『あっ、もしもし。あ〜ちゃん?』
『うん。ゆかちゃんどしたん?』
『あんねー、今日ちょっと遅れるかもしれん』
『えーマジ?どれくらい?』
『んー、でもそんな遅くならないよ?遅くて30分くらいかな?』
『わかった〜。忙しそうじゃもんねw』
『まー、うちは弱小だしw今、人がいないからね〜』
『三人で会うの久しぶりじゃろ?あ〜ちゃん昨日からワクワクしとったもん』
『あはは。ゆかも同じだよw』
『てか、今電話大丈夫なん?』
『んー平気。今お昼だから』

あ〜ちゃんとのっちと知り合って早3年が経った。
ゆかとあ〜ちゃんは無事大学卒業して、あ〜ちゃんは念願の保育士にゆかは出版社に勤務が決まった。

のっちはバックダンサーの仕事を本格的に始めた。
全国津々浦々回ってるらしい。
たまにあ〜ちゃんと一緒にのっちが出てるライブに行ったりしてる。
ステージで踊ってるのっちは誰よりもかっこよく誰よりも楽しそうなんだ。

ふたりはまた一緒に住んでる。
なんだかんだいって仲がいいんだ。

あれから大きな喧嘩はないみたいだし。
たまにあ〜ちゃんからグチっぽいのを聞かされるくらい。

あの後、ゆかはあ〜ちゃんに自分の気持ちをはっきり伝えた。
もうのっちの事は終わったって。包み隠さず告げた。
あ〜ちゃんはクシャって泣きながら笑ってたのを今でもたまに思い出す。

あの時ちゃんと自分の気持ちを言ったから、今もあ〜ちゃんとは親友。

のっちも親友。
もうふたりでいてもグラって揺るがない。

時間がゆかの気持ちを和らいでくれた。
時間ってすごいね。
あんなに好きだったのに自然と愛情から友情に変わっていくんだもん。




『あっそうだ!ゆかちゃん!見たよ〜あれ!!』
『ん?あれって?』
『ほら、あれじゃけぇ。この前言ってたじゃろ?雑誌のコンテストに受かったってやつ』
『あー・・・あれねw見ちゃった?』
『そらー見るわ。だってあの写真うちらでしょ?いつ撮ったん?』
『あー、ほら。前にイチゴ狩り行ったでしょ?あん時よw』
『そうだったん!まー、ちゃっかり撮ってたんねw』
『うん。盗撮しちゃったw』

実は今出版社に勤めながらカメラの勉強を独学でやってる。
運よくうちの編集長がカメラに詳しいからそのつてで雑誌のアマチュアのコンテストに応募した。
まー、腕試しってことで軽い気持ちで応募したら一番小さい賞をもらってしまった。

応募した写真はあの時海でふたりの後姿を写したもの。
バックが海だし夕暮れだったし、なんか雰囲気がよかったから出してみた。
ふたりは逆光で顔が見えなくなってたからなんとなく内緒にしちゃった。

『んでね、この雑誌のっちに見せたんよ』
『マジ?なんか言ってた?』
『うん。”ゆかちゃん、すげー!!すげー!!”って嬉しそうに言ってたよ』
『なんか照れるわw』
『そんで、”これって著作権の侵害じゃね?”って言ってた。まー、冗談だけどねwしかもあいつ、”著作権”って言えなくて噛みまくりなのw』
そう言ってるのっちが余裕で想像出きる。
思わず笑いそうになった。

『ゆか、あ〜ちゃんとのっちに会えてほんとよかったと思ってるよ』
『えー急にどうしたん?なんなん?』
『なーんもないよ。だたそう思っただけだよwだってふたりに会わなかったらその写真も撮れなかったしさ』
『あーそういうことね。・・・でも、ゆかちゃんならうちらと出会わなくても賞は取ってたと思うよ?』
『そうかな?でもふたりに会ってなかったらきっと広島に帰ってたと思う』
『それは、あ〜ちゃんも一緒じゃ』
『え?』
『ゆかちゃんと出会ってなかったら、のっちと別れてたよ。きっと。ゆかちゃんのおかげだよ。ありがと』
『ううん。ゆかこそありがとね』
『うん。・・・てか、うちらなんでこんなしみったれた話しとるん?』
『そういえば、、、なんか気持ち悪いねw』
『ほんまじゃね。あはは』
電話越しにあ〜ちゃんのバカ笑いが聞こえる。
それにつられて思わず笑いそうになった。

『あっそうそう。話戻るんだけどさ〜。この写真のタイトルがよくわからんのじゃけど』
『えっ?タイトル?』
『うん。なんでキスアンドダンスなん?しかもキスは小文字でダンスは大文字でさ。なんか意味あんの?てか、写真と全然関係ないタイトルよねw』
『あぁ。それね・・・なんとなくぅ?』
『えー、なんとなくで付けたん?』
『うん。なんかノリでぇ?つけちゃった。イヒヒ。意味なんてないよ』
『ないのかよ!?』

『あはは。ないよ。ないない全然ないw』

『・・・なんそれ?ゆかちゃんって、たまによくわからんこと言うよね』
『あはは。わからなくていーの!じゃ、ゆかそろそろ仕事戻らなくちゃいけないから切るね』
『わかった。じゃあまた夜にね〜』
『オッケー』



あ〜ちゃんとの電話を切って時計を見ると会社に戻らなきゃいけない時間になってた。
でも会社に戻る前に一旦家に帰って書類を取りに行かなきゃ。
ゆかは急いで家に戻る。ていっても会社から歩いて10分の距離だからそんな慌てないでいいんだけどね。

アパートの廊下に着くとゆかの隣の部屋の前で荷物を広げてる人がいた。
隣の人かな?そう言えば、どんな人が住んでるのか知らないんだった。
なんか探してるのかな?あっ!もしかして家の鍵なくしちゃったのかな?

あれ?

これってさ。
もろあ〜ちゃんとのっちが出会ったシチュエーションじゃない?

そう思ったら妙にドキドキしてきちゃった。
声掛けてみようかなって思ったその時、目が合った。

合った瞬間、わかった。
「ないわ」
そう心の中で呟いてゆかはすぐ中に入って書類を取って部屋を出た。

「あははwやっぱ、なかなかないもんだね〜。運命の出会いってやつはw」
思わず独り言。
周りに人がいなくてよかった。

「お?」
携帯が震えた。
のっちからの電話だ。

『もしもし、のっち?』
『意味ないのかよ!?』
『は?なにいきなり!?・・・あぁ、あ〜ちゃんに聞いたんだw』
『うん。今電話掛かってきたのよ〜』
『ふーん』
『あれ?ゆかちゃん、なんかあたしに対してそっけなくね?w』
『あー、気のせい気のせい』
『わーすげー棒読みだしw』
『あはは』
『あたしなんかさ、すんげー意味ありげなタイトルだから、変に深読みしちゃったんだけどw』
『えーそうなん?もー意味なんてないからw』
『てか、すごいよね。賞取っちゃうなんて。おめでとう』
『・・・ありがと』
『しょしゃくけんの侵害だけど・・・て、言えてねー。噛んじゃったw』
『あはは』
『・・・あたしは意味あると思ってるよ』
『え?』
『ゆかちゃんは意味はないって言ったけど、意味がないものなんてないよ・・・なーんてねw』
『なんだそれww・・・じゃあ、ゆかがあ〜ちゃんとのっちに出会ったのも意味があるの?』
『あるよ。大ありだよ』
『どんな意味よ』

『運命』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

無邪気で可愛い彼女に憧れて心から羨望した

無愛想で綺麗な彼女に恋して心から絶望した

それはあたしのしらない世界にいたふたりが教えてくれたこと。

そしてこの広い広い世界であたしは今日も生きていく。

愛と夢を手にして生きていく。


— Fin —








最終更新:2010年04月05日 22:49