のっちは車を思いっきり飛ばした。信号無視を2回した。
警察に見つからなくてよかったって、そんな悠長なこと考えてる暇なんてないくらい切羽詰ってたってこと。
もしかして新しい彼氏になにかされたのかな?
てか、さっきゆか、あ〜ちゃんのこと引っ叩いちゃったよね?
かなり気まずい感じでわかれたよね?
なんか、あ〜ちゃんと顔合わせるの気が重いんだけど。
「綾香!!」
そんなゆかをよそにのっちは躊躇なく玄関の扉を開けた。
部屋は真っ暗だった。
少し胸騒ぎがした。
のっちはすぐ部屋の明かりをつけた。
部屋が明るくなった瞬間、目に飛び込んだのはうずくまってるあ〜ちゃん。
「綾香!!どした!!」
のっちはすぐあ〜ちゃんの元へ駆け寄って抱き寄せる。
「の、、、ち、、、ハァ、ハァ、、くる、、し、」
あ〜ちゃんは息が上がってて上手く喋れてない。
これってもしかして・・・。
「過呼吸かも・・・」
「カコキュウ?なにそれ?どうすりゃー、治るの?」
「えっと、、、紙袋!紙袋の中で息すれば治ったと思う」
たしか中学校の頃同じクラスの女の子が同じ様な症状になって、紙袋使って治った覚えがある。
「紙袋なんてないよ」
「たす、け、て、、、、ハァ、ハァ」
のっちはあ〜ちゃんに付き添ってるから、かわりにゆかが袋を探した。
でもなかなか見つからない。
「綾香、大丈夫だから。あたしがいるから」
のっちは優しくあ〜ちゃんを横にする。
あ〜ちゃんはのっちの胸元をギュッと硬く握ってる。
「はぁ、はぁ・・・」
しばらくするとあ〜ちゃんの呼吸が落ち着いてきた。
「綾香・・・」
「のっちぃ!!」
呼吸が元に戻ったあ〜ちゃんはのっちの首に抱きついた。
まるでのっちが紙袋の役割をしたみたいにあ〜ちゃんの過呼吸は治った。
「死ぬかと思った、、、怖かったよぉぉ」
「うん、うん。もう大丈夫だよ」
泣き出したあ〜ちゃんをのっちは優しくなだめてる。
とりあえず大事に至らなくてホっとした。
ホっとしたけど、なんであ〜ちゃんは過呼吸なんてなったの?
てか、彼氏は?なんで部屋が真っ暗だったの?
色々訊きたかったけど訊ける状況じゃない。
そもそもこの状況、結構辛い。
帰りたい。なにもかも気まずい。
「あ〜ちゃん大丈夫そうだから、ゆか・・・帰る、ね?」
「あ・・・」
ゆかに声を掛けられるまでのっちは、ゆかのことを忘れていたかのような顔をしててますます辛くなった。
「待って・・・」
玄関に向かおうとしたら、あ〜ちゃんに呼び止められた。
「なに?」
「これ。ケータイ」
「あ・・・忘れてた」
あ〜ちゃんから忘れてった携帯を受け取る。
「ごめん、ゆかちゃん」
「え?」
涙目のあ〜ちゃんがまっすぐゆかを見つめる。
「やっぱり、のっち返して」
「は?」
「返して、、、」
「返してって言われても・・・てか、あ〜ちゃんさっき彼氏来るって言ってたじゃん・・・」
「そんなん嘘に決まってるじゃろぉ・・・・」
あ〜ちゃんはそう言って両手で顔を覆って泣き崩れた。
「え?えっ?え・・・」
ゆかは急に泣き出したあ〜ちゃんにオロオロするばかり。
え?なに?彼氏できたって嘘なの?なんでそんな嘘つくの?
わけわからなすぎて頭がついていかない。
玄関で泣き崩れたあ〜ちゃんをのっちは優しくリビングに連れて行った。
帰ろうとしたけど、あ〜ちゃんの言葉の続きが知りたくて一緒にリビングに戻った。
「あ〜ちゃん、ちゃんと話して?」
あ〜ちゃんをソファに座らせてのっちが優しく問いただす。
「彼氏なんて嘘。好きな人が出来たってのも嘘、、、」
「どうしてそんな嘘ついたん?」
ゆかはわけわからなくて話の途中で訊いてしまった。
「そう言えばのっちが納得してくれると思ったから。のっちを自由にしてあげられると思ったから」
「あたしを自由?なにそれ?」
「だって、あ〜ちゃんがいるとのっちはダンサーの仕事、のびのびと出来んじゃろ・・・」
「なっ、、、そんな、ことない、よ」
「そんなことあるけぇ。きっとまたこの前みたくなっちゃう。あ〜ちゃんはのっちのそばにいたいの。でもそうするとのっちは仕事出来なくなるじゃろ?」
「出来るよ。てか、別にダンサーの仕事しなくても今までのインストラクターで十分なんだけど」
「我慢せんでええよ。あ〜ちゃん知っとるよ。またダンサーのオファーきてること」
「・・・誰に聞いたの?」
「この前、スクールに顔出した時に受付の人が教えてくれたん」
「受けないよ。もうやらないよ。バックダンサーなんて。もうあ〜ちゃんのそばにいるって決めたんだから」
「嘘だ。ほんまは踊りたくて踊りたくてしょうがないくせに・・・」
「仕事よりもあ〜ちゃんの方が大切だよ!」
「・・・だから、嘘ついたんよ」
「え?」
「もう、のっちの重荷にはなりたくないの。のっちはダンサーが天職なんじゃからそれを邪魔したくないんよ・・・」
「重荷になんて思ってないよ!何言ってんだよ」
「重荷じゃ。仕事ってわかってても、のっちがそばにいないと嫌なわがままなあ〜ちゃんなんて重荷以外になんて言うんよ」
「あ〜ちゃん、、、」
「そんな自分を嫌いになってほしくて、わざとのっちのこと避けてた。だから無断外泊とかケータイ無視してたん」
「え・・・」
呆れた。
この人たちはバカだ。
お互いを思いやりすぎて空回りしてる。
「そんな回りくどいやり方しなくても、一言『嫌いになった』って言えばよかったじゃん」
そんなセリフが思わず口から漏れてしまった。
「言おうとしたよ。何度も、、、」
そのセリフにあ〜ちゃんは答えた。
「でも、言えなかったんよ」
「どして?」
「嘘でも、のっちが嫌いだなんて言えなかった」
完敗だ。
別に戦ってたわけじゃないけど、勝てないよ。
逆にこのふたりは別れられないでしょ。
お互いを愛してるのに別れるって選択を選ぶのが間違えてるよ。
そんなのバカげてるよ。
ちゃんと話し合えばいいじゃん。
話し合えばすんだことじゃん。
結局相手のことを想いすぎてこんがらがっちゃっただけじゃん。
そんなのにゆかを巻き込まないでよ。
「ゆかちゃん!!」
あ〜ちゃんの部屋を出てエレベーターを待ってるとのっちが来た。
「なに?」
「あ・・・えっと、その、、、なんか、ごめんね」
「ふふ。もういいよ。これで一件落着でしょ?」
「うん。そーだね。色々迷惑掛けちゃってごめん」
「なんか、のっち謝ってばっかだよ?」
「えぇ?そう?」
「じゃあね」
「あ!」
「ん?」
「綾香のこと嫌いにならないで・・・」
「それ言うと思ったw」
「えっ?」
「なるわけないじゃん。ちょっとムカついたけど、やっぱりゆかもあ〜ちゃん好きだもん」
「ありがと、、、」
「・・・のっち前髪伸びたね」
「そう?」
ゆかはのっちに近付いて彼女の前髪を触る。
「知ってる?」
「ん?なにが?」
「初めてあ〜ちゃんち来た時さ」
「うん」
「エレベーターで上がろうとしたらのっちが先に乗ってて、一緒に乗ろうとしたらのっちドア閉めちゃったんだよ?」
「あぁ!あれねw」
「覚えてたの?」
「うん。覚えてる。待ってってゆかちゃん叫んでたよね?」
「うん。叫んだwでも、のっち無視していっちゃったんだもん。あれ、結構悲しかったんだよ?」
「ごめんごめん。ゆかちゃんに気付いてボタン押したんだけどさ〜。間違えて閉まる押してたんだよねw」
「えぇぇ!?そうだったの?なんだ、無視したんじゃなかったんだ」
「うん。それにあたしが家のドア開けてキョトンとしてるゆかちゃんの顔も今でも覚えてるよw」
「・・・ねぇ、目つむって?」
「え?な、なんで?」
「いいから!」
「わ、わかった」
のっちはゆかの言うとおりに目をつむった。
巻き込まれた仕返しにキスしてやろうと思ったけど、やっぱり止めた。
キスしてもいい事はなにも起こらないから。
やっと一段落したのにまた嵐を吹き戻すのも嫌だし。
第一、この人ゆかの気持ちわかってないでしょ。
あ〜ちゃんしか見えてないもんね。
「もう、あ〜ちゃんのこと不安にさせんなよ!!」
ちょっと強くのっちの肩を叩いた。
「痛っw」
やっとエレベーターが着いた。
ゆかはそれに乗って1Fのボタンを押したけど、ドアが閉まらなかった。
それはのっちが閉まるのボタンじゃなく開くのボタンを押してたから。
「ちょっと、なに押してんの!?放してよw」
「ゆかちゃん・・・ごめん、ね」
のっちはお得意のハノ字眉。
なんでそんな申し訳なさそうな顔してんの?
なにに対しての”ごめん”なの?
第一、あんたゆかの気持ちわかってないはずでしょ。
あ〜ちゃんしか見えてないはずでしょ。
「っ、、、あ〜ちゃんのこと、不安にさせんなよ」
「・・・はは。それ、さっき聞いたよぉ」
「うん。知ってる」
「大丈夫。もうさせないよ」
「そっか。じゃあ・・・ばいばい」
「うん。気つけてね」
そう言ってのっちは閉まるのボタンを放してくれた。
不思議と涙は、出なかった。
なんの涙が出てほしかったのはわからないけど。
「ふうぅぅ・・・」
小さいエレベーターの中でひとつ息をする。
樫野有香21歳。
今日、完璧にこの恋の終止符をつけた。
最終更新:2010年04月05日 22:45