆかに背を向けてあ〜ちゃんが寝てる。
「あ〜ちゃん・・・。寝ちゃった?」
「・・・」
返答なし。寝ちゃったのか。
ぐるっと左に寝返りをうったら、となりののっちが天井をみつめてる。
「のっち?」
あ〜ちゃんを起さないように小さい声で呼ぶ。
のっちは天井を見つめたまま、「ん?」って返事した。
「起きてる?」
「んー」
「今日、ごめんね・・・」
「ん?」
「お風呂で倒れちゃって・・・」
「あぁ。気にしないでいいのにw」
「なんか、邪魔してごめんね」
「ジャマ?ゆかちゃんが?」
「うん」
「ふふ。そーんなこと全然ないのにwむしろ、いてくれてよかったよ」
クルッと寝返りをうったのっちと寝ながら向かい合わせになる形になった。
「大丈夫だよね、、、」
「ん?なにが?」
「なんかふたりとも、ゆかの前からいなくなっちゃうような気がしちゃって」
「・・・大丈夫だよ。あたしも綾香もいなくならないよw」
よしよしって赤ちゃんをなだめるように、のっちの手はゆかの頭を撫でてくれた。
そのまま、ゆかは眠りについた。
寝付くとき、あ〜ちゃんとのっちの声が微かに聞こえたような気がした。
それは現実なのか夢の始まりなのかわからないけど。
最終更新:2010年04月05日 22:33