「うわっ・・・」
まるであの時の学祭のライブを見ているようだ。
ていっても、ここは横浜アリーナだから。あのライブよりも数億倍の音響と盛り上がりだけど。
それにしてもスタンドからでもすんごい迫力。
まー、今日がツアーの千秋楽ってのもあるんだろうな。
やっぱりあたしは関係者席で見るよりもこうやって立ち見で見る方が合ってるんだ。
おいおい、地面が揺れてるよ。
あっ、鳥肌。あ〜ちゃんの言葉を借りるならバードスキン?
やっぱり歌ってるあ〜ちゃんは一番キラキラしてていい顔してるよ。
スポットライトなんて当たらなくたってキラキラしてる。そりゃそうだ太陽だもんね。
ここにいる観客はまた一層あ〜ちゃんの虜になっちゃうんだろうな。
こうやってステージに立ってるあ〜ちゃんを見ちゃうと、あたしなんかが独り占めしちゃいけないんだろうなってつくづく思わされる。
あ〜ちゃんが遠い。物理的にも精神的にも。
あの頃、あ〜ちゃんが海外にいる時は逆に近く感じたんだけどな。
自分の恋人に対してこんなにも喪失感を持ってるのはなんなんだろう。
あぁ、もう恋人じゃないんだっけ?
正確にはあ〜ちゃんの返事を聞いてないから、きちんと切れたわけじゃないけど。
もう自分の気持ちがわからなくなっちゃったよ。
それはお互い仕事で忙しくなっちゃったからかな。
それとはまた違う理由なのかな。
あたし、バカだからよくわからないよ。
あたしのあの時の判断は間違ってないよね。
間違ってないからこうやって今もあ〜ちゃんの歌を聴けるんだよね。
気付けばあ〜ちゃんは、若い子に絶大的な人気を誇るガールズバンドのボーカルになってた。
あたしはそんなあ〜ちゃんの背中を追って、小さな美容院での仕事からヘアメイクの事務所に飛び込んでいた。
ていっても、向こうは芸能人。
あたしはヘアメイクって言っても、まだ見習いの立場。ぺーぺー。
そう。
立場が違うんだ。
あの頃みたいに、同じ立場じゃないんだ。
制服を着ていたあの頃みたいに同じじゃなくなったんだ。
なら子供のままでよかった。
大人になりたくなかった。
あの頃の気持ちはどこいっちゃったんだろ。
探せば見つかるかな。
それとももうなくなっちゃったのかな?
このライブが終わったら何か答えがみつかる?
バカなあたしは見つけられる?
そうこう言ってるうちに本編が終わっちゃったよ。
会場のファンの人たちのアンコールの声が痛いほど聞こえる。
きっとあ〜ちゃんは裏からその声を聞いて感激してんだろうな。ふふ、目に浮かぶよ。
あたしのとなりの高校生くらいの女の子が感動して泣いてるよ。
あ〜ちゃんすごいよ。あ〜ちゃんの歌を聴いて感動して泣いてる子がいるんだよ。
あんな低俗なスキャンダルなんてもうみんな忘れてるよ。
よかったね、あ〜ちゃん。ファンの人たちはちゃんとあ〜ちゃんの事わかってるんだよ。
だからもう泣かないでいいんだよ。あ〜ちゃんはあのクシャってえくぼが見える笑顔が一番似合うんだ。
やっぱり、あ〜ちゃんはスポットライトに当たる人なんだよ。
ちっぽけなあたしと一緒にいたらもったいない人なんだよ。
あっ、アンコールが始まった。
ほんと楽しそうだ。ステージいっぱい走り回ってるあ〜ちゃんを見るだけで、不思議と元気になるんだ。
やっぱりあ〜ちゃんは太陽だよ。
太陽だからこのくらいの距離でいいんだよ。
近すぎると焦げちゃうんだ。あたしには耐久性が備わってなかったから焦げちゃったんだ。
手が届かない距離で十分なんだ。
『えっと、実はスタッフさんには内緒にしてたんですけど・・・』
アンコールを3曲歌い終わったあ〜ちゃんが神妙な声で、会場のファンの人に語り始めた。
『もう1曲歌いたいと思います』
もちろん会場は今まで以上にヒートアップ。
『わー、ありがとうございます。あっ、今イヤモニから監督に「これ以上時間延ばすな」って怒られちゃいましたけど、強行突破しますねw』
さらりと笑いをとるMCは相変わらずお手の物だね。
『実は今から歌う曲はあたしが初めて詩を書いたものです。ある人を想いながら書きました』
会場がざわめき始めた。
あたしはドキっとした。
『あっ、その人は、、、その・・・あの、噂になった方じゃないです・・・』
あ〜ちゃんはそれから淡々と語り始めた。
その間あたしはきっとこの会場にいる誰よりも心臓の鼓動が早かったと思う。
『・・・で、あたしはその人を失いたくないから、あの頃の気持ちと変わってないから、それを伝えたくてこの歌を歌います』
スポットライトに照らされてるあ〜ちゃんと目が合った気がした。
そんなわけないか。こんな広い会場であたしを見つけられるはずないもの。
だってあたしのチケットは関係者席用だもん。立ち見の場所にいるなんて思ってないでしょ?
『では、聴いてください』
静まり返ったアリーナから、あ〜ちゃんの歌声が流れてきた。
それを聴いて自然と涙が出てきた。
この涙はあの頃流した涙と一緒。
あ〜ちゃん・・・やっぱり好きだ。大好きだ。でもさ、大人になると”好き”だけじゃダメなのかな?
〜5年前〜
「よかったね」
「へ?」
「あ〜ちゃんとこ行ったんでしょ?」
「はい。え・・・なんで知ってんですか?」
「だって、先生あ〜ちゃんとメル友よ?」
「あっ、そっかw」
「てか、授業出なさいよ。保健室で堂々とサボるな!」
「えーだって生物嫌いなんだもん」
「嫌いでも出んさいよ!みんなここでサボるから先生困ってるんだから!」
「・・・はーい」
保健医のゆかちゃんに追い出されて、あたしは渋々教室に戻った。
トボトボ廊下を歩いてるとブレザーに入れてた携帯が震えた。
ディスプレイを見ると『あ〜ちゃん』の文字。
あっ!メールだ!
さっきまでローテンションだったけど、あ〜ちゃんのメールで一気にハイテンションにシフトチェンジ。
『のっち〜。元気?あ〜ちゃんは元気だよ〜。
ビックニュース!!
日本に帰れることになりました!!
ていってもあと1年後だけど(涙
そんで日本の大学に行くことにしたよ。
あと1年待っててくれる?
会えなくてもいつものっちのこと想ってるからね(ハート』
おおぉぉぉ!!!
メールの内容でさらにハイテンション!!!
あたしは嬉しくなって、あ〜ちゃんに速攻メールを打った。
『のっちも元気だよ!!あ〜ちゃんからのメールでさらに元気になっちゃったよ(笑
ビックニュースすんごい嬉しい!!あ〜ちゃんのためなら1年でも10年でも100年でも待つよ!!
のっちは卒業したら美容師さんの学校に行くことになったよ!
そんで免許取ったら一番最初にあ〜ちゃんの髪カットしてあげる(ハート』
『のっちに髪切られたら変にされそうだからお断りします(笑』
『どんだけのっちのこと信用してないんよ!
のっちは未来のカリスマ美容師だよ(笑』
『ハイハイ』
『えー、なにその素っ気無い感じ(笑』
『てか、今の時間って授業中じゃないの?メールしてて大丈夫なの?』
『そうだけど、生物嫌いだからサボってるの(ハート』
『アホ!!ちゃんと授業受けんさいよ!!』
『えぇ〜!?最初にメールしてきたのはあ〜ちゃんからでしょ!』
『だってそれは日本に帰れること早くのっちに教えたくてしょうがなくだもん』
『うは。あ〜ちゃん可愛いすぎる。好き。大好き。超大好き。(ハート』
『あ〜ちゃんも負けないくらいのっちのこと超超ちょーーー大好きだよ(ハート』
あたしたちは会えない間、端から見ると恥ずかしくなるような、こんなメールや電話のやり取りをしてた。
高校生って立場だから何度も海外に行けるほどの経済力なんてないし。
でもあと一年の辛抱ってわかってるから、そんなに悲観的にならなかったし。
メールと電話でも十分だった。
会えない時間と会えない距離をお互いの”好き”って気持ちでカバーしてた。
あ〜ちゃん・・・あたしはあの頃が一番楽しかった気がするんだ。あなたはどう思った?
最終更新:2010年05月17日 20:53